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第27話 フェリたんにおんぶしてもらうなんて、その場所俺のなんだからな!?

「ふぁぁぁぁ……」


「全く、朝からだらしない……ほら、もっとシャキッとする!」


「痛ッ!? もう……やめてくれよ」


 ヴェダ―マーレの宿屋に宿泊して翌日の事。


 気持ちよく寝ていたところにフェリたんが乗り込んできて、俺は叩き起こされた。


 寝ぼけ眼を擦りながら大あくびを一つすると、隣に立つフェリたんが俺に渇を入れるためなのか、背中を平手でバシッと叩く。


 まだ寝ていたかったのに……何でこんな早くに叩き起こされたんだよ、俺。


 まだ太陽が昇りきっていない早朝。


 人々の往来は夜に比べて少なく、活気に溢れているとは言えない。


 観光客などはまだ宿でゆっくり寝ている頃だろうが、店の従業員はせっせと開店準備に精を出しているようだ。


「こんな早く起こさなくても良いじゃないか。ゆっくり寝てたいよ」


「あのですね……そうやってあなたを甘やかしていたらいつまで寝ているか分かったものじゃないですよ。この間だって日暮れまで起きてこなかったじゃないですか」


「い、いやぁ……それはまあ、夜中に色々とあれやこれやで男の子としてのアレがアレしたというか……」


 い、言えねぇ……あの時は夜中にムラムラして連続で3発かまして疲れ果てて寝てたなんて言えねぇ。


「そ、そんな事よりも! それはなんなのさ!」


 俺は誤魔化すように話を切り替えて、フェリたんの背中を指差した。


 フェリたんの背中に背負われているのはすうすうと寝息を立てるベアトリス。


 あろうことかベアトリスは、俺を差し置いてフェリたんにおんぶされているのだ。


 けしからん! 実にけしからん!


 そこは俺のスペースなんだよ! 何勝手にフェリたんの背中の匂いを嗅いでるんだ!


「それとは失礼な。ベアトリスですよ」


「そんな事は知っているさ! 何でおんぶしてんのって事!」


「何でって……見てわかるでしょう。まだ眠そうにしているからですよ。昨日は龍車を走らせてもらっていますからお疲れでしょうし、まだ子どもですから無理矢理起こす訳にはいかないでしょう。だからこうしておんぶしているんです」


 そんな事ってありかよ。俺だって今めっちゃ眠いのに。


 まあ……正直凄く羨ましいけれど、ベアトリスが相手なら仕方ないか。


 昨日はあんな大惨事になったとは言っても一応は龍車を走らせてくれていたんだし、疲れているのは当然だよな。


「だったら俺も抱っこしてくれ! いや、して下さい!」


「紐で括り付けて引きずるくらいなら許してあげますよ」


「ケチー!!」


「何がケチですか。下らない事言ってないでバッグ持ってください」


「え?」


 そう言ってフェリたんは自分のバッグに目を向けて、顎でクイッと示す。


 そこにはフェリたんが持って来た大量の氷砂糖が入ったバッグと、ベアトリスが持って来たバッグが置かれていた。


 もう一つ、フェリたんが持って来ていたバッグは胸の前に掛けている。


「えぇ……俺、自分の荷物もあるんだけど」


「一つしか持っていないじゃないですか。私はベアトリスをおんぶしていて手が塞がっているので持ってください」


「はぁ……仕方ないなぁ」


 俺は嫌々ながらフェリたんとベアトリスのバッグを手に取った。


 ベアトリスのバッグを背負い、俺のバッグは胸の前に掛けて、フェリたんのバッグを両手に持つ。


 なんか俺……フェリたんとベアトリスの使用人みたいな気分なんだけど。


「勇者様! フェリアス様! それにベアトリス様も! お待たせしましたぁぁぁ!!」


 遠くから聞き覚えのある声が聞こえて目を向ける。


 大きく手を振りながら駆け寄ってきたのはべナードだった。


 目の前まで立ち止まったべナードはその場で上体を倒し、両膝に手を突いてぜぇぜぇと息を切らしている。


 そりゃ、そんな体格してたら少し走っただけでも息切れるわな。どこから走ってきたかは知らないけど。


「おはようございます、べナード」


「おはようございます。フェリアス様。勇者様にベアトリス様も」


 べナードはそう挨拶を交わすと、深々と頭を下げた。


「おや? ベアトリス様はまだ眠られているのですか?」


 頭をあげる最中でフェリたんの背後に背負われているベアトリスに気付いたべナードが首を傾げてそう問いかけた。


「ええ。相当疲れていたのでしょうね。このとおりぐっすりですよ」


「しかし……随分とまぁ気持ちよく眠っていますね。朝方とはいえ周りは結構騒がしいと思うのですが」


 そう言われれば、俺とフェリたんとのやり取りの際にも起きる素ぶりも見せていなかったな。


 周りも船への積み荷の準備とかで船員達の怒号が飛び交っているからこれで起きないとしたら何しても起きないんじゃ?


