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灰彩ネゼムと世界写本  作者: 豊豆樹(ほうずき)ゆうちく
9/27

ネゼムと二人?旅2

いつか「果ての果て」へ行こう――



 ※話の進行は遅いです。投稿速度もゆっくりマイペースに行きます。

  完結目指してガンバルゾー٩( 'ω' )و


 エアコンの取り付けしてたら遅れました。

 毎回4000~5000を目安に投稿してるんですが、話の切りどころって難しいなぁ。

 森を歩く最中、思いだしたことを聞いてみる。


「そう言えばお前、さっき『果ての果て』って言ってたよな? お前もそこに行きたいのか?」


 果ての果ては俺が目指す先でもあるが、こいつの目的も同じだとしたら、どんな偶然だ。そう思って気になってはいたのだ。いろいろあって聞く機会を逃していたが。


 歩くのが面倒になったのか、再び本に戻って腰にぶら下がったリブカから声が聞えてくる。


「お前もとは?」


「ああ、俺も果ての果てに行きたいんだよ。今まで誰もみたことのない世界の果ての果て。そこになにがあるのか、この目で確かめてみたいんだ」


「ふーん、そ」


「なんだよ、そのどうでも良さそうな反応は。お前だって同じクチだろ?」


「一緒にするなです。私のはもっと崇高な使命なのです」


「崇高ねぇ」


「キリキリ歩くですよマスター。こんなペースじゃいつまで経ってもつかないのです」


「『学び舎』だっけ? わぁってるよ」


 手に持った本から聞えてくる声に、うんざりしながら返事をする。


 リブカが言うには、この森の中には賢者の祕国――インシュラがあるらしい。


――通称『学び舎』。


 国と言うよりも、賢者のたまり場のような所らしい。普段は森の何処かに魔術で隠されていて、そこでは最高峰の実力を持つ賢者たちが、誰にも邪魔されることなく、探究心にまかせて自らの研究に没頭している。


 賢者を目指す者は誰しもその一員になれることを夢見ているのだとか。


 研究ね。何をしているのかよくわからんが、そこはかとなく嫌な気分にさせられる言葉だ。リブカを封印したって言う賢者もその学び舎の出身者らしく、そこに行けば、まず間違いなく奪われたページがあるだろうとのこと。


「ほんとにわかってるですか? だったらもっと急ぐですへぼマスター。私の完成のために」


「お前はいちいち人の神経を逆なでしないとしゃべれないのか?」


 出発してからずっとこんな調子だ。いい加減なれてきたが、それにしてもなんちゅう口の悪さだ。町の奴らの罵声が可愛く思えるな。


 しかし、全然進んでいる感じがしないのは俺も同感だ。鎖で両手が使えないのもあるだろうが、そもそも道が悪くて上手く進めない。しかも、ここでもちょくちょく魔物に襲われるのだ。リブカが追い払っているから大した障害にはなっていないが。


「この辺は魔術で魔物よけがされてるって話じゃなかったのかよ」


「そのはずなのです。賢者の祕国が祕国と呼ばれるのは、単に魔物の蔓延る森の奥にあるからではないのです。周辺に認識阻害の結界が張られていて、魔物も人も容易には辿り着けないようになっているからなのです」


 なに、人も寄せ付けないのかよ。それは初耳だ。こんな森の中で迷ったら野垂れ死ぬ自信があるぞ。


「はぁ? ここはもう結界の内部なのです。まさか、気づかずに歩いてたです?」


 ということは、リブカのいたあの廃墟からして、すでに結界の中だったということか? 


「全く気づかんかった」


「アホすぎるです……」


「だけどよ。だったらどうして魔物が襲ってくるんだ。その話だと、ここには魔物だって入り込めないはずだろ」


「それはマスターのせいなのです」


「どういう意味だよ」


「そのままの意味です。マスターが魔物を引きつけてるのです。そうとしか考えられんです」


 そうとしかって、何を根拠に……。俺は何もしてないぞ。


「何もしてなくとも魔物を引きつけてるのです。変な体質のなのです……へんたい」


「略すな。それに変な体質にするな――」


 反論しようとした矢先、うなり声と共にまた魔物が姿を見せる。六つ足の狼だ。


「やれやれです――再現リバイブ空圧衝エアショック


 見えない空気の塊が魔物狼に襲いかかる。狼は鼻面を殴り飛ばされたように仰け反り、情けない鳴き声を上げて逃げていった。


 まただ。


 リブカが攻撃した瞬間、また力が抜ける感覚があった。これは鎖のせいで身体がだるいのとは別のやつだ。

 

