第二話 人形少女は天使様と対面する
昨日の分を投稿したと思ったらされてなかったので二本目
まるで時が止まったかのように感じた。
「「…………」」
沈黙が流れた。
お互いがお互いを凝視していた。
でもその時間は不意に終わった。
首筋にヒヤリとした冷たい感触。
(これは……刃物……かな?)
不思議と恐怖はなかった。
彼になら殺されてもいいと思えた。
だって……
(彼は天使様だもの)
私を殺してくれる天使様だから。
やっと出会えた救いだから。
私はそっと瞼を閉じた。
でも
刃が刺さる感覚はいつまでたっても来なくてそっと目を開けると
「……」
(近い)
目の前に顔があった。
「すっすまない……!!」
救いが遠退いてしまった。
(また、死ねなかった)
思いの外、落ち込んでしまう。
「……どうした……?」
まだ私は死ぬことを許されない。
やっと待ち望んだ救いの存在が現れただけ。
「大丈夫か?」
(あと……どれくらい苦しめば……私は死ねるのかな……)
「聞いているのか!?」
「……っ!!」
大きな声に驚き、ビクリと肩を震わせる。
あぁ、天使様を放置してしまった。
「あぁ……すまない。あまりに無反応だったから……驚かせてしまったか……?」
天使様は恐る恐る私に問いかけた。
「……っ」
『大丈夫です』と言いたかったが、声は出なかった。
長らく喋っていなかったせいだろうか。
そっと喉に触れる。
口を動かしてみる。
息を吐き出してみる。
機能に問題はないのに、声だけがでない。
「……喋れないのか?」
「(コクリ)」
天使様は察しがいいのか、すぐさま私の様子に気がついた。
私はその問いにうなずくことで答えた。
「そうか……。こちらの言ってることは分かっているようだが……どうしたものか」
確かにこのままでは、なにもできない。
天使様を困らせてしまった。
(……せっかく会えたのに)
(……そうだ)
私は無礼を承知で天使様の手をとった。
「……?どうした?」
天使様の手のひらに指で文字を書く。
自然と書き方が分かった。
「……なにをして……っそうか!」
天使様は文字を書く私の様子を凝視したあとなにかを閃いたように声をあげた。
「少し待っててくれ」
「(コクリ)」
そう告げた天使様に私は了承の意味をこめてうなずく。
天使様はそれを確認すると、私の座り込んでいるベッドのそばのサイドテーブルに乗ったベルを持ち、鳴らした。
チリン、チリンと澄んだ鈴のような音が響く。
「お呼びでしょうか」
その後、扉から女性が現れた。
「……っ!?」
(違う……あの人達じゃない)
似た格好だけれど、顔が違う。
「彼女に紙とペンを用意してくれ」
「かしこまりました」
天使様は彼女にそう言い、それを聞いた彼女は再び扉の外へ消えていった。
そう思ったら、今度は紙と鳥の羽、そして黒い液体で満たされた瓶を銀のプレートに乗せて持ってきた。
「こちらでよろしいでしょうか」
「あぁ。ありがとう」
それを受け取り、天使様は私に差し出した。
「……」
(私に……?)
訳が分からずに、天使様を見上げた。
「これに君の伝えたいことを書いてくれるか?」
「(コクリ)」
と、頷いたもののどう使えばいいかわからない。
黒い液体、真っ白な先のとがった鳥の羽。
見たことのない代物だった。
果たしてこれが“ペン”と言えるのだろうか。
「……?」
「……あぁ。すまない。使い方がわからないのか?」
「(コクリ)」
さすが天使様だ。
察しがいい。
「まずこれは羽ペンという。これをこのインクにつけて、使うんだ。こんなふうに」
彼は説明通りに羽ペンを持ち、その先をインク瓶に少しだけ沈め、紙にペンを走らせた。
何てかいてあるのか全く分からないが、天使様の字が綺麗なことは分かった。
「さぁ、やってごらん」
「(コクリ)」
ぎこちなくも見よう見まねで同じ動作を繰り返し、私が知っている文字を紙に書き出す。
『あなたは天使様?』
「これは……?……もしかして……魔法言語か!?」
(日本語ですけど……?)
