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第11話 俺の異世界生活に足りなかったもの、それは物づくり!

「物づくりがやってみたい!」


 フェリたんに片腕をチョンパされた翌日。俺は二度寝をする気持ちを抑えてフェリたんに告げた。


 この世界に召喚されてからというものただ漠然と異世界生活を送ってきた。


 だが、今や魔王討伐から退いた身。この村でフェリたんと一生を共にする以上は何か能力がないといけない。


 昨日のプネブマジェルをローションとして売り出そうと考え付いた事がきっかけだ。


 そう、俺の異世界生活。何かが足りないと思っていたが……これだったんだ!


 『物づくりチート』今後の異世界生活を飾るのに相応しい1ページを飾りたい。


 すんごいものを作り出してチヤホヤされてガッポリ儲けてその後フェリたんの何やかんやあってグヘヘヘヘヘ。

 

「はぁ? いきなり人の家に乗り込んでおいて何を言っているんですか?」


 フェリたんは不愉快そうに顔を顰めながら糸を通した針で裁縫を行っている。どうやらミトンを作っているようだ。村長用かな?


「ふん。分かってないねフェリたん。俺を誰だか知らないのかい?」


「穀潰し」


「ひ、酷い! いやいやそうじゃなくてさ」


「はぁ……何を考えているのか知らないし興味もないですが、そのやる気を本来の仕事に向けて欲しいものですよね」


「そんな身も蓋もない事を言われても」


 いや、まあね。至極真っ当な事を言っているのは事実なんだけどね。


 これは話を聞いてもらえる空気じゃないな。ここは俺の交渉術が光る時だ! そんな能力ないけど。


「いいかい。ここで俺のやる気を削ぎでもしたら今度こそあのクソ狭い家に閉じこもって一生出て来ないかもしれないよ?」


「その時は家ごと吹き飛ばすまでです」


「そんなことしたら村に被害が……」


「結界を張った上で内側からドカンとすれば、あなたの家だけを破壊する事なんて造作もないですよ」


 くっ……さすがはフェリたん。付き合いが長いから俺の交渉術を掻い潜ってくるな。


 でも負けられない。ニートは本気出すと凄いんだぞ。


「あの家は借り物だから、壊したら村長が怒りそうだけど?」


「あなたの物置部屋は元々使われていないもので取り壊す予定だったものなんですよ。無理を言って住まわせてもらっているんです。だから壊したとしても何ら問題はないですよ。村長からも許可は貰っていますから」


「寄って集って俺をいじめるなんて酷くない!? 俺は勇者なんだよ!? 勇者として扱ってよ!」


「魔王討伐も諦めてお父様からの支援金も食い潰した畜生が何をいけしゃあしゃあと。発言と実績が伴っていないんですよ、あなたは」


「ちぇっ。そっちだって勝手な都合で無理やりこの世界に召喚したくせに……」


 愚痴をこぼした直後、フェリたんの体がピクッと震えて裁縫の手を止めた。


 僅かに悲しげな表情を見せた後、再び裁縫を再開する。


「確かに……その点については非礼を詫びても詫びきれないと思います。本来関わることのない異なる世界の事情に付き合わせてしまっているのですから」


 あ、あれ? あれれ? 意外だな。フェリたんだったらここで斧を投げてきそうなところなのに急にしおらしい態度になったぞ?


 正直、別にこの世界に呼ばれた事に対してなんら文句なんてないし帰りたいとも思ったことはないけれど。


 でも、これはチャンスじゃね? こんなチャンス二度とこなさそうじゃね? 利用するに限るよね。


「全くだよ。本当ならそっちで何とかするのが筋なんじゃないの?」


「そう思われるのも無理はないと思います。ですが、私達にも事情が……」


「事情って言われてもね。異世界人を否応なしに召喚するほどの事情って何なのかね?」


「そ、それは……」


 俺の言葉に気圧されるように、フェリたんは気まずそうな表情をしながら押し黙ってしまう。


 やべぇ、超楽しい。こんな態度のフェリたんほとんど見た事がなかったから、何だか新鮮な気分だ。


 俺、自分の事をドⅯだと思っていたけれど、もしかしたらサディストな部分もあるのかもしれないな。もうちょっとからかってみよう。


「あーあ! こんな世界に召喚されていなかったら今頃、女の子にモテモテでみんなに頼られる青春を過ごしていただろうになぁ!」


 腕を組んで胸を張り、わざとらしく声を張り上げて言い放つが、


「それはあり得ないですね」


 間髪入れずに淡々とした口調で切り返した。


 さっきまでの申し訳なさそうな表情はどこへやら、無表情のまま俺をまっすぐに見据えている。


「あ、あり得ないってそんな事は無いでしょ?」


「あなたの生活態度や性格を見ていれば、それがあり得ない事だって異世界人である私でも容易に判断できます。自堕落で無気力な生活態度。自分が働かない事で他が働ける機会を作っているんだ、などと目も当てられないクソっぷりを発揮して日がな一日中食っちゃ寝しているだけの毎日。果たしてあなたが食べているものは誰が作って誰が用意してくれているものなんでしょうね?」


「い、いや……それはさ」


「大体あなたは召喚された当初、異世界召喚だ! とか叫び散らしてお父様の話も聞かず武器だけ持ってさっさと飛び出して行ったじゃないですか。異世界召喚という事に興奮される勇者様は何度も見てきましたが、話も聞かずに馬鹿みたいに叫んで飛び出して行った勇者様はあなたくらいなものですよ」


「うっ……」


 そ、そりゃあ、異世界召喚だって事に浮かれて魔王さえシメればいいじゃん? と思ってイキっていた訳だから興奮して話なんて聞く余裕がなかったわけで。


 あれ? なんか結局俺が劣勢になっている気がするんだけど。というかいつもよりフェリたんの言葉に棘があるように感じる。


「はぁ……ともあれ、やる気になったことはよい事ですからね」


 フェリたんは呆れたようにため息を吐くとそう呟いて、


「何を作るつもりなんですか?」


 困った表な表情を浮かべ、優しい口調でそう言った。


 えっ……なにこの『全くもう、仕方ないわね』って感じのセリフ。超ドキッとしたんだけど。


 こりゃあもう、フェリたん攻略してるだろ。だって半年も一緒に過ごしているんだぞ? なんやかんや言って俺の事好きだろ。


 これは言うしかないな。思いの通じ合った男女がつくるものと言えば一つしかない。そうだ。今のフェリたんなら二つ返事で受け入れてくれるはず。


 俺はフェリたんに満面の笑みを浮かべて何も恐れることなく人生最大の愛の告白をした。


「フェリたんと子づくりしたい!」


「死ね」

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