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灰彩ネゼムと世界写本  作者: 豊豆樹(ほうずき)ゆうちく
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燃え滓と黒の襲来

いつか「果ての果て」へ行こう――



 ※話の進行は遅いです。投稿速度もゆっくりマイペースに行きます。

  完結目指してガンバルゾー٩( 'ω' )و


 烏じゃないです

 次の日、この日は朝から雲が多くて早朝は夜みたいに仄暗かった。当然煙突の中はより暗く、掃除も一段と大変だった。俺はいつも通り掃除をしたのに、親方が「まだこんなに汚れているじゃないか。もっとしっかり擦りやがれこの燃え滓!」と何度も難癖をつけてきたせいでいつもの倍は時間がかかった。


 そのせいで森にはいるのがいつもより遅くなってしまったのだ。


 そして、大概の場合において、悪いことというのは重なるものである。


 昼を過ぎても雲は晴れず、むしろ落ちてきそうなぐらい重々しい曇天に変わりつつある。


『ネゼム……ディ、ブーシハ、シハ……』


「はいはい。またそれか」


 いつも通り森の川辺で汚れを落とし、濡れた身体と服が乾くまでの間、『あいつら』の話に耳を傾けていると、森の奥から草を踏み分けるような音が近づいてくる。


「にゅっ」「にゅー!」


 その音を聞きつけて、『あいつら』は一斉に何処かへ散っていった。相変わらず良い逃げっぷりである。


「おやぁ? なぁんでこんな所に燃え滓がいるんだぁ?」


 そして、足音の正体が姿を見せる。町の人間だろうか、若い男が三人 、俺を見つけ見下したような笑みを浮かべる。手に斧を持っていたり背中に弓を背負っていたり、木を切りに来たのか、獣を狩りに来たのか、まぁ両方だろう。


 それはさておき、どうやら俺は隠れるのが絶望的に下手らしい。今回は割と森の深くまで来たし、道中もできるだけ下草を踏まないようにしたり人の痕跡のない方に進んだつもりだったのに、あっけなく町の奴らと鉢合わせてしまった。


「おい、燃え滓。こんな所にいたらダメじゃないか。さっさと消えろよ、森が穢れるだろ。獲物が捕れなくなったり木が腐ったりしたらどうしてくれるんだ」


 案の定、面倒くさい絡み方をして来やがる。町の外でまでこうなるのが嫌だから、わざわざ人目を避けてるってのに……空気の読めない奴らだ。言ってることも滅茶苦茶だし。


 呆れてものも言えないでいると、男の一人が背負っていた弓を手にした。


「調度良い。今日は獲物らしい獲物も見つからなかったしなぁ、穢れた魔物退治といこうぜ」


 ついに魔物ときたか。男が矢をつがえるのも見ても、残りの二人はそれを止めようとはせず、にやにやと笑っている。


「おいおい良いのかリウド、矢を無駄にするとオヤジさんに怒られるぜ」


「それにこいつが死んだら明日から誰が煙突掃除をするんだ? 掃除親方か?」


「あの腹じゃ無理だろ!」


「違えねぇ!」


 三人ともゲラゲラと笑い出す。楽しそうでなによりだ。俺はちっとも笑えないのでとっととこの場から立ち去るとするか。そう思って歩きだすと、足下に矢が刺さる。


「何処に行くんだ燃え滓? 勝手に逃げようとしてんじゃねぇよ」


 消えろと言ったり逃げるなと言ったり勝手なやつだな。


「どうでもいいけど、お前らは俺と遊びに森に来たのか? こんな所まで来て一匹も獲物を持ってないようだけど? 俺に絡んでる暇があったら、うさぎの一匹でも仕留めた方が良いんじゃないか?」


 森にはいくつか獣を捕まえるための罠が仕掛けられているはずだし、それを見て回るだけでも何匹かは成果がありそうなものだが、男たちからは血の臭いすらしない。


「まさか、仕事に来たんじゃなくて本当に遊びに来ただけなのか……? 仕事道具まで持ち出して……」


「黙れ! 喋って良いなんて言ってねぇだろうが!」


 にわかに男たちが怒りだした。図星だったか。通りで若すぎると思ったんだ。まだ十五になったかなってないかの奴らが、付き添いもなしに森をうろつくなんて妙だし、仕事に慣れた大人たちならこんな深い森まではまずやってこないしな。よくよく観察すれば、素人目にもコイツらが斧や弓を持ちなれてないのがわかる。


