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第20話 捕食は全男子が憧れる夢の展開なんだ。興奮しない奴はいない!

 グチュグチュと総毛立つような不快な音を立てながら俺の首筋にむしゃぶりつく少女。


 凄まじい激痛に何とか逃れようと暴れるが、食い込む両腕の鎌と足でがっちり押さえつけられてほとんど身動きが取れない。


 ちょ、ちょっと待って! これ何!? 俺、捕食されてんの!?


 いやいや、確かに俺は捕食シーン好きだよ!? 特に男がモンスター娘に捕食されるシーンは抜けるけど!


 だからってこんなエロさの欠片もないガチの捕食なんて興奮するわけ……。


 痛みで身悶えしていると、少女はまるでキスをするかのように齧り付いた傷口に吸い付いてきた。


 ゴキュゴキュと大きく喉を鳴らしながら傷口から溢れ出す俺の血を必死に飲んでいる。


 …………やべぇ、もう俺このまま食われて良いかも。


 い、いやいやいや! 良くないから! 可愛い子に食われるのもめっちゃ勃起モノだけどさ!


「ひぎっ!! いぎぎぎぎ! ひぐいっ……いぎぎ!!」


「じゅるるるるるる……っぱぁ、はぁ……はむっ、じゅるるるるるるる」


 し、死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ! これ死ぬ! 顔の横でめっちゃエロイ音立てて吸い付いているけど、普通に考えて死ぬ!


 というか耳元で甘ったるい吐息出すのやめて! ただでさえこのままこの子の栄養になりたいという気持ちとほんのわずかな理性の狭間で葛藤しているというのに! だいぶ前者に傾いているけど。


 というかこれ、食われる前に失血で死ぬんじゃね!?

 

 そんな恐ろしい結末を想像して更に力付くで抜け出そうとしたがすでに遅く、すでに多量の血液を失ってしまったようで手足はピクリとも動かせなかった。


 それどころか、急激に寒くなってきたように感じる。


 お、おかしいな。もうすぐサラマドリア期に突入するって時期なのに、すげぇ寒い。まるでウルディーナ期のような寒さだ。


 体が震えるくらい寒いのに全然体を動かせない。意識が……遠く……なってきた。


 だ、ダメだ……もう何も考えられない。痛みも感じなくなってきた。この子の体の温かさだけがどうにも心地よく感じる。


 俺は少女に抱きしめられ、その体温の温かさだけを感じているうちにそのまま意識を失ってしまった。


※ ※ ※


「……はっ!?」


 どれほど時間が経ったのだろうか。


 目を覚ますと俺は、死ぬ前の部屋の床にころがされていた。


 すぐそばには妙にお腹が膨れたカマキリ娘が立っていて、頬を赤く染めながら恍惚そうな表情でお腹を摩っていた。


「だ、大丈夫ですか?」


「うひゃっ!? フェリたん!?」


 突然後ろから声を掛けられてあられもない声を上げて振り向くと、そこには心配そうに見つめるフェリたんと領主がいた。


 多分、俺の叫び声を聞いて駆けつけたのだろうけど……遅いよ! 普通に遅い! 危うく2つの意味で昇天するところだったよ!


「だ、大丈夫……なんとかね」


「何言っているんですか。あなたじゃないですよ」


「え?」


 フェリたんは蔑むような眼で俺を見下ろすとカマキリ娘に歩み寄った。


 続けて領主も、俺を素通りしてカマキリ娘に歩み寄る。


「大丈夫なんですか? こんなのを食べてしまってはお腹壊しますよ?」


「まあ、大丈夫だろうよ。なんか満足そうだし。こいつは肉食だからな」


 おいおいおいおい! 待てぇぇぇぇぇい!!


「さっきから何なんだよ! 二人して何なんだよ! いきなり襲われたの俺なんだからね!? もっと労ってよ! もっとチヤホヤしてよ! もっとサボらせて!」


「おいコラクソニート。最後の二つはあなたの単なる性根の腐った願望でしょうが」


「うっ!? どさくさに紛れて受け入れてもらえるかと思ったのに……」


「大体、あなたの心配なんかしなくても死なないんだから良いじゃないですか」


「良くねぇよ! あやうく射s……死ぬところだったんだから!!」


 あ、危ねぇ! つい勢い余ってお茶の間に流せない事口走りそうになったぜ。


 純情乙女なフェリたんが聞いてしまったら可愛い耳が穢れてしまう。


「それよりも、この子何者なんだ? なんかいきなり食われたんだけど」


 俺は立ち上がって二人の元に歩み寄った。

 

 まだなんとなく足下が覚束ないというか、フラフラする気がするけど……まあすぐに治るだろう。


「ああ。こいつはティシア。見ての通りマンティシアの亜人だよ。他の亜人に比べて虫系の亜人は魔物の本能が強く表れやすいからな。お前が食われたのも魔物としての本能って事だろうな」


「つまり俺は餌だと認識されてたって事!? 嘘だろ! あんなにエロかったのに!?」


 大体カマキリがオスを食う時って交尾した後じゃねぇか!


 ………………あっ。そういやしてねぇな。交尾。


 じゃ、じゃあ俺は本当に餌として食われただけって事!? 抱きしめるように捕まえておいて!? あんなにエロい声出しておいて!?


 そ、そんなの嘘だろ! 嘘だと言ってくれよ! 俺のちょっとした期待を返してよ! 


