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第12話 クリーム色の悪魔。胃袋を掴む味。

 わお、すんごい蔑んだ目をしていらっしゃる。


 分かってる、分かってるって。内心では俺の事好き過ぎて辛いんだって事は。仕方ないなぁフェリたんは。



「冗談だって。今のはつい口が滑ったというか」


「次言ったら後の世代を残せなくしてやりますからね」


 フェリたんは俺の股間を睨みつけながら握り潰す事を暗示させるかのように拳を力強く握り締めた。


「そ、それは勘弁して下さい。子孫終了とかマジで男として終わってる」


 思わず股間を押さえて身震いしてしまう。


 まあ、俺の魔剣が潰されたところでチート能力で再生するのかもしれないから問題はなさそうだけど。


「今更何を気にしているのですか。それ以前にあなたは人として終わってますよ」


「今日はいつにも増して毒舌っぷりが凄いよ。そのうちマジで口から毒とか吐くんじゃない? おえぇって感じで」


「誰のせいだと思っているんですか?」


 フェリたんは頭を抱えたまま、怒り交じりにワシワシと自分の頭を搔き乱す。


 何か今日はマジでカリカリしてるよな。そんなにカリカリしてたらただでさえ高めの血圧もさらに上がりそうだ。


 いずれオーバーヒート起こしてボンッてならないと良いけど。


「そうカリカリしないの。どうしたのさ? ……ああっ! そうか! もしかして生理?」


「二度と再生できないようにグチャグチャに切り刻んでやりますよ!? ああもう、イライラするっ!」


 どうやら図星だったらしい。実際のところどうなのかは知らんけど。


「で? 結局何を作ろうと考えているんですか?」


「そこ。そこなのよ。ずっと悩んでいるところなのさ」


「考えていないんですか……はぁ」


 フェリたんは再び頭を抱えると嘆息しながらテーブルに突っ伏した。


 物づくりをしたいとは言っても所詮俺は学生の身だ。作れるものには限りがあるし、どこぞの異世界アニメ主人公のように適当な材料を寄せ集めて銃とか車とか作れるわけじゃない。というか、そんなのを作れる知識なんてないからどうにもならないけど。


「俺の元々いた世界の知識を何か活用できたらとは思うんだけどさ」


「……妥当な考えだとは思いますけど。この世界と勇者様がいた世界とでは似通ったところはあれど、全く同じとは言えませんからね」


「だからと言っても俺の知識で作れるものって限りがあるからさ」


 フェリたんの言う通り、この世界と俺の元居た世界では似通ったところは確かにある。


 ただ、科学の発展とか文明とか色々なところで違いはある。


 例え車を製作したところで動力はどうするのかとか、走らせる道路はどうするのかとか考えなきゃいけない多いし。


 そういえば銃って神器選びの時にあった気がするから、作ったとしても大して凄いわけじゃないよな。


 無難な上に誰も見た事がないものを作ってみたい。


「俺が作れそうなものってなんだろうね」


「ゆで卵でも作ればいいんじゃないですか?」


「そんなものじゃチヤホヤされないじゃん! 俺はチヤホヤされたいの!」


「面倒臭っ」


 フェリたんは心底不快そうに吐き捨てると、再び裁縫を始める。


 ゆで卵なんて作ったところで、驚くどころかただの料理じゃないか。


 いやいや、ゆで卵ならもはや料理とも呼べるかどうか……ん? ゆで卵? 料理?


 フェリたんの何気ない言葉をヒントに様々な考えが駆け巡る。


 そうだよ! 何も残るものを作ろうとしなくてもいいじゃないか。


 銃とか車とかじゃなくていい、心を掴むものは俺だって作れる! そうだ、これだよ!


