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第37話 ヘンタイお兄ちゃん! 

 ……? おい、ちょっと待て。


「お前今、魔法使ったよな?」


「え? う、うん。そうだけど?」


 俺の問いかけに、さも当然のように答える神宮寺。


 おいおい、ちょっと待てよ!?


 俺なんて魔法の魔の字も使えずに絶望していたのに、なんでこいつは普通に魔法を使えるんだよ!?


 しかも40番台の魔法って……そこそこレベルの高い魔法じゃないか。


「お前って……日本から召喚された勇者だよな?」


「そりゃそうだよ。今更そこ疑ってどうするのさ?」


「だって、日本から来た奴が魔法なんて使える訳ないじゃん!!」


 本当は召喚された勇者じゃないって奴だろ。そうでなきゃ魔法を使える理由にならない。


 住む世界も環境も違う異世界人の俺達が魔法なんて覚えられるはずもないんだ。


「……え? ちょっと待ってよ。二階堂君はアストレア陛下から受け取らなかったのかい?」


「え? ……何を?」


「魔力付与の木の実だよ」


 ……は? 魔力付与の木の実??


「なんだそれ?」


「ほら、えっと……干し柿みたいな見た目の木の実だよ。やっぱり貰ってなかったの?」


 そ、そういえばそんなのを貰ったような……でも、一回だけだったし。


 というか神宮寺の言う通り、干し柿みたいな見た目で気持ち悪かったから捨てたんだった。


 そもそも俺、干し柿嫌いだったし。柿そのものがダメなんだけど。


「召喚された時に、支援金と一緒に木の実が渡されたんだよ。異世界から召喚された勇者は魔法そのものを使えない肉体だからって、体の中に魔力を蓄積できる器官を作ってこの世界の人達と同じように魔法を使える体にするために渡されたんだ。適正についてはまた別で調べなきゃならないんだけど」


「ち、ちくしょおおおおおおおおおおお!! なんだそりゃ!」


 そうと分かっていたなら食っていたのに。


 あのクソ国王……何の説明もせずに送りつけやがって。捨てちまったじゃねぇか!!


「召喚された日に陛下の話も聞かず飛び出して行ったって聞いてたから渡すタイミングをなくしていたんじゃないかな?」


 …………あっ。そういう事か。


 俺のせいなのね、そうなのね。


 うん、俺はバカです。反論できねぇ。


「まぁ、あの木の実は何も異世界から召喚された勇者にだけ有効って訳じゃないからね。魔力を回復させる効果もあるし。探せばその辺で普通に売っていると思うよ?」


「そうなのか? でも、俺の村じゃ全然見なかった気がするけど?」


 たとえ見ていたとしても効果は今の今まで知らなかったんだし、多分食べてなかっただろうな。


「そうなのかい? でも、フェリアス様なら持っていそうだけど。あの方、魔法に関しては王国魔導士の称号を持っているほど実力のある方なんだから。いざという時に即効性のある魔力回復の木の実があると便利だと思うのだけど」


「いやいや、多分持っていないんじゃないかな? 持っている姿を見た事ないし……別の物はいつも携帯しているんだけど。魔力ってそんなものを食べなくても普通の食事とか睡眠で回復できるって事だから……そもそもフェリたんってそういうの嫌いなんだよね」


 常に氷砂糖を所持して、ハチミツに氷砂糖を漬けて食うような超絶甘党のフェリたんだから問題はなさそうなんだよな。


 フェリたんの魔力がどの程度あるのかは知らないけど、あの魔法の熟練度からしたら相当な物なんだろうし。


 ちょっと補給しなかった程度ではなんともないだろう。


「そうなんだ。確かに、あの木の実は魔力をすべて回復させる事に対して即効性がある反面、人によっては魔力酔いを起こしてしまう事もあるらしいからね。切羽詰まった状況ではかえってリスキーなのかも。さすが、半年も一緒に同じ村で暮らしている人同士はお互いの事ちゃんと理解してて凄いや」


「お!? やっぱりそう見えちゃう? だよなー! そう見えるよな! だって俺達は愛し合っているんだからな! あははは!!」


 やっぱり、分かる奴には分かるよな! 俺達の関係性を見てそこまで理解できる神宮寺は本物だよ!