「私も驚きました。この子……おんぶしようと体を動かした際も一切起きませんでしたから」


「そうなんですか。船に乗船されれば部屋がありますしベッドもありますから、後はそちらで休ませた方がいいでしょうね。フェリアス様もずっとおんぶしているとお辛いでしょうし」


「いえいえ。そんな事はありませんよ。何と言いますか……私は王家の姉妹の中では一番下でありますから、こうしていると年の離れた妹が出来たようで……新鮮な気分なんです」


 優し気に微笑みながら気恥ずかしそうに頬を染めるフェリたん。


 何この子! そんな顔俺には全然見せた事ないじゃん! 妄想の世界以外では!


 ち、畜生! どんどんベアトリスがフェリたんの好感度を上げていく! このままではフェリたん×ベアトリスの百合ルート確定じゃないか!


 異種族間百合ルートとか……なにそれちょっと萌える。


「そう言えば……他の王女様の動向も耳にしますね。なんでも第一王女エリアス様や第二王女リア様は召喚された勇者様と共に冒険に出ているだとか、お二人はその勇者様に心酔されているとも聞きますね。第三王女フェリス様も勇者様と同行されていますが、お相手は女性の勇者様のようですよ」


「ええ。異世界から召喚された勇者様ですから、価値観や文化の違いに興味を持たれているのでしょうね。フェリスお姉様に至っては……男性よりも女性がいいのだと思いますよ」


 そういえばフェリたんの家系って女系だったな。


 四姉妹のうち、フェリたんは一番下。つまりは末っ子に当たる。


 他の王女様を見た事があるが……特に第一王女のエリアス様、あの人はマジでヤバい。


 エロイ! マジエロイ! 胸デカい! 俺の推定では軽くFは越えてるはずだ。


 世の中の男なら誰もが羨み、性的な興奮に目覚めるだろう。


 他の王女様もけしからんおっぱいだったけど……第一王女には敵わないだろう。


 そう、第三王女まではかなり育ちのいい体つきなのに……なのに。


「どうしてこうなるんだか」


「あ? 人の胸凝視して何言ってんだコラ」


 思わずボソリと呟いてしまった独り言を聞いていたのか、俺をギロリと睨みつけるフェリたん。


 あっ、やべ。これは後から殺されるパターンだ。


「さて、長話もなんですから船の手配を済ませましょうか。こちらへどうぞ」


 べナードに言われるがまま、俺達はその後ろからついて行く。


 宿屋からそう遠くない場所に位置する大きめの建物へ案内されると、中はすでに乗船の手続きをしにきている人もチラホラ見られた。


 受付が3つほど設けられており、その奥では受付嬢が営業スマイルを浮かべながらせっせと働いている。


「では、私が手続きを済ませてきます故、しばしお待ち下さい」


「……分かりました。お願いします」


 手の塞がっているフェリたんでは手続きが難しいと考えたのか、べナードが名乗り出る。


 フェリたんも悪いとは思いつつも、今の状況ではどうにもならないと感じたようで諦めたように頭を下げてお願いしていた。


 それを聞いたべナードは心底嬉しそうに小躍りしながら窓口へと駆け出していった。


 あのおっさん、本当に良い人だな。


「そういえばさ、何でここから王都まで船で2、3日掛かるわけ? そんなに遠くなかった気がするんだけど」


 ベリド村が王国から一番遠い場所に位置するとは言っても、そんなに遠いわけではなかったはず。


 陸を辿って王都へ帰るというならまだ分かるけど、船を使って帰るのにそこまで日数がかかるとは思えない。


「一番の問題は魔物に襲われないようにしているというのがありますね。海に潜む魔物に対する対策は取っているものの船がダメになってしまったら海上では対処が出来ませんから。大きな船であっても沈没させるレベルの魔物は多く存在します。だから、なるべく刺激しないように危ないところは避けて通っているんですよ」