「フェリたん! 思いついたよ、俺でも作れそうなもの!」


「そうですか。で? 何を作るつもりなんですか?」


 心底興味がなさそうに俺に見向きもせずせっせとミトンに針を通すフェリたん。


 ふふん。そんな態度をとっていられるのも今のうちだぞ。俺の作ったものを目にしたら一瞬でガチ惚れ。


 さらにガッポリ儲ける事間違いなし! みんなからもチヤホヤされて完璧な未来が見えてくる。


 ただ、俺の考えているものはここでは作れない。そうだ。十分な設備がそろっているところと言えばあそこしかない。


「まあまあ、楽しみにしてなって! アッと驚くものを作ってやるさ。じゃあ行こう!」


「はいはい。どこに行くんですか?」


「村長の家に!」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「村長! 村長! いないの村長!? 勇者が来ましたよ村長!」


 俺はフェリたんを引き連れて村長の家に意気揚々とやってきた。


 力任せに玄関の扉を何度もノックする。


 しばらく反応は無かったが、奥から玄関に近づいてくる足音が聞こえて扉を開けた。


「あら? 勇君にフェリたんじゃない。どうしたのよ? それに勇君が自らアタシの家に来るなんてどうしたのよ? また食べ物でもせがみに来たの?」


 驚いた様子の村長は相変わらずの割烹着姿で俺達を出迎えた。


 ほのかに香る香ばしい匂い。またパンでも焼いているところだったのだろう。


「またって……あなた働きもしないくせに食べ物せがんでいたんですか?」


「ちょ、今それ大事な事じゃないでしょ?」


 と、というか村長! 何ナチュラルにバラしているのさ!


「本当、救いようのない穀潰しですね」


「くっ……い、今に見てろよ。すんごいもの作ってやるんだから」


「ゆで卵ですか?」


「ちげぇよ!」


 俺の言葉にフェリたんは冷笑を浮かべてジトッと俺を見つめている。


 そうやって余裕な顔をしていられるのも今のうちだからな。俺の凄さを思い知れ!


「作るって何の話? どういう事?」


 俺とフェリたんのやり取りをきいていた村長は怪訝そうに首を傾げている。


 俺はそんな反応を見せる村長に不敵な笑みを浮かべると、


「俺、村長もアッと驚くようなものを作りたいと思っているんだよ。だから台所を貸してほしいんだ」


 俺が作ろうと考えているものは食べ物だ。


 食べ物なら俺でも作れるものはあるし、俺がこの異世界に来て口にしていない物はある。


 それに食べ物だったら色々な人の手に取りやすいし、使い勝手もいい。


 ふふふ……我ながら俺のセンスの凄さは恐ろしいよな。完璧な未来が見えているのだから。


「まあ、そうねぇ。別に構わないわよ。ささ、上がって」


 少しだけ疑っているのか村長はしばらく考え込んだのちに承諾してくれた。


 俺とフェリたんは村長に案内されるがまま、台所へと通される。


 村長の家ともあってか、その台所は一人暮らしにしてはかなりの広さがあった。


 レンガで作られた大きなかまどが二つ並び、台所にはその熱気が漂っている。


 だが、より一層に強いパンの焼ける香ばしい匂いとバターの香りが鼻をくすぐり、食欲を駆り立てる。

 

「そ、村長。ちなみに今何を作っているの?」


「塩バターパンよ。パンに塩とバターを仕込んでいるのよ。焼きたてを食べたときのバターがじゅわっと口の中で広がる感覚が堪らないのよねぇ」


 村長は恍惚な表情を浮かべて頬を赤く染める。


 その話を聞いただけでも食べたくて堪らない。あ、あとで味見させてもらおうかな。


「で? 結局何を作るんですか? いい加減言ったらどうです?」


 口をへの字に曲げてフェリたんが急かしてくる。


 何だ。興味がないとか言いながら内心では興味津々じゃないか。素直じゃない奴め。


 これがあれか、俗にいうツンデレというやつか!


「ふん。それはね俺の元居た世界でも凄くポピュラーな調味料で、何と作るのも簡単なもの――」


 俺は怪訝そうな表情を見せる二人に対し、余裕の笑みを浮かべて指をさす。


 様々な料理に活用が可能で、世間ではそれをこよなく愛する人までいる。人の心を掴み続ける赤いキャップでお馴染みのアイツ。


 食べ過ぎるとあまりよくないクリーム色の小悪魔、その名は!


「マヨネーズだ!」

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