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灰彩ネゼムと世界写本  作者: 豊豆樹(ほうずき)ゆうちく
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プロローグ

豊豆樹

ほうずき

ゆうちくです。

初投稿ではないけど初投稿の気分なので初投稿です。

もっと早く投稿しようと思ってたのに、あらすじ考えるので遅れました。

話の進行も、投稿ペースものんびりやっていきたいと思っております。

よろしくお願いします。

 この世界は巨大な書物だ。


 かつて、気が遠くなるほどの遙か昔に、彼女の産みの親はそう言った。


 無数の物語が紡がれ、知識が折り重なり、刻まれる書物。世界は特別な文字によって、自らの内で生まれる「それ」を記し続けている。


 風の流れ、大地の重なり、生命の営み。


 人の足跡が、やがて道となり、その交差する先で街が、国が生まれるように。世界は絶えず続いているのだ。


 巡り、廻る、無限の霊字の集合体。それが世界だ。


 しかしそれは、放っておけば何時かは皆忘れられてしまう儚い存在だ。


 今を生きる者が遠い過去を忘れてしまったように。

 遥か未来では、今この時は忘れられてしまうのだろう。


 だから君が残すんだ!


 この世界で紡がれてきた素晴らしい物語を。この世界が、こんなにも美しいのだということを。決して忘れてしまわないように。


 その願いこそ、彼女の生まれた理由。そして、存在する意味だった。


――なのに。


 暗い、昏い地下室。


 塵が積もり、カビ臭い空気に澱んだその部屋に、彼女はいた。彼女の身体は、床の魔法陣から伸びる禍々しい鎖によって雁字搦めに捕えられていた。


 この鎖は、誰も彼女を持ち出すことがないように、誰も彼女を紐解くことがないように、そのために用意された。


 他にも、部屋の中には数多もの朽ちかけた書物が収まっている。書物はただ一つの例外もなく、呪われた禍々しい鎖に縛られ、虫食いの紙に磔にされた文字達は、ただ己が朽ちていくのを待つだけだった。


 ここは危険な書物を集め、封印する除籍書庫。その地下室のある館ごと深い森に存在を隠され、忘却され、最早誰一人この場所に足を運ぶことはない。


 ふと、ペンが走る音が、僅かに空気を震わせる。


 書庫の中央で、彼女がかろうじて動く手にペンを握りしめ、一心不乱に動かしていた。とっくに乾き、インクの枯れたペン先を、一向に気にすることなく動かし続ける。しかし当然、その行動は何も産み出さない。柔肌に突き立てるように、耳障りな音で床を引っかき回すだけ。


 どれほどの時間が経ったのだろう。


 共にあった書物はすべて朽ち果て、役目を終えた鎖は消失した。


 暗い、昏い書庫。


 ここには彼女だけ。彼女だけの世界で、この世界こそが彼女そのものだった。


 ペン先が砕ける音が響いた。それでも、彼女の手は止まらない。


 書き記すべきことなど尽き果てているはずなのに。


 自分のしてきたことに何の意味もありはしなかった。行く末も、存在も、誕生も、すべて否定され、奪われた。それを認められなくて、それでも認めるしかなくて。


 喉を焼かれた咎人が、声なき叫びを上げるように、彼女は記す。文字無き言葉を。無価値で無意味な絶叫を。冷たい悲鳴を。


 永遠に続くかに思われたその時間は、唐突に終わりを告げる。


 彼女の前方で、突如光が弾けたのだ。小さな、それでも暗闇には眩しすぎるほどの光。


 壁に亀裂が走り、崩れるような音がした。


 彼女はついにペンを止めて、その光に手を伸ばしていた。けれど、鎖が邪魔をして光には手が届かない。どれだけ光を掴もうと藻掻いても、鎖が擦れる音がそれを嘲笑う。


 そのうち彼女は力尽き、だらりと垂れた腕は徐々にその形を失っていく。彼女の腕から銀色のインクが染み出し、ぽたぽたと垂れた。彼女が目を閉じた後、その銀色は新たな形を取って、うねり、光へと駆け出した。

 後に残されたのは、鎖に縛られた、たった一冊の古びた書物だけ。


 ――それからまた少しの時を経て、

「どこだよここ……。ん? 何だこれ、本……か?」

 物語は再び動き出す――


今日はもう一回投稿します。

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