「いやいや、そこまで言っていないしそういう風にも見えないのだけど」


 苦笑いを浮かべて頬を指でポリポリと掻いている神宮寺が何かをブツブツと呟いているようだが、聞かなかった事にしよう。


「うわぁ! お兄ちゃんってジイシキカジョーなんだね! ねー!」


「ねー!」


 神宮寺の隣にいたサロスがその純真無垢な笑顔からは想像もつかないようなトンデモ発言を繰り出した。


 同意を求めてフィリアに目を向けると、フィリアもそれを理解してか無邪気にニコニコしながら便乗する。


「ちょっ!? サロス!? フィリア!? なんて事を……」


 慌てふためく神宮寺が二人を注意しようとするが、悪びれもしない二人にそれ以上は何も言えない様子だ。


「お、おいおい!! なななっ、なんて言葉を口走ってんだよ! 俺とフェリたんがどれだけの絆を育んできたのか知りもしないで…………めちゃくちゃな事を言うなよな! 俺とフェリたんの関係を何だと思っているんだ!」


「え? フェリアス様とお兄ちゃんの関係? ……うーんとね」


 俺に問い詰められたサロスは頭の上に疑問符を浮かべているように顎に手を当てて首を傾げ斜め上を見つめている。


 やがて、答えにたどり着いたのかパッと花が咲くような笑顔を見せて、


「ご主人様と下僕じゃないかな? フェリアス様がご主人様でお兄ちゃんが下僕ね」


「ご主人様と下僕って……なんて事を言うんだ! 興奮しちまうじゃねぇか、ありがとう!」


「それでいいのかよ!?」


 オロオロしていた神宮寺が鋭いツッコミを繰り出してくる。


 それでいいんじゃない。それがいいんだ!


「お、お兄ちゃん……ヘンタイなんだね」


「……ヘンタイお兄ちゃん」


 亜人二人からの刺さるような冷めた目が向けられる。


 ふん。その言葉はむしろ、俺にとってご褒美だ。


 ヘンタイ万歳。男はヘンタイでこそ男たるものなんだよ。


 ※ ※ ※


 宿の手配を済ませた俺と神宮寺は、サロスとフィリアの要望通り公園へと足を運んでいた。


 亜人排斥の強い王都では亜人の受け入れは基本的に拒否な店が多いが、それは亜人のみでの話であって奴隷契約を結んでいる亜人は受け入れている店が多い。


 言い方は悪いがペット連れ込みオッケーの店と同じようなものなのだろう。


 それにしても……ヴェダーマーレで止まった宿の店員と違って、ここでチェックインした宿の店員はあからさまに不愉快そうな顔してたな。


 でも……ベアトリスの姿を見て顔色が一瞬で変わったのは何だったんだろうか。なんか……怖がっていた? ような?


「二人とも、あんまり遠くには行かないようにね?」


「うん! 分かった!」


「分かってるよ! えへへ。お姉ちゃんも遊ぼう! 勇者様も!」


「えぇ!? ちょっと……二階堂君は?」


「俺はいいよ。神宮寺がそばにいれば何かと安全だろうしな」


 神宮寺の忠告に軽く返事をする二人はベアトリスと神宮寺の手を引いて駆け出した。


 困ったような笑みを浮かべる神宮寺に誘われるが、正直俺は一緒に遊ぶより眺めている方がいい。きついし。


 公園と言っても遊具のようなものはないようだ。ただ広い芝生が広がっているだけのようでこんな場所で遊ぶようなもの好きはあまりいないらしい。人気の少なさがそれを物語っている。

 

 楽しそうに遊んでいる四人を眺めながら俺達は近くのベンチに腰を下ろした。


 神宮寺が鬼になって三人を追い掛け回しているみたいだ。俺がやったら変質者呼ばわりされそうだな。混ざらなくて良かった。


「「はぁ……」」


 俺が溜息を吐いたタイミングで少し間隔を開けて設置してあったベンチに座っている男性が溜息を吐いた。


 筋肉質で背が高く、口の両端に反り立った牙の生えた魔物の頭の骨を頭に被っている男性。


 見た目のインパクトとは裏腹に人生に絶望しているかのように遠い目をしながら自分の足元を見つめている。


 まるでリストラされたサラリーマンが家族にその真実を告げられずに仕事に行くと見せかけて公園で時間を潰しているような……そんな風にも見えた。


「あぁ……俺は一体これからどうして生きていけば。冒険者になれる訳もないし王国騎士団への入隊も無理だ。長年やってきた仕事を新人に取られて追放だなんて。こんな見かけじゃどこも雇ってくれないし……」


 そんな事をブツブツと呟きながらふと、男性は俺の方へ目を向ける。


 う、うわぁ……絵に描いたようにリストラされてんじゃん。この人大変だな。


 気まずくなって苦笑いを浮かべるも、男性はそれに反応を示さずすっと目を戻すと徐にベンチから腰を上げてどこかへと歩き出した。


「仕事……仕事を……仕事が欲しい」


 繰り返すように延々と呟き続ける男性の背中が煤けて見える。


 ああ……この人かなりの仕事人間だったんだな。いきなりリストラされてやりがいを失った的な。


 いやぁ、ニートで良かった。仕事が無いとかでいちいち悩まなくて良いんだもの。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白いです。続きはもうどこでも読めないのでしょうか?(ρ_;)
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