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第14話 こんな仕打ちってないよ!

「さぁ、みんな。席に着いて」


 村長の号令とともに、集まった村人達がそれぞれ適当に席に座る。


 お年寄りから子供まで村の様々な年代の人が俺のマヨネーズを聞きつけて集まったようだ。


 小さな村なだけあって話の広がりも早いものだ。まあ、その点はフェリたんが駆け回ってくれたおかげなんだけど。


 ともあれ、村のみんなに俺の作ったマヨネーズをお披露目する絶好の機会。


「おお……これが勇者様の作ったマ、マヨネーズというやつか」


「凄いよパパ、何だか酸っぱい匂いがするよ!」


「この匂い……使っているのはビネグラーなの? ビネグラーに何を混ぜたらこんなになるんだろう」


 各々のテーブルに置かれたマヨネーズの入った壺を眺めて、様々な反応が飛び交っている。


 興味を示したり不安を抱いたり……予想はしていたけれど、やっぱり見た目の受けだけでは上手くいかないようだ。


 い、いやいやそうネガティブになるな。見た目はどうであれ問題は味だ。


 村長やフェリたんにも絶賛されたんだ。上手く受け入れてくれるといいけれど。


 ただ、マヨネーズは確かに万能調味料であるけれど万人受けするわけじゃない。味が嫌いな人も確かにいる。


 その点が難関だよな。


「勇君が作ってくれたマヨネーズよ。茹でたお野菜とかペースト状にしたポトリンとか色々用意しているから好きな物と食べて頂戴」


 村長がマヨネーズに合うものとして用意したのは温野菜のサラダとマッシュポテトだった。


 さすがは料理センスが一流の村長。マヨネーズの味を知っただけで、瞬時にそれに合う料理を提案できるなんて。


 マッシュポテトにマヨネーズなんて実質ポテトサラダと同じようなものだし、合わない訳がないよな。


 まあ、俺はじゃがいものホクホク感を残したポテトサラダの方が好きなんだけどね。


 村長の呼びかけに、村人達は目の前のサラダやマッシュポテトをそれぞれ自分のさらに取り分け、俺の作ったマヨネーズも皿の端に添えるように取った。


 村のみんなは不安そうに顔を見合わせると眉を僅かに寄せて、マヨネーズを付けた野菜やマッシュポテトを躊躇があるのかゆっくりとしたスピードで口に運んだ。


 険しい表情のままじっくりと吟味するかのように村のみんなはゆっくりと噛み締めているようだ。


 さすがに異世界アニメのように即大絶賛とまではいかないらしい。


 だ、大丈夫さ。きっと。異世界でマヨネーズを作る事で絶賛されてきた例を考えれば、上手くいかない訳がないじゃないか。


 別に万人受けを狙っている訳じゃないし? き、きっと大丈夫だ。きっと。


 俺はマヨネーズを味わう村のみんなを固唾を飲んで見守った。すると、


「お、美味しい! 何だこの不思議な味は!?」


「爽やかな酸味がクセになるわね!」


「パパ! パパ! もっと食べたい!」


 そこかしこで聞こえる驚きと歓喜の声。


 それは瞬く間に全体を覆い尽くし、村のみんなは笑みを浮かべながら躊躇あった先ほどとは打って変わってマヨネーズを食べ進めていた。


 子供たちはマヨネーズ料理にがっついて掻き込む姿も見られ、中にはマヨネーズの入った壺を脇で挟み込み、そのまま一心不乱に食べ散らかす村人まで現れた。


 す、凄い。まさかここまでマヨネーズの威力が高いだなんて思ってもいなかった。で、でもこれって大絶賛されたって事でいいんだよな!?


 そうだよな!? 俺って天才って事でいいんだよな!?


