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第35話 王都再来! イケメン勇者は連れが欲しい。

「おぉ~、この光景を見るのも懐かしいな!」


「やっと着きましたね……」


 俺は港に降り立つと、長い船旅の疲れを吹き飛ばすように大きく体を伸ばした。


 あれから船上で二日目の朝を迎えた俺達。港に着いた事を知らせに来た船員によって起こされ、寝ぼけながら身支度を整えてフラフラと船を降りたのだ。


 港のすぐ目の前には物々しく重厚な石造りの壁が立ちはばかり、それは王都の周りをぐるりと一周している。


 その守られた壁の中に存在するのが王都―—フォルモンドだ。

 

「やぁ、おはよう二階堂君。それとフェリアス様にベアトリスちゃんも」


「おう。おはよー」


「おはようございます。勇者様」


「……」


 俺達よりも先に船を降りていた神宮寺が顔を見るや否や嬉しそうに手を振って駆け寄ってきた。


 何て言う爽やかな笑顔なんだ! 眩しい! 眩しすぎて直視できないどころか、俺のダークサイドが浄化されてしまう!


 その後ろからエリアスや亜人の二人、そして数人の冒険者が釣られるように歩み寄る。全員が神宮寺のパーティーなんだろう。お供引き連れ過ぎじゃないか? 腰に付けたきび団子でも与えたってのか? いや……もしかしたら腰じゃなくて股に付けたきび団子を……これ以上は考えたらまずいな。


 俺の横に立っているフェリたんが淡々とした挨拶を返す。


 ベアトリスに至っては見慣れない人達を目を丸くして見上げながらペコリとお辞儀をするのみだった。


 こいつは王都に来るのは多分初めてだろうし、船でもそうだが村以外の人と会うのもこれが初めてなはずだ。そりゃこういう反応になるのも無理はないよな。


「しかしまぁ、王都に来るのも半年ぶりだな。何にも変わってなくてつまんない」


「そりゃそうでしょ。半年くらいで目に見えて大きく変化してたらそれはそれで問題じゃないかな?」


「ちぇっ。王城の一つでも粉微塵になっていてくれたらもうちょっと景観良くなると思っていたのに」


「…………そんな事になったらこの国が崩壊しかねないと思うんだけど」


 別にいいじゃん。


 異世界から人間を召喚して勇者に仕立て上げなきゃならないほどこの国は終わっているわけだし。


 自国で賄えない戦力を異世界人で補おうなんて考えする時点で崩壊してるようなものじゃん?


 こんなこと口にしたらフェリたんに挽き肉にされるから言わないけどさ。


 そんなの怖いもん。二度と味わいたくないから止めとく。


「それにしても……ちょっと早く着いちゃったみたいだね。会議の日程まあと3日もあるよ」


「まぁ、それまで王都観光でもしてればいいんじゃん? 俺も久々だし色々と見て回りたいからさ」


「おおっ! いいね! どうせなら一緒に行こうよ!」


「えぇ……神宮寺の横を歩くとかどんな罰ゲームだよ」


「そ、そんなぁ……」


 冗談交じりにそういうと神宮寺はまるで大切なオモチャを取り上げられた子どものように悲しげに嘆く。顔を伏せて今にも泣きそうだった。


 いやいや、何でそんなに落ち込んでいるんだよ。おかしいだろ。


「じょ、冗談だよ。久しぶりに来たから色々忘れてることあるだろうし、道案内役として付いて来る事を許そう」


「やった! って……それなんか微妙だね」


「微妙もクソもあるかよ。何だったら神宮寺の行きたい場所に着いていくからさ」


 まぁ、これくらいは譲歩してやるか。というか、俺は王都に半年も来ていないのだからどこに何があるかなんてほとんど忘れてしまったわけだし。


「……うーん。そうだね。考えておくよ」


 言われてすぐにはいきたい場所が思いつかないらしく、顎に手を当てながら真剣に考えているようだ。


「そう言えばフェリアス。あなた、久しぶりに王都に来たのですからお父様とお会いしてはどうですの? きっとお父様も会いたがってると思うんですの」


「そうですね。私も丁度、同じ事を考えておりましたので……ですが」


 後ろで二人の楽し気な会話が聞こえてくる。フェリたんは何故か俺の顔をチラチラと見つめて何か迷っているようだ。


 エリアスはどうなのかは知らないけど、フェリたんは半年も自分の家族に会っていなかったんだからな。普通は会いたいよな。


 あんなクソ国王でも一応はお父さんなんだし。まぁ、クソだと思っているのは俺だけなんだけど。


 でもなんでだ? 会いに行きたいなら素直に会いに行くと言えばいいのに何を渋っているんだ?


 はっ!? もしかして……俺とのキャッキャウフフなイチャラブ王都デートが出来なくなる事を気に病んでいるとか!?


 そうか……フェリたんは俺とのデートと自分のお父さんに会いに行くとを自分の中の天秤に載せて葛藤しているんだな! どっちが自分にとって大切なのか悩んでいるんだな。


 全く……素直じゃない奴め。そうと決まれば俺が言うべき事は一つじゃないか。


 俺は髪をさらりと掻き上げて白い歯を見せながら紳士的な笑みを向ける。


 そんな格好いい俺に見惚れているのか、フェリたんは俺の顔を目を丸くしながら見つめていた。


「行ってきなよ、フェリたん」


 わざと声色を変えてイケボ口調にしながら紳士的な笑みを崩さずに告げた。


 さぁ、フェリたん。俺の天使のような優しさに惚れるがいい! いや、フェリたんは俺にすでに惚れてるからこんな事する必要なんてないのだけどね。


「はぁ。別に言われなくても行くつもりですけど? というか、その気色悪い顔止めてくれませんか気色悪いですしキモいですよ」


「フェリアス……あなたの勇者様は曲がりなりにも仲間なのだからちょっとは優しく出来ませんの?」


「良いぞおっぱい、もっと言ってやれ!!」


「あなたは黙ってろですの」


 さすがに、第一王女であり自分の三つ上の姉ちゃん相手に反論なんて出来まい!


