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第13話 異世界人にはマヨネーズを振舞っとけばいいのよ。

「「マヨネーズ??」」


 俺の言葉にフェリたんと村長は首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべた。


 ふふふ……そういう顔をするのも当然と言えるだろう。


 なんせこの世界にはマヨネーズはない。俺がこの異世界に召喚されてから1年間、一度も口にしていないからだ。


 それに異世界アニメにおける主人公が現地の人達に振舞うものとしてマヨネーズは王道と言えるもの。


 お手軽に作れるし、材料も少なくて比較的安価な物ばかりだから、自作したマヨネーズも安く売る事が出来る。


 ああ……素晴らしいよマジで。俺の才能が怖いくらいだ。


「それで……材料は何を使うの?」


「そうだなぁ。卵とお酢……じゃなくてビネグラーと、後は食用油とお塩だね」


「分かったわ。ちょっと待っててね」


 そう言って村長はそれぞれ指定した材料を揃えてくれた。


 卵やお塩や食用油はパン作りをしていたこともあって、元々台所の台の上に用意されていたようで、ビネグラーだけは戸棚においてあるものを取り出してくれた。


 さてと……ここから俺の才能が開花する時。中学時代に調理実習で培ったスキルを発揮する絶好の機会だ。


 俺は近くに重ねておいてあった底が深めのボウルを手に取ると、卵をその中へと割って落とした。


 その後、木製コップの中に入れられたそれぞれ大きさの異なるスプーンを手に取り、ティースプーン程度に小さなスプーンで塩を2回ほどすくってボウルへ投入し、食事によく使う通常サイズのスプーンにビネグラーを注いでこれも2回繰り返しボウルへ投入した。


 フェリたんと村長がじっと見守る中、俺はそれをスプーンで器用に混ぜ合わせる。


 どうだ二人とも。驚いて声も出せないようだな。見た事のない調理方法に恐れ戦いているんだろ。


 ふふふ、隠さずとも見えているよ。マジですげぇと思っているんでしょ?


「「……」」


 全体的に混ぜ合わさったところで、通常サイズのスプーンに食用油を二回ほど注ぎ入れて量を調節しながら俺は再び卵液を混ぜ合わせる。


 油は一気に入れちゃダメなんだよな。少しずつ少しずつ混ぜながら油を加えていくところがコツなんだよ。


 中学時代、手作りマヨネーズでポテトサラダを作る調理実習があった時は妙にテンション上がったよな。


 いやいやそもそも、調理実習ってだけでテンション上がるだろ。椅子に座ってクソつまらねぇ文字の羅列見せられるより数億倍はマシだ。


 いやもうこれ、店を構えてもいいんじゃね? イケるんじゃね? 異世界なんて余裕だろ! 日本の料理を適当に出しときゃたちまち売れるだろ!


 グフフフフ……笑いが止まらねぇ。何で早くこのことに気付かなかったんだろうな。


 魔王討伐? 異世界勇者? そんなもん知るか。


 俺は料理で生きていく。どのみち勇者家業なんてやめたようなもんだし、クソ国王にも見限られているんだから別に良いだろ!? いいよね!?


「あ、あの……勇君?」


「え? 何だよ村長。別に毒物作ってるわけじゃないんだからそんな顔すんなって」


 何やら気まずそうに苦笑いを浮かべながら村長が細々とした声で話しかけてくる。


 初めて見るものなのだから不審がっているのだろうか。まあ、無理もないよな。


 そんな怖がるなって、今に驚いて腰抜かすぞ。


「い、いやね。そういう訳じゃなくてね……えっとね」


「村長!」


 何か言いたげな村長だったがフェリたんに呼び止められてしまった。


 フェリたんは苦笑いを浮かべる村長に小さく手招きすると、耳を貸すように指示して何かを村長に囁き始める。


 何を言っているのか知らないけれど気になんてしていられないし、どうせニートの作るものだからロクなものではないと高をくくっているんだろう。


 フフフ……地に落ちたなフェリたん。砂糖ばっか食ってるから舌まで砂糖になっちゃったんじゃないのか?