「なるほどね……確かに船の上では対処できても、海に投げ出されたら地の利は海の魔物(あっち)にあるからな」


 さすがにこの船旅で魔物に襲われる、なんて事は起こらないで欲しいけど。


 今、マジで。フラグとか抜きに。


「皆様!! 手続きが終わりましたよ!」


 手に持った三枚のチケットをビラビラと揺らしながらべナードが楽しそうに駆け寄ってくる。


 それを俺に一枚、ベアトリスの分を含めた二枚をフェリたんへと渡した。


「王都まで向かう船で本日一番早く出航するのが、ポルセドナス号と呼ばれる船です。その乗船チケットになりますね」


 チケットには船の絵が描かれており、そこに何かの紋章なのかハンコが押されていた。


 ポルセドナス号の名前も乗船の値段も『片道銀貨5枚』としっかり描かれているようだ。


 合計で銀貨15枚。まあ、感覚的には元居た世界の乗船料よりも少し安いくらいか。


「すみません。お金まで出して頂いて……私のバッグにお金が入っているのでそこからお返ししますよ」


「い、いえいえ! お気になさらないでください! 私が良かれと思ってやったことですから」


「いいえ……ですが」


 お金を返そうとするフェリたんに、べナードはヘコヘコと頭を下げながら断ってしまう。


 やっぱりお金の貸し借りは苦手らしい。フェリたん昨日も断っていたし、その辺気を遣うのが面倒なのだろうか。


「もう、分かったよ。俺が全員分立て替えておくから」


 俺はバッグから自分の麻袋を取り出して、支払った乗船料分をべナードに無理矢理渡す。


 最初は受け取れないと断っていたべナードだったが、俺が強引に押し付けて返そうとすると観念して渋々受け取っていた。


 これ以上の借りは作りたくねぇ。今度は何されるか分かったものじゃないからな。


「ま、まさか……あの穀潰しで有名なクソニート勇者様が自らお金を返すなんて。明日は国が滅びそうですね」


「ちょっと!? 俺の善意は国家問題にまで発展するのかよ!? 怖いよ!」


 ちくしょう。素直にありがとう、大好き、結婚して! くらい言えないのかな。この王女様は!


「ところで勇者様」


「なんなのさ」


「どうして勇者様がお金を所持しているのですかね。私てっきり、お金は食い潰したとばかり思っていたのですが」


 フェリたんの恐ろしいまでの満面の笑みが俺に向けられる。


 だが、目が超冷ややかだ。全身が凍るレベルで冷ややかな目を向けられている。


 すみません、目が笑っていないのですが。


「まさか、忘れてはいないでしょうね? あなたが食い潰したお父様から頂いた支援金。あれは国民の税金の一部から使わせていただいている物なのだと。その支援金をまともに魔王討伐もせず当り前のように食い潰したあなたが、まだお金を隠し持っていたなんて驚きですね」


 うっ……ま、まだそんな事を覚えていやがったか。


 最近は何も言ってこないから忘れたものだとばかり思って、都合よくそれに乗じていたのに。


「さぁ、言ってみてくださいよ。一体いくら持っているのか」


「銀貨100枚」


「おや? おやおやおや? とてもそんな風には見えないのですがね。ちなみに勇者様に出す支援金は銀貨以上が通常ですから、銅貨と言っても言い逃れは出来ませんよ」


「はい。すみません。嘘言いました。銀貨500枚です」


 クソッ! 俺とした事が油断した。


 俺がお金を持っている事はフェリたんは知らないから、この流れだと最悪の展開になる気がする。


「没収です。私のバッグに入れて下さい」


 はい来た。来ました。最悪の展開です。


「…………はい」


 俺は言われるがままに渋々フェリたんのバッグに入れた。


 本当なら全力で断りたいところだけど、ここで断ってしまったらマジでフェリたん怒らせる事になるからな。


 まあ、もう仕方ないわ。これは。俺が油断してしまったのが悪い。


「あぁ……そ、それでは船にご案内しますね……」


 気まずそうに苦笑いを浮かべるべナードは外を指差しながら俺達に呼びかける。


「分かりました。行きましょう」


「ううっ……はい」


 お、俺のお金……いや、俺のではないんだけど。


 王都に行って色々と買ってこようと思っていたのに……なんてこった。


 俺達はべナードに連れられ、港に停泊している船へと案内された。


 それはチケットに描かれている船と同じ船で、全体的に海賊船のような印象が目立つ。


 すでに乗船している人もいるようで、どちらかと言えば庶民向けの船なのだろう。貴族のような高価な服装をした人はいないようだ。


「これが今回乗る船ですね。チケットは入り口の船員に渡してください」


「色々とすみません、こんな事までしていただいて」


「いえいえ。船旅は長いですがゆっくりと寛がれてください」


 言いながらべナードは深々と頭を下げる。


 本当、あのクソ領主の知り合いっていうのにこの人柄の差は何なのだろうか。どうしたらあんなに野蛮になれるのか知りたいものだ。


「勇者様も……その……頑張って下さい」


「え? あっ、うん。が、頑張る」


 特に言う事ないなら無理して言わなくても……。


 まあ、その気持ちは正直嬉しいんだけどね。


「それではべナード、私達は船に乗りますね。本当に、昨日から色々とありがとうございました」


「いえいえ。気になさらないでください」


 ニコニコと満足げに微笑むべナードに、フェリたんは静かに頭を下げる。


「それでは、また……」


「ええ。また会う日まで」


 俺達はべナードに見送られながら、船へと乗り込んだ。

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