「勇者様! マジパネェっす! このマヨネーズすんげー美味いっすよ!」


「さすがは勇者様だね! 見直したよ勇者様!」


「勇者様凄い! 格好いい!」


 不安なところも色々とあったが、思いのほか村のみんなはマヨネーズを気に入ってくれたようで俺に向かってみんながうれしそうな声を上げていた。


 や、やべぇ。顔がニヤけてしまいそうだ。というかもう気持ち悪いくらい笑っているかもしれない。


「そうだろ? そうだろ? 天才勇者様と褒めてくれても良いんだぜ?」


「よっ! 我らが偉大なる勇者様! あんたに一生付いていくぜ!」


「またまたぁ、そんなに褒めるなよぉ。まあ、当然の結果だよな! だはははは!」


 フンと鼻を鳴らして胸を張り、腰に手を当てながら大げさに笑う。


 そんな俺を隣にいたフェリたんは冷ややかな目で見つめていた。こころなしか、僅かながら口角を上げているようにも思える。


「おや? おやおやおや? どうしたのフェリたん。もしかして偉大な勇者であるこの俺の作った超美味しいマヨネーズを食べたいのかな!?」


「はぁ……煽てられるとすぐに調子に乗る。あなたの悪いところですよ」


「そんなこと言って……本当はすぐにでも俺と結婚したいくせに。好きなんでしょ? もう言っちゃえよ」


「うざっ。何かの拍子に不死身の能力が消えて死なないかな」


 なかなか素直にならないフェリたんに肘で軽く突きながら煽るように言ってみるも、まるで気持ちの悪い物でも発見したかのような心底不愉快そうな表情を浮かべて拒まれた。


 フェ、フェリたん……それは割と本気の時のトーンだったよ?


「とにかく、みんな美味しいって言ってくれた事は事実なんだし……売りに出してみるのも良いかもしれないわね」


「それだよ村長! もうバカ売れ間違いなしだよな! 早速明日から始めよう! もううまくいく未来しか見えないな!」


「ええ。勇君だったら絶対に出来るわよ」


 村長も村のみんなの反応を見てテンションが上がっているのか、それとも天才的な力に今更気付いたのか満面の笑みで褒め称えてくれる。


 いつしか村のみんなが勇者様コールをし始めて、みんなが俺のマヨネーズに異常なまでに喜んでくれていた。


 ああ……俺のカリスマ性が光った感じだな。まあ、当然と言えば当然だよな。


 この調子でうまくいけば、大金持ちも夢じゃないな。勇者家業なんてクソくらえだ。魔王討伐? そんな七面倒臭い事やってられっか!


 適当に召喚された他の勇者が適当にやってくれるだろ。


 俺はそんな事をしている暇なんてないんだ。この世界の人々は俺のマヨネーズを求めている!


 わ、笑いが止まらねぇ。止まらねぇよ。


「何だぁ? 騒がしいと思ったら……おちおち寝てもいられねぇじゃねぇか」


 口を押えて笑いを抑えていると、ゴルドーの爺さんが片手に酒瓶を持ってフラフラと覚束ない足取りで近づいてきていた。


 目は半開きでとろんとしており、顔が全体的に紅潮している。集まっているみんなを見て口を軽く開けたままポカンとした表情をしていた。


 あれ? ゴルドーの爺さんはマヨネーズの事知らないのか?


「爺さん遅いよ! って、酒臭ッ! 一体いつから飲んでたの!?」


「何だよ。こりゃぁ、何の集まりだ?」


「説明したじゃないか。勇者様が俺達のために故郷の味を教えてくれているんだよ」


 村人に教えてもらうもまだ怪訝そうな表情をしている爺さん。


 支えられながら近くの席に腰を下ろすと村人は温野菜サラダとマッシュポテト、マヨネーズを皿に載せて爺さんに渡した。


 マヨネーズをまじまじと見つめる爺さんは眉を顰めて首を傾げる。


「何だこりゃ? よく見えねぇ」


「マヨネーズらしいよ? 凄く美味しいから!」


「まあ、酒のつまみになるなら何でもいい」


 な、なんか意外とあっさりとした言い方だな……まあなんにせよ食べてくれるのは好都合だけど。


 そう思いながらふと、フェリたんの方へ目を向けると何やら表情を強張らせて爺さんを見つめていた。


 何だ? 変だな……フェリたんの様子がおかしい?