 確かに俺の作っているマヨネーズはただのマヨネーズだ。何の変哲もない、何の工夫もないね。


 だがしかし! この世界においてマヨネーズは存在しない物! それだけでもう、異世界人にとっては未知の領域に踏み入るに等しいものなのさ。


 これでフェリたんがムチムチになるのも時間の問題だな。


 ムッチりしたフェリたんもそれはそれでアリだな全然。


 そんな妄想を膨らませながら卵液に油を少しずつ加えながら混ぜていると、マヨネーズのように白っぽい色に変化していき卵液がもったりとしてきた。


 ……よし。完成だな。一応味見味見。


 出来上がったマヨネーズを少しだけスプーンですくい、自分の手の甲に載せて舐める。


 うん。もう、これ以上にないっていうくらいマヨネーズ。だが、それでいい。


 余計な工夫なんていらないんだ。


 シンプル・イズ・ザ・ベスト。ちゃんとマヨネーズになっているのだから問題はない。


「フェリたん、村長、出来たよ! ほら、これがマヨネーズ!」


 俺は出来上がったマヨネーズを二人に見せびらかす。


 二人ともしばらくボウルの中のマヨネーズを見つめてなんとも言えない表情をしている。


 ふん、やっぱりまだ疑っているな。マヨネーズの味を知ったら絶対に虜になるはずなのに。


「味見してみても?」


「うんうん! むしろ味見して!」


 一番に声を上げたのはフェリたんだった。


 フェリたんはマヨネーズをスプーンで少しだけすくい手の甲に載せると、躊躇うことなく口に運ぶ。


 目を閉じたままモゴモゴと口の中で転がすようにしばらく動かして、ゆっくりと目を開けた。


「なるほど。これがマヨネーズとやらの味ですか。あなたにしては良いものを作ったのではないでしょうか?」


「でしょ!? そうでしょ!? いやぁやっぱりそうだよね。俺、凄いよね!」


 まさか一発でフェリたんに高評価をもらえるとは思っていなかった。


 これはいけるぞ! フェリたんの心はがっちり掴んだ。すでに振り切れている好感度がさらにアップしている!


「ア、アタシも味見を……」


 村長も便乗してマヨネーズを味見する。


 さあ、料理大好きの村長はどう感じる!? 俺の世界で愛され続けるマヨネーズはどう映る!?


「す、凄いわ! こんな味知らないわよ!? まさかこんな材料でこんなのが作れるなんて!」


 声を大にして村長は目をキラキラさせながらそう言った。


 よし! 村長からも大絶賛を貰ったぞ! これはもう大量に作って大儲けするしかないよな!


 い、いやいや。落ち着け。いきなり売りに出す前にまずは村のみんなに振舞うとするか。日頃のお礼もあるしね。


「村のみんなにも味を見てもらおうと思っているのだけれど、どうかな?」


「「え!?」」」


 俺の提案に二人は意外そうに眼を見開く。


 しばらく二人は目を見合わせると、俺に聞こえないような声でヒソヒソと話し始めた。


 何だ? ただ振舞うだけなのだからそんなに驚く事もないのに。


「そ、そうね! みんなも食べてみたらきっと驚くわよ」


「でも、その……マヨネーズ? だけを振舞うのは味気ないと思いますけど」


 何かの議論をしている様子の二人だったが、解決したのか俺の方へ目を向けると満面の笑みを浮かべていた。


 確かに……マヨネーズは何かに掛けたり付けたりして食べるのが主流だから、その方がもっと印象が残りやすいかもしれない。


 それにしても意外に協力的だなフェリたん。マヨネーズを口にした途端、こんなに変わるなんて……。


 マヨネーズの魔力ってすげえ。


「そうだなぁ。なんかサラダとかあればいいの思うけど」


「分かったわ。マヨネーズの味に似合うサラダを作るわね。せっかく勇君が作ったマヨネーズを振舞うのだもの。今夜もパーティって事にして振舞いましょうよ」


「私は村の皆様へ説明して回ってきます」


 怖いくらいに話がトントン拍子で進み、フェリたんはそそくさと村長の家を飛び出し村のみんなへ説明しに行った。


 な、なんかすごいな。協力者がいるとここまでうまく話が進むなんて。


「お、俺は何をしたらいいかな?」


「勇君はマヨネーズを作っていて頂戴。みんなに振舞うのだものたくさんあった方がいいでしょ? アタシはサラダを作るための食材を採ってくるわね」


 そう言い残して村長も家を飛び出していく。


 や、やべぇ。凄い事になったぞ。もうワクワクが止まらねぇ!

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