「ほら、下らない事気にしていないで早く準備して出発しますよ。いい加減諦めたらどうですか」


「はぁ…………もう、分かったよ。行けばいいんでしょ、行けば!」


 俺はさすがにもうこれ以上逃げ回る気力も反発する力もなく、渋々王都へ向かう事を受け入れた。


 これ以上逃げ回ったところで現状が変わるわけでもないし、フェリたんは一度こうと決めたら簡単に捻じ曲げるような子じゃないしな。


 自分たちがいない間でも村が安心だとわかってしまった以上、もう絶対王都に向かう以外に俺が取れる選択肢はない。


 いや、マジで行きたくないよ? 怠いし面倒臭いし、あいつらに会いたくないし。


 はぁ……何でこうなったんだか。


 すべてはあれだ。魔王軍が動き出したのが悪い。


 何で今になって動き出したんだよ。俺が召喚された頃は全く動いていなかったくせに!


「そうと決まればすぐ行動する! ほら、とっとと歩けクソニート!」


「ぐえっ!? ちょ!? 何か俺の扱い雑になってない!?」


 せっかちなフェリたんは首輪に繋がれたロープを掴んで俺を引きずる勢いで引っ張る。

 

 危うくバランスを崩して倒れそうになるも踏ん張って何とか耐えた。


 本当、また生理でも来たのかな? 何か言葉遣いが荒々しくなっている気が……。


 いや、多分高血圧でキレやすいんだろうね。砂糖の摂取量が異常だし。


「なあ、フェリアス様、勇者様」


「はい。何でしょうか?」


 部屋を出ていこうとする俺達を領主は呼び止めた。


 ロープは両手にがっちりと掴んだまま今度は逃がすまいと構えている。


 も、もういいよ。もう逃げないって……今回は。


「一つ、条件を呑んでくれるのだったら、港町まで龍車を出してやっても良いぜ」


「そ、それはすごく助かりますが……その条件とは?」


 フェリたんの問いかけに、領主は卑しい笑みを浮かべる。


 ま、まさか……龍車を出してやる代わりにフェリたんの貞操を奪わせろって事なのか!?


 そうはさせねえぞ! 前々からフェリたんを見る目がエロいと思っていたんだ。


 舐めるようにフェリたんを見やがって、このド畜生領主が!


「ガルルルルル!」


 と、俺が警戒心を剥き出しにして威嚇していると、領主を見失って探していたのかベアトリスがひょっこりと廊下から顔を出した。


 領主の姿を見た途端、大喜びで領主の元へ駆け寄って足にしがみついた。


「丁度いいや。こいつを王都まで連れて行ってくれねぇか?」


 領主は足にしがみつくベアトリスの頭を優しくなでながら言う。


 目を丸くして見上げるベアトリスは頭にはてなでも浮かべているかのように首を傾げていた。


「その亜人を王都にですか?」


「ああ。社会勉強も兼ねて色々な世界を見せてやりたいんだよ。屋敷にいるだけじゃ勉強になることは少ないしな。さすがに灰皿だけをマスターされても将来的に一人で生きていくって事になった時、色々と困る事だらけで良くねぇと思っているからよ」


「そうですね。そういう事であれば引き受けますよ」


「えー! 俺とフェリたん二人だけの愛の逃避行じゃなかったの!?」


「死ね」


「そ、その一言だけで終わらせるのやめて……」


 単なるボケのつもりだったのに……マジの死ねを頂きましたよ。


 話を聞いていたベアトリスはしばらく首を傾げていたが、ようやく内容を理解出来たらしく領主の服を掴んで激しく抵抗し嫌々する子供のように首をブンブン降っている。


「おいおいベアトリス。これはお前のためでもあるんだぞ」


「……!」


 領主が優しく諭そうとするが、聞く耳を持たないベアトリスはそれでも嫌々と首を振っている。

 

「フェリたん、どうやらフェリたんが怖いみたいだねー。よちよち、お兄さんが守ってあげるよ~」


「ヒッ!? ガルルルルル!」


 俺もベアトリスを元気づけようとしたが、小さな悲鳴を上げられた挙句さっきの弱弱しい威嚇とは打って変わってガチの威嚇をされてしまった。


 ……何だよ。こうでも言ったらおとなしくなるかと思ったのに。


「どうしようもないクズですね、あなたは」


「ぐえっ!? ああもう! 何度も引っ張らないでよ!」


 フェリたんは俺を後ろへ引っ張ると、その勢いに載せてベアトリスの元まで歩み寄り目線を合わせるように片膝をつく。


 膝をついた瞬間、ベアトリスは少し怯えた目をしていたがフェリたんの顔を見るとそれも自然と薄れていっているようだった。


 フェリたんは右手をベアトリスに差し出し、顔をじっと見据えて慈しむような笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ。あなたはお姉さんが守ります。もしこの男に何か怖い事をされたらすぐに教えてください。弁明の余地など与えず素首刎ねて八つ裂きにしてやりますから」


 後半の殺戮宣言はどうやら伝わってはいないようだったが、ベアトリスは不安げながらも差し出された右の手のひらの上に自分の手を載せた。


 ベアトリスは領主にしていたようにフェリたんの足にしがみつきはしなかったが、それでもしっかりとフェリたんと手を繋いで離そうとはしない。


 何だと…………あれだけで亜人を懐柔してしまったというのか!? あんな薄っぺらい言葉で!? 冗談でしょ!?


「頼んだぜフェリアス様。それと勇者様」


「あ? 何だよ」


 世の中の理不尽さに打ちひしがれているところに領主が声をかけてくる。


 そのまま俺の元まで歩み寄った領主は俺の左肩に手を置いて、囁けるほど耳に顔を近づけて言った。


「ベアトリスに手出したら、その貧弱な体粉々にしてやるからな」


 領主と言いフェリたんと言い、王族はみんなグロい事好きなのかよ!?


「あはは。やだなぁ、そんな事するわけないじゃないですか」


 とりあえずは、適当に返事をしておこう。

 

 まあ、どうなるかは神のみぞ知るってところだろうけど。


 おっ、俺今上手いこと言った。

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