第32話 触手プレイにはご用心
ドォォォォォォォォン!!
「うひゃぁ!? な、何だ!?」
気持ちよく眠っている最中に凄まじい爆音が聞こえて、俺はその音の大きさに飛び起きてしまった。
船が揺れるほどの爆音に、外はかなりの騒ぎだ。忙しなく駆け回っているのがその足音と声だけで分かる。
何なんだ? 一体何が……
「勇者様!!」
そう考えていた矢先、ガチャリと勢いよく扉を開けて駆け込んできたフェリたん。
息を切らし、額には汗を滲ませて、かなり切羽詰まっている表情をしている。
かと思えば、俺の顔を見るや否やギッと俺を睨みつけて、部屋の端に荷物と一緒に置いていた武器を乱暴につかみ取り、有無を言わさす俺の首根っこを掴みそのままベッドから引き剥がした。
「ちょっ!? 何!? 何なのさ!! さっきの音は何なの!? こっちが気持ちよく眠っている時に」
「何が気持ちよく眠っている時にですか! もうお昼近くなんですよ! 全く……私が起こさないとすぐこれですからね」
「分かったから! 三度寝したことは謝るから! せめて何があったのかだけ教えて!」
そんな最中でも、何かと交戦でもしているのかいくつもの爆音が外で鳴り響いている。
さすがに想像は付くけど一応は確認をしておきたい。
「魔物が出たんです。しかも、アネモニアです。でも、一体何でこんなところに……」
魔物の名前を告げたフェリたんは、顔を顰めながら独り言を呟いた。
フェリたんがこんな顔をするくらいだからかなり危険な魔物に違いない気がするけど……アネモニアか。
何か……全然聞いたことのない魔物だけど。海なんてほとんど来ないから知らないだけか。
俺はフェリたんに引きずられながら甲板へと連れていけれると、
「いやぁぁぁぁ!!」
「ぬ、ぬるぬるいやぁ……」
「離してぇ!!」
とんでもない光景が広がっていた。
船首のすぐ目の前に浮かび上がった不思議なピンク色の球体。
それは粘膜のようにぬめりを帯びて、中心には縦筋の入り襞のようになった口が備わっている。
完全にその襞が開いているわけではないが、見たところそこには歯が備わっているようには見えない。
だが、それ以上に目を見張るのはそれを取り囲むようにいくつもの触手が備わっている事だった。
人の太ももほどに太い物もあれば、小指ほどに小さいものまで多様にありそれぞれが意思を持っているかのようにうねっている。
くしくもその触手に捕らわれの身となってしまった女性陣が全身ヌルヌルにされながら頬を染めて悶えている。
そこにエリアスの姿もあって、お約束のごとく触手はそのけしからんおっぱいに反応して揉みしだいていた。
「クソッ! ダメだ。この魔物、全然歯が立たねぇ!」
「捕らわれてなけりゃ、もっとでかいもんぶち込めるのによ。どうにも出来ねぇのか!?」
おそらく冒険者だろうか。魔法での攻撃を試みていたようだが、捕らわれた女性陣への被害から躊躇してしまっているようだ。
さっき聞こえていた爆音はこれなのか? それにしてはかなり激しい音だった気がするけど。
いいや、それよりもだ。
「いやぁ、 こりゃ絶景かな絶景かな」
「何見てそんなこと言ってんだクソがシバくぞ!!」
いつにも増してフェリたんの罵声にキレがあった。いや、トゲがあった。
ともかく船に乗船していたエリアスをはじめ、見知らぬ女性陣までもが触手の餌食になってしまうとは。
こりゃ……触手がエロイ行為を始めるまで見物して……いかんいかん、そんな事をすればフェリたんに何度殺されるか分かったものじゃない。
かくなる上は……
「よし。神宮寺に全部丸投げだ!」
「卑怯勇者様……」
そんな新たなレッテルを張りつけて俺の肩をツンツンと突くフェリたん。
振り向いてフェリたんが指を差方向へ目を向けると、
「あっ……あう。ああっ、うへっ……あう」
全身ヌルヌルにされ、半裸の状態で甲板に倒れている神宮寺の姿があった。
頬を染めて口を半開きにしながら恍惚な表情を浮かべ、弱弱しい声で喘ぎながらビクンビクンと体を震わせている。
それになぜか……ズボンも開けていた。完全に脱いでしまっている訳じゃないが、パンツが見えている状態でだらしない。
な、何だあれ。どうしちゃったんだ? 神宮寺らしくない酷い有様だぞ?