 弓を構えた男がもう一度矢を放つが、今度は上手く飛ばずに見当違いの方向に飛んで地面に落ちた。


「何処狙ってんだよ」


「っち、うるせぇよ! 次は当ててやる」


 男は悪態を吐きながらまごまごと次の矢をつがえている。これじゃ碌に狩りもできないわけだ。相手にしてられないし、何処かで巻いて今日は町に戻るか。そう考えたとき。


「あ、こんなところにいたんだ。珍しく探しても見つからないから、今日は来てないのかと……」


 背後からのんびりとした声がした。振り向くと川の向こう、町のある方向からやって来たシラが俺に手を振っている。シラは岸を渡ろうと川の中に入ってこちらに歩いてくる。


「来るな!」


「え?」


 弓を弾く音。


 俺の頭上を飛び越えた矢が、シラの腕を掠って木々の間に消えた。


「――っう!」


 その拍子に持っていたトレーから手が離れ、落下した食事が川の中に散らばった。蹲ったシラが押さえた腕が赤く染まる。


「お前っ……!」


 俺が矢を射った男を睨みつけると、男は驚いた顔で一歩後ずさった


「ち、ちが……当てるつもりじゃ」


 しかしすぐにはっとして俺を睨み返す。


「お、お前が避けるから悪いんだ! 的が小さいから外しちまったじゃねぇか!」


「俺はチビじゃねぇ!!」


 動揺している相手に突進し、思い切り頭突きを喰らわせる。相手は慌てふためいたまま俺の顔に拳を突き出してくる。

 頭の中身が揺さぶられるような衝撃を受けて、目の前に星が散る。少し遅れて酷い鈍痛が襲ってきた。


「ぐぁあああ! この野郎が!」


 しかし、向こうにも相当の痛みがあったようだ。ぶつけた拳を押さえて呻いている。


「リウド!」


「だいじょうぶか!」


「くそっ……! 燃え滓の分際で……もう許さね――ッ!」


 二人が男に駆け寄る。拳を砕かれた男は射殺すような視線を向けてきたが、その怒りは一瞬で霧散し、目におびえの色が浮かんだ。


「お、おいあれ……」


 木こりの一人が俺の方を指差して、それをみたもう一人も驚愕の表情で凍り付いた。


 そんな奴らに向って、俺はゆっくり近づいていく。


「ヒッ! や、止めろ……来るな……!」


「おい、さっきまでの威勢はどうしたんだよ。さぁ、もう一回殴りかかってこい」


 俺が近づくと、男たちは慌てて後ずさる。腰が抜けたみたいで、うまく立ち上がることすらできないらしい。


「……?」


 いや、違う。こいつら、俺の方なんか見ちゃいない。もっと何か別のものを……。


 不意に生暖かい風がうなじに当る。俺はゆっくりとその場で振り向いた。


 そこには、人の頭ぐらいの巨大な嘴があった。同じくらい大きな鋭い目があった。そして二本の足には鋭いかぎ爪。それは夜の闇よりなお暗い色をした巨体だった。


 化け物じみた梟が、俺の目の前に佇んでいた。


 魔物だ。


 その瞬間、思考が泥沼に嵌まったようにトロくなり、当たり前の事実を頭に浮かべるだけで、とてつもない時間がかかった。


「ホー……」


 その魔物はこちらをじっと見詰めたまま、首を九十度横に傾けた。


「え?」


 次の瞬間、凄まじい衝撃と共に木の幹に叩きつけられた。肺の空気が強制的に吐き出され、気が遠くなる。


「ガハッ……――ハァ……ぁ」


「ホーホー……」


 魔物の梟に頭突きをかまされたのだと、大分遅れて理解する。魔物の方は吹き飛んだ俺を見て、また九十度、首を回転させた。完全に頭が逆さまになっている。


 その間の抜けた仕草に、感じていた恐怖が薄れ、怒りが湧いてくる。


「おちょくり……やがって……!」


 立ち上がろうとするが、うまく膝に力が入らない。その間に魔物は俺の方に近づいてくる。俺は呑気に近づいてくる魔物にその辺の石を投げつける。石は嘴に当たり、かつんと音を立てて弾かれた。


「う、うわぁああああ!!」


「コギリ!?」


 木こりの一人が錯乱したように叫び散らし梟にツッコんで斧を叩きつけた。しかし、その斧は柔らかいはずの羽毛に阻まれ、梟の身体に傷一つつけられなず終わる。斧がなまくらだったんじゃなきゃ、こいつには刃物は効かないってことなのか……。