「お前、俺に何かしたか。さっきからごっそり力が抜けてくんだけど」


「そりゃーそうです。私の彩能はマスターの魔力を使って発動してるですからね」


 またしても初耳だ。さっきまでのは魔力? を抜かれてる感覚だったのか。心の中身をがりがり削られるような嫌な感じだ。あんな空気の塊を出すだけで、もの凄く力が抜ける。このまま魔力を吸われ続けたら俺はどうなるんだ。


「マスターの魔力は癖が強すぎて、変換効率が悪いのです。だからあの程度でも魔力を膨大に消費してるですよ。質の悪いインク壺なのですー。その代わり量があるから良いですが……」


 人のことをインク壺呼ばわりかよ。というか、人のものを勝手に使っておいて質が悪いってどんな言い草だ。まぁそれは良い。よくないが、今はもっと大事なことを確認したい。


「その魔力? がなくなったらどうなるんだ。まさか死ぬのか?」


「魔力が尽きたって死にはせんです。せいぜい白目を剥いて気絶するだけです」


 リブカの答えにほっと息を吐く。死にはしないのか、よかった。ただ、気絶するとなるとそれはそれで問題だな。こんな崖に木が生えたような所で気絶したら大けがじゃすまないぞ。


 そんな会話をしながら、またしばらく歩く。急な下り坂は終わり、多少傾きが緩やかになってきた。しかし、未だに森の中。人の手が入っているとは思えない無秩序さで草木が生い茂っている。まさに手つかずの大自然だ。


「ほんとにこっちであってるのかよ。こんな場所に人が住んでるのか?」


「…………」


「おい、聞いてんのか? ……また寝たのか」


 廃墟をでて数日経つが、リブカは一日の大半を寝て過ごしている。人に歩かせておいて、自分はぐーすか寝てるんだから、呑気なやつだよ全く。まあ、案内がなくても森を歩くぐらいは問題ない。町にいる間、伊達に森を駆け回っていたわけじゃないからな。それなりに方向感覚はある。迷うことはない。


 リブカが寝ている間、俺は一人寂しく森を歩いている……わけではない。


「にゅ!」「もーん!」


 リブカが眠りに落ちてすぐ、中から馴染の『あいつら』が飛び出してきた。


 『こいつら』は結局何なんだろうな。リブカが寝ているときは出て来て、起きると消える。リブカ自体も謎なんだよな。本になったり人になったり。封印されていたことといい、気になることは多い。俺には関係のないことだと言ってしまえばそれまでだが。


「お前ら、リブカの身体の中に住んでるのか?」


「にゅ?」


「お前ら一体なんなんだよ。お前らは知ってるのか、リブカの言ってたこと。もし知ってるなら教えてくれよ」


「にゅーん……」


「いや、にゅーんでなくて……はぁ、まぁいいや。今はそれどころじゃないし」


 今はとにかくこの鎖を何とかしないと。コイツらとお喋りしている場合じゃない。リブカのページが戻れば、封印くらいどうにでもなるらしいし、急いで『学び舎』に行きたいところだ。


「あん?」


 ふと、妙なものを見つけ、足を止める。


 道なき道ばかりだったはずの森に、唐突に一本の道が横たわっていた。


 俺から見て左は、すぐに途切れ、険しい森が広がっている。


 問題は右だ。


 緩い上り坂と下り坂を繰り返す先に、まばらに木が生えている。それだけなら、見飽きた森の光景と言えなくもない。


 幹が地面と平行に伸びているんじゃなきゃな。


 遥か先に生えている木々は、まるで誰かに上から抑えつけられたかのように、一様に九十度ほど折れ曲がっている。にも関わらず、木々は何食わぬ顔で枝を伸ばし、青々とした葉をつけている。


 明らかに異常だ。


「にゅぅうん……」


 そして、もう一つおかしなものを見つけた。『あいつら』だ。今一緒にいるのとは別に何体か、木の枝にぶら下がったり、腰掛けたりしている。


 木の幹と同じく、『そいつら』も地面に平行になっている。さらに先には、きらきらと日の光を反射する何かが見えた。地平線に途切れてよくわからないが、ちいさな水溜りに見える。