「は? こんなのが仲間だって言うんですか? 冗談きついですよ。彼はただの監視対象です。仲間などと思った事は一度もありません」


 だが、フェリたんは全く物怖じする事なくきっぱりと言い放った。


 そこまでキッパリと言い切られるとなんかこう……心にグサッとくるものがあるよね。ちょっと興奮したけど。


「あぁ……そういえばそうでしたわ。あなたは勇者様の監視のために一緒にいるのですよね」


「ちょっ!? 食い下がるの早過ぎない!? もっと頑張ろうよ! そのおっぱいに誇りはないのか!」


「いい加減おっぱいおっぱい言うのやめないと、第一王女の権限で極刑に処しますわよ」


「ケッ! 所詮はただの脂肪が詰まった皮袋か。夢も希望もあったものじゃねぇな!!」


「エリアス様にここまで言われても引き下がらないなんて……呆れるべきなのか賞賛するべきなのか分からないよ」


 俺達三人のやり取りを眺めながら神宮寺が頭を抱えて嘆息した。


「いやいや勇者様? 呆れる事はあれど賞賛するべき事ではないですわよ?」


 間髪入れずにエリアスの的確なツッコミが放たれる。


 は? 呆れるところじゃねぇだろ。褒め称えてチヤホヤするところだろ。


 権力に屈することなく立ち向かう俺ってばステキ!


「とにかく、そういう訳ですから私はお姉様と一緒に王城へと戻ります。どうせなら勇者様も……ああ、いや。勇者様に来られてはお父様も気が気ではないと思いますので、来なくて結構です」


「いや別に行くなんて一言も言ってないし。俺は神宮寺と一緒に王都観光してるから」


 隣の神宮寺がやけに楽しそうに見えるのは俺だけなのかな。さっきからニヤニヤしてばっかりなんだけど。


「分かりました。申し訳ございません勇者様。お手数をお掛けしますがそこの出来損ないをよろしくお願いします」


「あっ、はい! 承りました!」


「そんな言い方しなくてもさぁ」


「日頃の行いの結果ですよ。それよりも……」


 フェリたんは鼻をフンと鳴らしながらそういうと自分のバッグに手を突っ込んで中を漁り、少し大きめの麻袋を一つ取り出した。


 あれって……俺から没収した財布じゃないか。


「これ、お返ししておきます。私が王城に行っている間に適当に宿を手配しておいてください。どうせ会議がある日までは王都に留まる事になるでしょうし。お金がないと何かと不便でしょう? 言っておきますが、そのお金は―—」


「――はいはい。分かってるって。出費は最小限にしろって事でしょ? 任せなさいって」


 今まで金を使う事なんて全くなかったんだから、物欲なんてほとんどないし。


 そりゃ、携帯ゲーム機とかパソコンとか売ってるんだったらソッコーで大量買いしてただろうけど。この世界にそんなものはないからな。


「そういえばさ、ベアトリスはどうするんだ? 後あと、神宮寺の亜人二人も」


「そうですね。いくら私達が一緒だと言っても……さすがに王城へ入らせるのは」


「ええ。王都は国内でも一番亜人排斥が強い場所ですの。私としても遺憾ではありますが、王城へ亜人の侵入を許したともなれば民の反感を買ってしまう事にもつながりますから」


 エリアスはそう言いながら悔し気に眉を寄せる。


 この様子だと、エリアスも亜人に対して悪い印象は持っていないようだ。


 そりゃ、悪い印象を持っていたとしたら神宮寺が助けた亜人二人はここにはいないだろうし。


 王家の名を穢さない振る舞いをする事と自分の感情とで板挟みになっているってところなんだろうな。きっと。


「ベアトリス……申し訳ありませんが勇者様と一緒に付いて行ってはくれませんか? 私はどうしてもあなたを連れて行くわけにはいきませんので」


 フェリたんはベアトリスの前で跪き、申し訳なさそうに告げた。


 俺の顔をチラチラと見て不安げな表情をするベアトリスは躊躇いながらも小さく頷いて、縋るように神宮寺の背後に身を隠した。


 服を軽く掴んで目を伏せ、警戒しているのか俺に繰り返し視線を送っている。


 お、おや? 昨日の夜、結構いい雰囲気になったと思っていたんだけどな。やっぱりまだ嫌われてる?


 ちょっと待てよ? この状況で神宮寺の後ろに隠れたって事は本能的に神宮寺の方が強いって思われているのか!?


 ちくしょう!! 事実だから何も言えねぇ!!


「勇者様には他に二人も亜人がおられますし、あなたに任せておけば安心ですね」


「ええ。うちの勇者様はその辺りキッチリしておりますから、問題ありませんの」


「勇者様大好き!!」


「僕、勇者様のお嫁さんになりたい!!」


「ちょっとサロス!? 君は男の子でしょ!? それじゃどっちもお婿さんになっちゃうよ。それとベアトリスちゃん? ずっと後ろに掴まられると動き辛くて……ね? 例えば隣に来てくれるとか……」


 ヘラヘラと苦笑いを浮かべながらお願いする神宮寺だが、ベアトリスは嫌々するように激しく首を振って抵抗する。


 王女様二人と美少女・美少年の亜人三人に囲まれチヤホヤされる神宮寺をまじまじと見せられ。


 俺は完全に蚊帳の外だった。


 クソッタレ! やっぱりコイツ嫌いだ!

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