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第36話 出オチ確定キャラにだってセリフがあるんです! 言わせねぇよとか可哀想だろ!


 フェリたん、エリアスと別れた俺と神宮寺はとりあえず荷物を置くために宿を目指した。


 神宮寺が連れていた冒険者は役目を終えてギルドへと帰って行ったらしい……あいつら雇われていただけだったのか。


 隣を歩く神宮寺は両手に自分が助けた亜人、背後には服を掴んだまま離さないベアトリスを引きつれてなんとも言えない微妙な顔をしている。


「なぁ、ベアトリス。コイツが凄く歩き辛そうだから俺のところに来たって―—」


「――ガルルルル!!」


 別にいやらしい意味があって言っているわけではないのだが、嫌われっぷりは尋常じゃないらしい。


 言葉を遮るようにベアトリスは歯を剥き出しにして鬼のように威嚇してくる。


 本当におかしいな。昨日の夜のあれは好感度向上イベントではなかったんだろうか。


 結構いい雰囲気だっただけにちょっとは期待してたんだけど。やっぱり駄目なのか。


「君は一体何をしたんだい?」


「なっ!? どうして俺が何かをした事前提で話を進めるんだよ!? おかしくないか?」


 そりゃ、いきなり抱き付こうとした事は悪かったけどさ。単なるスキンシップのつもりだったんだよ。


「だって、ここまで威嚇されて警戒されてるって事はそういう事じゃないの?」


「これはあれだよ。照れ隠しだよ。なぁ?」


「……!! カァ―――—!!」


 俺の問いかけにブンブンと激しく首を振るベアトリスは、小さな白い犬歯を剥き出しにして鬼のように威嚇してくる。


 心なしか毛が逆立っているようにも感じるけど……熊って威嚇する時、毛を逆立てるものだっけ? 二本足で立って体を大きく見せるものじゃないっけ?


「あー! お兄ちゃんがベアトリスのお姉ちゃんをいじめてる!」


「いじめはいけないんだよ!」

 

 神宮寺のそれぞれの手を握る二人の亜人はベアトリスを守るように体で壁を作り立ち塞がった。


 そもそも、神宮寺の後ろに隠れているから守るも何も一番の壁がそこにいるわけで。


 それにな、違うんだよ。俺はいじめていないんだ。むしろ俺がいじめられている方なんだよ。


「いやいや、そんな事はしないって……それにしても」


「ああ。本当に、いつ来てもいい気分はしないものだね」


 周りの刺さるような視線に神宮寺は困ったような笑みを見せながらもどこか無理をしているように思えた。


 不安、不快感、嫌悪感。そういうのが混じったような視線が周りから向けられる。


 大方、亜人がいるのが気に食わないってところなんだろうな。久々に目の当たりにしたけど本当に気分がいいものじゃない。


「ねぇねぇ勇者様! 荷物を宿屋に置いたら公園で遊んでも良い?」


「僕も遊びたい! ねぇねぇ良いでしょ? 勇者様!」


「はいはい。荷物を置いたらね?」


「「やったー!!」」


 二人はそんな視線に気付いているのか気付いていないのか、全く気にしていないような様子で神宮寺の腕を左右からぐいぐい引っ張る。


 公園で遊ぶって……大丈夫なのか? 公衆の面前で。後ろから刺されかねないと思うのだけど。


 いいや、相手が亜人だと分かれば前だろうが何だろうが構わず刺しそうだ。


 そんな二人に対して、ベアトリスは向けられた視線に怯えているようで顔を伏せて出来るだけ目を合させないように我慢しているみたいだ。


 ヒソヒソと周りの人々がこちらに目を向けて何かを話しているようだが、まぁ十中八九悪いものだろうな。


 こりゃ、ベアトリスが耐えられないのも無理はないわ。


 俺だって当事者でもないのに居心地の悪さを感じるし、それは神宮寺も同じだろう。


「なぁ、神宮寺」


「どうしたんだい?」


「なんかさ、随分と険悪なムードなんだけど。大丈夫なわけ? 後ろから刺されたりしない? 面倒な奴に絡まれたりしないよね?」


「大丈夫大丈夫。奴隷契約を亜人と交わすと……こういう言い方はしたくないのだけど……その亜人の主人になるから。すでに主人を得た亜人に危害を加える事は出来ないのさ。まぁ、厄介なのが……奴隷契約によって交わされた主従関係ってのは、どちらから死亡すれば失われるって事。今さっきも言ったけど、奴隷契約によって契約を交わされた亜人には危害を加えられない。だったら手っ取り早い話―—」


「――主人の方を殺してしまえば、契約は無かった事にされるって事か。あとは何でもし放題なわけね」


「そういう事。僕達は召喚された勇者だし、それなりに力もある。利用するようで悪いけれど王女様やアストレア陛下にも一目置かれている存在だから下手な動きは出来ない。亜人を憎むにしても召喚勇者に手出しをしようものなら、王族とか貴族を手に掛けるレベルの大問題らしいからね」