「嘘だろ……」


 斧を振るった男は呆然と自分の手の得物をみつめている。


「ホー……?」


「グギャ」


 梟がうるさそうに羽を広げると、その衝撃で男は弾き飛ばされて大地に転がった。大きく広げられた黒い翼は全部で四枚あった。


「うあぁあああああううぅ……」


「お母さんお母さん!」


 一瞬だけ視界に入った残りの男たちは、蹲って意味の無い言葉をうわごとのように繰り返している。魔物はそいつらには目もくれず、俺だけを凝視している。ゆっくりと開かれた嘴から、生臭い息が吹きかけられる。


 こんなやつ相手にまともにやり合って勝てるわけがない。だが逃げようにも、隙を突かないことには話にならない。何か使えるものはないかと、周囲を見渡すが、そんな都合の良いものは見当たらなかった。


 死。


 濃厚な獣の匂いの中で、俺がそう覚悟したとき。


「あ……ぁ」


 梟の背後、怯えた顔のシラ と、目があった。


 シラは放心したように口を開いたまま、川の中でへたりこんでいた。


 ここで俺が殺されたら……次は……。


「ホー……ホッ」


「うぉおおおおお!」


 雄叫びを上げて立ち上がり、全力で梟から距離を取る。立ち上がる拍子に掴んだ石を投げつける。石は魔物の額に当たった。


「ホー……?」


「来いよアホ鳥! 俺はこっちだ!!」


 妖しく光る巨大な目が俺を捉えたのを確認して、走る。この場から遠ざかるように、町と反対方向に全力で駆け出した。


「ホーホー……!」


 魔物は興奮したような鳴き声を上げて、狙い通り俺を追いかけてきた。木々の間を縫って走り抜ける俺を嘲笑うかのように、障害物のない上空を飛んで距離を詰めてくる。


 いつの間にか降り出した雨が、木の葉をすり抜け容赦なく身体を打ち付ける。濡れた服が重く纏わり付いてくる。徐々に身体が冷え、足の動きが鈍っていく。川岸は次第にごつごつとした岩場に変わり、濡れて滑る岩に何度も足を取られそうになる。


 だが、息を整えようと少しでも足を緩めれば、音も無く背後に忍び寄って嘴でつつかれる。その気になればとどめを刺すのは容易なはずなのに、一向にそうする気配がない。完全に遊ばれているのだ。


 それならそれで好都合だ。俺は町から離れながら川を遡り上流に向う。


「ここまで、くれば……」


 もう大分走った。シラも、もう町に戻ったはず。


 あとは、俺がこの梟をまくだけだ。


 そのために、ここまで足場の悪い川岸を走ってきた。


 やがて、遠くに目的地が見えてくる。


 川岸の岩場。その岩と岩の間にできた小さな隙間に、身体を滑り込ませる。


「ホォー!」


 直後、魔物のかぎ爪がすぐ背後で空を切った。


 振り返れば、隙間の入り口すぐに魔物の姿がある。何とか嘴をねじ込もうとしているようだが、デカすぎる身体が災いして俺のいるところまでは届かない。何度も何度もかぎ爪で岩を引っ掻いているが、流石に隙間をこじ開けるような力と器用さは持っていないらしい。狙い通りだ。


 やがて諦めたのか、魔物は何処かへと飛び去り、その姿を闇の中に溶け込ませていった。


 姿が見えなくなって、ようやく俺は深く息を吐き出した。


「死ぬかと思った……」


 自分の身体の小ささを利用するようで気乗りしない方法だったが、命がかかっているのにそんな事言ってる場合ではない。こうして無事に逃げ切ったのだから、よしとしよう。今ごろはシラも町に帰っているだろうし、俺も明日の煙突掃除がある。早く町に戻ろう。


「ん?」


 そんなことを考えながら隙間から這い出ようとした俺は、ようやく違和感に気がついた。


 馬鹿な、入るときはあんなにすんなりと入れたのに……。どれだけ身を捩っても、びくともしない。


「ぬ、抜けない……」


 結局俺は、そのまま岩の隙間で次の朝を迎えた。



 梟? いいえ、ケフィアです。このネタももう古いのかな……。


 あ、平日は更新をお休みします。次はまた来週の土日です。(間に合えば……)

 いきなり毎日更新なんてできないからね、のんびり行きますよ。

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