閑話 不思議な少女3(レイフォルト+???視点)
今回は間に合いました!
次回からは少女視点に戻ると思います。
「よぉ息子。身元も分からねぇ女児を保護したんだって?」
あれがこの国の王。
あの人を一言で言うなら……『変質者』
聖女の恩恵が変化した力を与えられ、生まれた最強の男。
それが我が国の王であり、父である『ガルディウス・クリシタン・ニュイール』
#クリシタン__聖王__#の名を持つ者。
彼に武術で右に出るものはいまだに現れていない。
「えぇ。彼女は西の森で発見されました。もし仮に彼女がカロンディ公爵の関係者ならば有益な情報を得られると思いまして」
「そうかそうか!だがお前さんの推測はある意味正解っちゃ正解だったぞ」
「どういう意味ですか?」
「さっき怒鳴りこんできやがったよ。カロンディがな。『家の娘を返せー!!』だとよ。俺は初耳だったがなぁ?」
豪快に笑いながら、父上がそう言った。
まさか、本当に娘だったとは思わなかった。
だが、父上が知らないとはどういうことだ……?
出生の報告が出されていない……ということなのだろうか……。
「で、どうするんだ?誘拐って言われてもおかしくねぇぞ?あれでも権力だけは無駄にあるからな」
って、それは後回しだ。
報告は終わっていない。
失敗は許されない。
ここでは何気ない一言が、己の立場を脅かすこともあるのだから。
私は頭を働かせ、堂々と発言することを意識する。
決して、目は離さない。
「……それについてですが、彼女を『婚約者』にすると言うのはどうでしょう」
「……」
やはり無茶苦茶な案だろうか。
沈黙が私を焦らせる。
父上が何も言わない。
だが、恐れてはいけない。
慎重に言葉を発していく。
「それなら、王城に留めておく理由になるかと。私が彼女に惚れたとでもいえばいいでしょう」
どうだ……?と私は父上を見る。
父上は目を閉じていた。
そして……
「……くっ……はっはっは!!我が息子がこんな無鉄砲な行動にでるとはなぁ!!上手くいくかもわからんのになぁ……。あんなに冷めたやつが……くぅ……ふっそんなにあの娘が気に入ったか」
豪快に笑いだした。
まるで、おかしくてたまらないという風に。
「……別に。ただカロンディを潰すのにはいい材料になるかと」
そう、彼女はあくまで証言者。
彼女そのものが証拠になる。
「……へぇ。まぁいい。それで?これからどうするつもりだ」
獲物を狙う獣のような目で私を見る。
国王の眼力はそれだけで人を壊せる。
気なんて抜けない。
正解なんてどこにあるかもわからない。
「彼女は保護したときから身心共に傷だらけでした。ですので、まずは療養させようかと」
まずは話せる状態にしてから。
話はそれからだ。
カロンディ公爵を潰すのも。
「ふぅん……まぁ好きにするがいいさ。今回の件はお前に任せてるからな。俺は何も手を出さねぇ……だがお前、なにか言い忘れてることがあるんじゃねぇか?」
「……」
やはりこのままとはいかないか……。
我が父ながら鋭く、食えない人だ。
この事実を聞いて、この人はどうするだろうか……。
……何を迷っている。
これは報告しなければいけない最優先事項だろう……?