「お、おい。神宮寺?」
不規則に体を震わせている神宮寺が心配になって、俺は恐る恐る近づいてその肩に触れてみた。
「はうん!?」
触れた途端、ヌルヌルの粘液のせいで服がズルリと神宮寺の肌に擦れた。
その刺激に、甘い声を上げてビクンと体を跳ねらせる神宮寺。
俺が近くにいる事すら全く目に入っていない様子で、心ここにあらずといった様子だ。
「え? 何これ。何があったの!?」
全身ヌルヌルでしかもこの表情。
体を不規則にビクビクと振るわせて、体に触れるとこの反応って。
「なあ、フェリたん。まさか神宮寺は……」
「み、みなまで言わないで下さい。あれを見せられて気が滅入ってしまったんですよ」
フェリたんは俺から逃げるように目を逸らし、そのまま俺に背を向けていた。だが、真っ赤になっている耳までは隠せていないようだ。
ああっ……このフェリたんのしおらしい態度でなんとなくわかったよ。
要するにこの神宮寺優志君は、触手プレイでイカされた訳だね。
「そこの勇者様、自分がみんなを守るからって言ってあの魔物に突撃していったんですけど……目も当てられないほどあっさりと触手に絡めとられて……後はもう」
そ、想像したくねぇ……男の触手プレイとか。気持ち悪くて吐き気がする。
背を向けながら途切れ途切れで説明するフェリたん。まあ、こんな状態になるまで触手の洗礼を受けているんだから、お手前は相当な物なんだろうね。
で、でも……あのイケメンで非の打ちどころのない神宮寺がこんな状態にされてしまうなんて、一体どんな気持ちいい事をされたのか気になって仕方がない。
そんな勇者様の無様な醜態を見せられてか、他の男性冒険者や船員達は完全に委縮してしまっていた。
俺の魔剣も抜剣寸前だが、なけなしの理性と俺の中での男としての何かと倫理的なアレという色々な問題が頭の中を巡って何とか堪えている状態だった。
多分、あれの触手の洗礼を受けたらもう戻ってこれない。そんな気がする。
「で? 俺にどうしろと?」
「いや、戦えよ」
俺の問いかけに、フェリたんは手に持っていた俺の武器を投げつけて真顔で切り返した。
それを俺は受け取ってはぁ、とため息を吐く。
「あのねぇ……無茶言わないでよ。あれだけ人が捕らわれているのにどう戦えっていうのさ。俺にそんな繊細な事出来ると思う?」
「得意げにそれを言いますか。安心してください。勇者様はアネモニアの駆除を、私が捕らわれている方々を救助します」
何故かフェリたんが仕切っているが、もうそれはどうでもいい。
このまま放置していたらフェリたんが機嫌を損ね兼ねないし、あのアネモニアって魔物も危険じゃないなんて保証はないからね。
俺はいくら殺されても死なないけど、知り合いが死ぬのを見るのは正直御免だ。
やるっきゃないかな。
俺は長らく鞘に収めていた剣を引き抜いた。
そのまま船首に近付き、剣を構える。
隣にはフェリたんもいて、お互いに目を合わせてコクリと頷いた。
「だて……ん?」
武器の力を解放しようとしたその時、突如キュウウウウと奇妙な甲高い音が聞こえて途切れてしまう。
その声を発したのはどうやらアネモニアのようで、急にとらえていた女性陣を一斉に投げ飛ばし始めた。
それも叩きつけるほどに強く投げ飛ばすという訳ではなく、誰かが反応してキャッチ出来る程度には猶予がある投げ方だった。
「え? 何? 痛っ!?」
奇妙な行動に呆気に取られていると、握っていた剣の手元を触手で鞭のようにビシッと叩かれ俺は思わず剣から手を放してしまう。
その拍子にいくつもの触手が俺に襲い掛かり、呆気に取られている間に手足を拘束されて身動きが取れない状態にされた。
幸いな事に剣は海に落とす事はなかったが、今はそれどころじゃない。
全身をうねる触手。触手から滲み出る粘液で体はもうヌルヌルだった。
「うおっ!? おおお?? ちょっ!? これマジヤバい!!!」
襟の隙間から人間の腕ほどに太い触手が滑り込み、甘美な刺激を与えてくる。
これはマジでヤバい! 神宮寺があんな状態になったのも頷ける。
するすると胸を通り過ぎて腹へと向かい、服の中を弄るように進む触手はとうとう下腹部まで来て……
するりと腰の方へと回り始めた。
え? ……何これ。どういう事!? もうすでに魔剣はバースト寸前だったのになんていう期待はずれ! なんていう焦らし!
と、思ったのもつかの間。触手が向かっていた本当の目的は……
「ひうっ!?」
いきなりの感触に俺は身悶える。
どうやら触手の目的は俺のおしりだったようだ。しかもなんか穴の方をツンツンされてるんだけど何して、
「ふん!? ギィィィィィィィィィィィ!!!!!」
突如として襲い掛かる猛烈な感覚。
本来逆行しないはずの場所に無理矢理入り込もうとする感覚。
それはもう激痛とかそういう次元の問題じゃない。猛烈な異物感となんとも言い難い不思議な感覚とが点滅するように交互に現れ、俺は目をパチクリさせた。
なにこれ!? マジでナニコレ!?
キツイ!! キツイキツイ!!! ケツの穴が広がる!!
「はっ、ぎぃぃぃぐぎぃぃ!! はっ、ぐぃぃぃぃぃ!?」
息吐く暇もないほどケツに挿入された触手が体の中を掻け入り、体中を弄る夥しいほどの触手が俺を襲う。
こ、これダメ! マジでダメ! 安易に触手プレイだひゃっほうとか考えていたけど全然違う。
そう考えていたのもつかの間、俺の体の中を掻き分けながら進んでいた触手が一瞬だけズズズッと引っ込んだかと思うと、
次の瞬間、脳天を貫くほどの凄まじい衝撃が下から上へと駆けあがってきたのを最後にテレビの電源が切れるようにプツリと意識が途絶えてしまった。