 無言で食べ進める爺さんを見つめて落ち着かない様子のフェリたん。


 皿に載った料理を全て平らげて酒で流し込んだ爺さんは清々しいほど大きなゲップを一つ繰り出すと、


「何だよ。アチェータじゃねぇか」


 と、吐き捨てるように言った。


 その瞬間、その空間に一瞬の静寂が訪れる。何だかこの空間が凍り付いたようにも感じた。


「じ、爺さん! それは言っちゃ―—」


「――何だよ。アチェータをアチェータと言って何が悪いんだ?」


 ん? んんんん? アチェータってなんだ?


 聞き覚えのない言葉に頭が混乱する。


 村のみんなや村長が青ざめた表情をする中、フェリたんは盛大なため息を吐いて頭を抱えていた。


「ど、どういう事!? どういう事なのさ!? アチェータって何!?」


「そ、それは……」


 俺の言葉にみんなが気まずそうに苦笑いを浮かべながら目を背けている。


 みんなの反応を見かねた爺さんはマヨネーズの入った壺をフラフラとした足取りで持ってきて俺に渡した。


「これがアチェータだよ」


 ………………え?


 思考がフリーズする。ついに村のみんなまでも頭を抱えてため息を吐きだした。


 お、おいおい。嘘だろ。こ、これ……マジか!? い、いやでも……どういう事なんだぜ!?


「フェリたん何これ!? どういう事!?」


 混乱のあまり俺はフェリたんに助けを求める。


 頭を抱えたまましばらく沈黙を続けていたが、急に何事もなかったように涼しい顔で俺を見据えた。


「はぁ……このままあなたをヨイショして都合よく働かせようとしていたんですが、私も詰めが甘かったようですね」


「はぁ!? え、何!? 騙していたの!?」


「そう言ったつもりでしたが? 分かりませんか?」


 全く悪びれもせず突き放すように告げるフェリたん。


 ひ、酷い! 余りにも酷過ぎる! あのクソ国王の娘なだけあるな。冷酷だ! 冷酷フェリたんだ!


「酷過ぎるよフェリたん! 俺、めちゃくちゃ上手くいくと思っていたのに! こんなのってないよ! 絶対おかしいよ!」


 嘆くように叫ぶ俺にフェリたんはフンと鼻を鳴らして一掃すると、


「じゃあ逆に聞きますけど、大した技術の差も文化の違いも見せるわけでもなく存在する材料を使って混ぜただけの食材をどうしてこの世界で売れると判断できたのでしょうか? あなたが作ったのは単なるアチェータ。この村の子供ですら作り方を熟知している調味料ですよ。それなのにあなたは調子に乗ってイキリ散らして見下した態度をとって、見ていて苦痛でしたね」


「うっ……そ、それは」


 フェリたんの言葉に俺は言い返す事が出来なかった。


 確かにフェリたんの言う通り、多少は見下していたところはあったかもしれない。


 でも……なにこれ、本当にキツい。俺のガラス細工並みの心は粉々に砕け散ったよ!?


「ご、ごめんなさいね。どうしても働く意欲を持たせたいからって説得されちゃってね」


「マジすんません勇者様。フェリアス様のお願いだったから」


 村のみんなや村長までもがフェリたんに載せられて俺をヨイショしていたって事なのか!?


 何この疎外感! 凄い疎外感! こんなひどい仕打ちってあるか!?


 ち、畜生! こうなったら……こうなったら!!


「もう嫌だ! 一生閉じ籠ってやる!!」


「ああっ! 勇君!」


「「勇者様!!」」


 後ろで呼び止める声が聞こえるのもお構いなしに俺は溢れ出る涙を拭いながら逃げるように自分の家に逃げ込んだ。


 もう一生働いてやるもんか! 死ぬまで閉じ籠る! もう二度と外に出ない! 絶対にだ!

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