 目がおかしくなったのかと思って何度も瞬きしてみるが、目の前に広がる光景は変わらなかった。


「にゅ!」「にゅもも!」「もるにゅも!」


「あ、おい!」


 奇妙な光景に尻込みしていると、俺の傍にいた『やつら』が道の先へ駆け出した。足が何処にあるのかいまいちわからない身体だが、とにかくそんな勢いで飛び出して行った。


 しかしその勢いは徐々に失われ、道を半分ほど言ったところで完全に止まる。


「にゅー……」


 そのまま勢いが死んだ『やつら』は、まるで坂を転げ落ちるように俺の元に戻ってきた。


「なに遊んでんだ……」


 しかしまぁ、多少上り下りがあるとはいえ、ほとんど平坦に延びる道を転がり落ちてくるなんて、器用だな。


 転がっていた『やつら』は身を起こすと、しゅんとした様子で本に戻っていった。何がしたかったんだ『こいつら』は……。


「う~ん。やっとついたです?」


 ようやくお目覚めか。リブカは人の姿になってあたりをキョロキョロと見回す。未だに森にいるのを知ると、途端に目を吊り上げた。


「おい、マスター。どうしてまだついてねーです? 本当に私を完成させる気があるですか? 私の力が戻らなければ、その鎖は一生解けないのですよ?」


「そんなことはわかってるよ。ギャーギャー言う前に、あれを見てみろよ」


 そう言って、顎をしゃくる。リブカは俺が示した先に目を向けると、あっと声を上げた。


「あれは! 私の『霊字』!」


 れい……何だって?


「マスター、早く私をあそこまで運ぶです! 疾く!!」


 俺の疑問など耳に入らない様子で、本へと戻り、しきりに『あいつら』がいるところに行けと繰り返すリブカ。


「落ち着けよ。あそこに行ってどうしろっていうんだ」


「あーもうわからんヤツです! 私のページを取り戻すには、あれに触れないといけないって言ってるですよ!!」


 何だと? それなら早くそう言えよ。どういう理屈かさっぱりだが、リブカの必死さを見れば、嘘を吐いたり担がれているということはないだろう。


 ということは、リブカのページを取り戻すためには、『あいつら』のいるところに行けば良いのか。


 そうすれば、この俺を封印しているという忌々しい鎖ともおさらばだ。


 これはついてるな。何処にあるかもわからん賢者の祕国を探さずとも、森を歩いているだけで偶然見つけてしまうとは。しかもあそこまでは何の障害も無い一本道。両腕を縛られていようが関係なく辿り着ける。


 いやぁ全く、日頃の行いが良いんだろうな。最近ついてない出来事ばかりが続いていたが、最後の最後、こういう所でツキが巡ってくるんだからよ。


 俺はリブカに急かされるままに、道に沿って駆け出した。


 しかし、『あいつら』のいる場所まで後半分といったところで、違和感に気付く。


「す、進まねぇ……!」


 全力で地面を蹴っているのに、少しも前に進めない。むしろ少しずつ後ろの下がっているような気さえする。何かに身体を押されているかのような奇妙な感覚。踏ん張っていないと、上半身が後ろに持って行かれそうになる。


 風か? 浮かんだ考えを即座に否定する。『あいつら』のいる枝の木の葉はそよとも揺れていない。なにより、走っている俺を押し返すほどの強風なら、目が開けられないほどの風圧を感じているはずだ。そんなものは一切ない。


 ならどうして……?


「うわっ!」


 ついに耐えきれず、地面から片足を上げたところで、引っ張られるままに後ろへと転がっていく。身を起こすと、元いた場所まで戻ってしまっていた。


「なに遊んでやがるですか! このアホマスター!」


「別に遊んでるわけじゃねぇよ!!」


 苛立ったリブカの声に思わず言い返す。


 それから何度か挑戦してみたが、どうしても途中から前に進めなくなり、転げ回りながら元いた場所まで戻されてしまう。


「くっそ……何がどうなってんだ……」


 口に入った砂を吐き出す。


 全く訳がわからん。


 だからこそ。一度落ち着いて観察してみる必要がありそうだな。


 何度見ても、道それ自体は何の変哲もない。緩い登りと下りを繰り返すだけの一本道だ。ただし、道の先の光景が妙だ。木々は九十度螺旋曲がり、そこにいる『あいつら』も地面と平行になっている。


「いつまでやってるです! 何も無い道を歩くのにどれだけ時間がかかってるですか? もう日が暮れかけているですよ。亀の方がまだ機敏なのです」


 悔しいがリブカの言うとおり、いつの間に時間が経ったのか、もう太陽が地平線にかかっている。


「…………?」


 いや、おかしいぞ。いくら何でもそれはない。今日はまだ出発して数時間しか歩いてないはずだ。なのに、どうして昼をすっ飛ばしてもう日が暮れかかってるんだ?


 空だって、夕焼けの赤ではなく、昼間のような青さを残している。太陽の位置だけがおかしい。これは……もしやとは思ったが。


 湧き出た疑問を晴らすために、手近な石ころを拾って投げてみる。手首のスナップだけではそう飛ばなかったが、この道の謎を知るには十分な飛距離だ。


 投げた石ころは、何度か地面でバウンドした後、徐々に勢いを失って止まった。そして、徐々に押し戻されるように地面を転がり、俺の方へ戻ってくる。


 なるほどな。そういうことか。これで、このおかしな道の謎は解けたな。


明日も投稿します。

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