なぜ、私は迷いを感じているんだ……。
「…………これは、随分面白いことになりそうだな」
「…………え?」
「いや、なんでもない。それで?言うのか?言わないのか?」
「…………」
「彼女に……彼女の身体に邪神の核が埋め込まれていました」
「……なっ!?」
「……へぇ」
どよめく重鎮のなかで、ただ一人父上は面白そうに笑った。
「殿下!正気ですか!?邪神を身体に住まわせる娘を王宮に住まわせるなんて……!一歩間違えればこの国は……!!」
「そうです!その娘は危険です!一刻も早く始末しなければ……!!」
「邪神が必ずしも現れるとは限りません。もし、彼女が邪神でなければ我々は犯罪者になりますよ?幼い少女を殺めた貴族……としてね」
「…………ぐっ」
「ですが、彼女が邪神にならないという可能性だってないわけじゃないでしょう!?なにか、が起きては遅いのです!」
「そのために彼女を傍におくのです。監視の目が届き、王国一の防御設備を持つ王宮に」
「…………」
「もしものときは私が対処します。それでいいですか、父上」
「あぁ。それでいい」
「「「「陛下!?」」」」
「これはこいつが決めたことだ。なら最後まで尊重してやるのが親ってものだろう?ほれ、ここのお堅いやつらは俺が何とかしてやるからお前はさっさとその娘のところにでも行ってこい。報告、ご苦労だった」
「はい。失礼いたします」
退出の許しが出たので、私は扉へと歩きだした。
「惚れるなよ」
「……」
その声に思わず足を止める。
言葉の意味を追及するなんてしない。
だって、そんなことわかっているから。
「もし彼女が邪神になったとき、#彼女を殺す__それを止める__#のはお前なのだから」
「……分かっています。父上」
分かってる……そんなこと。
なぜ、父がそんなことを聞くのか。
頭に浮かんだ考えを振り払い、心に現れた感情にそっと蓋をした。
なぜ、あの少女が脳裏に浮かんだのか。
その答えにも見ないふりをした。
気づいてしまったら、私は___。
***
___だから私は絶対に彼女を好きになってはいけない。
だって、もし邪神になってしまう可能性がある彼女を愛してしまったら……
「私は王子ではいられない」
私はまた見ないふりをする。
そんなことは無駄だとどこかで分かっているのに。
そのことにすら気づかないふりをした。
彼女が私の心から消え去ることなんてないのに…………。
「おやおや、随分お楽しみだったようだねぇ。あんなに仕事一筋だった王子様が一人の女にご執心とは……」
「メリル」
私はメリルを目で制す。
王宮は確かに安全かもしれないが、いつ誰かに聞かれているかもわからない。
私には少なくないが王家の影がついているのだから。
「ついにこの子にも春が……!!」
「やめろ……」
本当に恥ずかしいからやめてほしい。
俺は顔の熱を引いたのを確認してから、顔を引き締めて聞いた。
「それで、結果は?」
「せっかちだねぇ……まぁいいさ」
メリルは顔を引き締めて、《鑑定書》を差し出した。
「これが結果だよ。おおむね殿下の予想通りってとこかな」
「そうか」
紙を受け取り、目を通す。
「これは……!!」
「あたしも驚いたよ。王国一の鑑定石……しかも聖女の遺品ですら、視れないところがあるなんてね」
そこに書かれていたのは衝撃の事実ばかりだった。
私はそれを見て、一つだけメリルに尋ねた。
「なぁメリル。この結果を改竄することは可能か?」
王子としての役目を忘れたわけじゃない。
ただ、人としてまだ幼いあの少女の人生を終わらせるのは良心が痛む。
だって……あの少女の瞳にまだ光は宿っていないのだから……。
私はいまにも消えてしまいそうな儚いあの笑顔をする少女のことを思ったのだった……。
***(???視点)
「あれで本当に良かったのですか?オルディウス」
皆が立ち去った部屋で、私は友人であり、国王である彼にそう尋ねた。
「愚問だな。俺は一度決めたことは曲げない主義だ」
「そうですか」
「……それに、俺があの息子にしてやれたことはそう多くないからな。こういうときくらい『父親』の顔をするくらい、女神も許してくれるだろう。これでもあいつの幸せを願ってるからな」
「…………」
「もう……運命は回りだしてるんだ。俺でもどうなるかはわからない。女神さえも……分からないだろうな」
「……あなたでも分からないのですか!?」
彼が王座に君臨できている理由。
その一つは圧倒的な戦闘能力。
そして、『予知能力』だ。
彼は聖属性は持ってないが、その分特別な力に恵まれた。
『予知』も聖女の力の一つだったと言われている。
そんな彼にも分からない未来があるとは……思わず驚いてしまった。
「いくら化け物と言われても、俺だって人間だ。できないことなんてたくさんあるさ。そのためのお前達だろう?」
「あいつは俺以上に異質すぎた。あいつにはまだお前達みたいなやつもいないし、あいつ自身も『頼る』という能力をしらない。まぁ、そうさせちまったのも俺のせいかもしれねぇけどな」
「オルディウス……」
「だが、あいつはあの娘に会った。その出会いはよくも悪くもいろんな影響をあいつに与えてくれるだろう。俺たちとて例外じゃない」
「私たちも……ですか?」
「あの娘がどうなるかはわからねぇ。だが……できればハッピーエンドであってほしいと思うよ」
「……そう、ですね」
あまりよくは見えなかったが、その表情は彼には珍しく……少しだけ……悲しげに見えた気がした。
隅っこ登場人物紹介
*オルフェウス・クリシタン・ニュイール*
ニュイール王国国王。
別名聖王で変質者。
圧倒的な戦闘能力と予知能力を持つ。
大柄な性格で、国王には見えないが、実は結構できる王様。
油断すると足をすくわれるかも……?
???の正体は多分そのうち分かるかと。
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