私が唯一知っていて、書くことができた“日本語”は魔法言語というらしい。
「えーっと……なになに……」
どうやら天使様はちゃんと読むことができるらしい。
今まで誰も読めなかったのに。
さすがだ。
しばらくじっと覗きこんだあと、彼は顔を下に向けて黙り混んでしまった。
耳がほんのり赤い。
「……?」
(大丈夫ですか……?)
「すまないが、これは……私のことを天使なのか聞いている……ということであっているかい?」
「(コクコク)」
「……参ったなぁ……まさか天使様だなんて言われる日が来るとは……」
そう、困ったように笑った。
「申し訳ないが、私は君の言う“天使様”ではない」
天使様……いえ彼は紙を私に返しながら、そう言った。
「……」
(そう……)
天使様じゃない。
私の思い違いだった。
『ごめ なさい』
「……いや、いいんだ。でもどうしてそう思ったんだい?」
『綺麗 だった から』
私とは違うあなたが。
輝きの中で眠るあなたが
光が似合うあなたが。
まるで天使様のようだった。
「綺麗……か。君の方が綺麗だと思うけどな……」
「…………?」
(私が……綺麗……?)
一瞬何を言われたのか分からなかった。
彼は………『綺麗』と………そう言ったのか?私に?
薄汚い『化け物』と呼ばれた私に……?
(……そんなわけない)
雑念を振り払うように頭をふる。
これはきっと私の妄想。
都合のいい、妄想。
だから
「って私は何をいって……!」
彼が顔を背けながら言ったことなんて、全く聞こえていなかった。
「……?」
『どう か しま した か?』
「いや……なんでもない。それより、体調はどうだ?」
「……?」
(体調……?)
『私 聞いて る です か ?』
「他に誰がいるんだ?」
「……」
(……だって。そんなこと聞かれたの初めてだもの)
いままでそんな人いなかった。
誰も気にしなかった。
誰も私を見ていなかった。
彼らはお人形にしか興味がなかった。
だからどうしたらいいのか、わからなかった。
(どう答えるのが正解なんだろう)
でも、このままもよくない。
『だい じょ ぶ』
とりあえず、そう書いた。
「……そうか」
(どうして……そんな顔するの?)
彼は……まるで私の答えを疑うような……それでいて悲しげで、私のことを気遣わしげに見つめてくる……なんとも言えない顔。
ただ、胸が……苦しい。
それだけ。
二度目の沈黙。
それを破ったのは彼だった。
「……今日はここまでにしておこうか」
「……」
「そろそろ夜が来る頃だろう」
外は夕暮れから闇に染まりかけている。
彼の髪色のような綺麗な空。
「君も目覚めたばかりだ。その様子だと、あまり食欲もないのだろう?」
「(コクリ)」
彼には悪いが確かにお腹はすいてない。
元からこうだったけれど。
「明日また来る」
「……」
「おやすみ」
彼はそう言って私の頭に触れた。
不思議とそれは嫌じゃなかった。
「……」
何も言えなかった。
全部が初めてで、分からない。
分からないことだらけで、疲れてしまった。
意識が薄らぐ。
瞼の裏側に彼の顔が見えた気がした。
(……ずっと苦しそうだったな)
笑顔を装っていたけど、苦悩を感じた。
(まただ……苦しい)
その顔を思うだけで、胸が締め付けられたみたいで……苦しい。
私はおかしくなってしまったのだろうか。
何も……分からない。
お人形の私に人のことなんてわからない。
(でも……)
彼には……笑って欲しいと思った。
この感情の名前を私は忘れてしまった。
そんな私はおかしいのかもしれない。
そう思いながら、眠りについた。
(……おやすみなさい)
日本語は魔法言語という認識ですが、多少の誤差、解釈が万全ではないため、向こうの人からみると完全な日本語(魔法言語)はちょっとおかしい感じの言葉になっております。
基本単語だけの存在みたいな感じです。
敬語とかもないです。
まぁあとで修正するかもですし、しないかもです。
とりあえず、天使……ゲフンゲフン少年から見た言葉だと思ってください。
では。また次のお話で会いましょう