「お前って、ちゃっかり権力を盾にしているんだな。人は見かけによらぬものってこういう事か」


「別にやりたくてやってるわけじゃないさ。でも、それで命が救われて笑顔が守られるのなら……僕は手段は択ばないよ。何てったって僕だって人間だからさ。たまには小ズルい手の一つくらいはあっても良いでしょ?」


 まぁ、その方が人間味があっていいと思うのだけど。コイツ……いつか闇落ちしそうで怖いな。手段は択ばないとか言ってるし。


 魔物食って髪の毛白くなったりとか、突拍子もなく邪魔する者は殺すとか言い出したら怖いなぁ。ああヤダ、怖い怖い。


「んだぁ? 獣臭ぇぞ? 誰だよ、こんな場所にペットを連れ込んでるのはよ」


 いきなり前方に現れたゴロツキ数人がワザとらしく鼻を摘まんで煽るように言い放つ。


 ケタケタと卑しい笑みを浮かべるゴロツキ達は俺達の行く手を阻むように歩み寄ってきた。


 みんな顔が真っ赤になって足取りもどこか覚束ない様子だ。


 こいつら……酔ってるな!?


「ゆ、勇者様……」


「怖い……怖いよ」


 あれだけ人目を気にせずに楽しそうだった亜人二人もさすがにゴロツキ達には完全に委縮してしまい、ベアトリスのように神宮寺を盾にしてその背後に身を隠していた。


「……」


 ベアトリスなんて震えてしまっているし……こりゃ、面倒な奴に絡まれてしまった。


「はぁ……参ったなぁ」


 そう言って気怠そうに息を吐く神宮寺は。


深淵(しんえん)魔法四十五番―—微睡ノ揺篭(まどろみのゆりかご)


 胸の前で両手を構えながら魔法を唱えた直後、薄紫色の光がどこからともなく表れてその手の中に集まりサッカーボールほどの球体を作り出すと。


 それをゴロツキ目掛けて発射した。


 球体は一番前にいたゴロツキの胸に当たって破裂すると、瞬時にゴロツキ達を薄紫色のドームのようなものに包み込んで強い光を放ち瞬く間に消える。


 ドームの中から再び現れたゴロツキ達は全員が地面に倒れて爆睡している様子だった。


「えぇ!? ちょ、えぇ!?」


 俺は目の前で起こった一連の出来事に驚愕の声を上げる。


 なんつー出オチキャラなんだよ。あまりにも酷過ぎるだろ!


「どうしたのさ。そんなに驚いて」


 まるで自分がおかしくないとでも言いたげなほど涼しい顔をしながら首を傾げる。


「どうしたもこうしたもねぇよ! 何いきなり魔法で眠らせちゃってるのさ。いくら相手が見るからに出オチ確定キャラみたいな見た目しててももうちょいセリフ言わせてやれよ! 可哀想だろ! 前の奴しか喋ってねぇじゃないか!」


「で、出オチ確定キャラ?? え? でも、この人達が出てきたところで全然笑えなかったけど……」


「いやいや、お笑い関係の出オチって意味じゃなくて……こういう如何にも俺達に倒されるために出てきましたって言わんばかりの奴らの事だよ」


「……倒したのは僕だよ? それもただ眠らせただけ」


「んな事分かってんだよ! 物の例えだよチクショウ!」


 何だかもう……あまりにもあっさりというか、いきなり過ぎて取り乱してしまった。


 相手がどこからどう見ても悪そうな奴でもそれはさすがに理不尽が過ぎるでしょ……まぁ、眠らされただけならまだいいだろうけどさ。


「別に考えなしって訳じゃないよ? この人達、ずっと武器に手を掛けていたみたいだったから。先手を打たれる前に対処したまでだよ」


「あえ? そうだったの? 全然気付かなかったな……」


 ……そんなところにまで目を向けていたのか。警戒心強すぎだろ。


「ほら……サロス、フィリア。もう大丈夫だよ」


「「……うん」」


 優しい口調で二人の頭を軽く撫でる神宮寺。サロスもフィリアも不安げに男達を見つめているものの少しは安心したようで再び神宮寺の手を握った。


「で? こいつらどうするんだ? 完全に寝てしまって動かないけど」


「そう長くしないうちに目を覚ますから大丈夫だよ。僕らにちょっかい掛けた罰って事でそのまま放置で良いんじゃないかな」


 コイツ……意外とサディストなんだな。


 いや、悪いとは言わないけどさ。こう……何だかなぁって感じで釈然としねぇ。


 でも、このままでいいのかね。面倒な事にならなきゃいいのだけど。

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