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第10話 異世界でローションを売れば、みんなハッピーで世界は平和になる!

 手に持つランプの光を頼りに俺達は洞窟の奥へと進む。


 礁燃石は冬の季節を除いては大量に採掘される鉱石だ。


 そう考えると、採り尽くしてしまう事はないのか? という疑問に行き着くのだけど……そこは心配いらないらしい。


 なんでも、こういった鉱山には鉱石を創り出す素となる魔力が血管のように張り巡らされているみたいで、禁採期である冬の間にじっくりと時間をかけて生み出しているそうだ。どうなってんだ、この世界。


「それにしても……厚着している分、暑いな」


「仕方ないでしょう。礁燃石が眠る鉱山は大体こんな感じなんですから」


 洞窟の内部は堪らないほどではないが若干ながら温かい。


 ただ、頭を守るための防岩甲やツナギを着ているせいですでにじんわりと汗を掻き始める。


 クソッ……首を繋がれていなかったら速攻で逃げ出していたのに……。


 そう考えても、残念な事に俺の首に繋がっているロープはフェリたんの腰あたりに括り付けられていて、簡単には逃げ出す事が出来ないようになっている。


「さてと、ここですね」


 そのまま先へ進んでいると、少し開けた場所へと辿り着いた。


 ゴツゴツとした岩肌に紛れて赤銅色の礁燃石が飛び出している。


 ランプだけが辺りを照らしているだけな分、岩肌にランプを近づけないとよく見えない。


 でも、ランプを手に持ちながら作業は出来ないな。腕が四本あれば別だけど。俺はそんなメルヘンな体格じゃないし、なれない。


煌暁(こうぎょう)魔法1番――(とう)


 フェリたんがそう唱えてその場の天井を指差した。


 その指先に小さいながらとても眩い光が灯る。ゴルフボールほどの光が形成されると、その光の球はフェリたんの指から離れシャボン玉のようにふよふよと天井へ浮き上がり、天井に貼り付いた。辺りは十分な明るさに満たされる。


「いやぁ……凄いね。魔法って便利」


「こんなもの……子どもでも出来る魔法ですよ?」


「あのねぇ……俺が異世界から召喚された人間だって知ってるでしょ? 魔法が使える訳ないじゃん? 生きてきた環境が違うのだから。あーあ、こんなんだったらあの時、魔導書を選んでおけば良かったよ」


 それだったら、魔法チートでホイホイ無双していたはずなのに……。


「あの魔導書を選んでいたとしても魔法は使えなかったと思いますよ? あれはあくまで武器ですから」


「…………え!? じゃあ、魔導書で殴れって事!?」


「ええ。角のところとか結構いたそうですよ。魔導書は基本的に分厚いですし」


 ま、まあ……言われてみれば確かに。


 魔法を使えるようにしたいなら魔導書じゃなくて魔法の力そのものを与えて貰えばいいわけだから。


 まじかよ……あの武器選び、当たりはずれがあるのかよ!?


 俺とフェリたんは自分の籠から金槌と(ノミ)を取り出し、剥き出しになっている礁燃石の周りの岩を砕き始めた。


 マイナスドライバーのように鑿の平たくなっている部分を岩に当て、その上から金槌で叩き、徐々に周りを砕いていく。


 フェリたんは俺よりも手際が良く、サクサクと砕いて礁燃石を取り出し大きめの布製の袋へ入れていた。

 

「おお……フェリたんさすが、何やらせても器用だよねぇ」


「私はあなたと違って毎日何かと働いていますから、経験の差ってやつですよ」


「働く事がそんなに偉いのかねぇ」


「衣食住を与えてもらっている立場の人間が何を偉そうに……」


「だって俺、護衛するためにこの村に来てるんだもの」


「それは護衛の責務を果たしてから言ったらどうですか?」


「……本当、スンマセン」


 フェリたんに核心を突かれて、俺はこれ以上言い返せずに謝ってしまった。


 いやぁだって、ねぇ。今まで護衛と呼べるほどの事をしてこなかったというか、別に護衛する必要がなかったわけだし。この村に来たのだってウルディーナ期¹⁾に入る前だったし、ウルディーナ期に入ればあまり仕事する必要もなかったんだから仕方ないじゃん?


 日本の冬の時期もかなり寒かったけど、この世界のウルディーナ期はマジでレベルが違う。地域によって寒さに差はあるらしいけど、ところによっては氷点下になることもあるのだそうな。ウルディーナ期のベリド村ときたらクソほどに寒い。そりゃそうだ、この村は一番北に位置しているんだから。


「でもさ……この辺、必殺熊のような危険な魔物が出るような事あったっけ? 人や村を襲うような魔物は今まで出てこなかった気がするけど」


「詳しい事は私にも分かりません。ただ、朝のうちに色々と偵察して回って気付いた事があるとすれば結障石²⁾の効果が切れていた事ですね」


「あー、村を取り囲むように設置しているあれか。でも、あれって一期³⁾くらいは持つんじゃなかったっけ? 交換したのは確か…………20日くらい前だったはずだから少し早い気もするけど」


 さすがにゲームじゃあるまいし、何もないところから突然湧き出てくるような事ないはず。


 結障石の効果が弱まっているところを狙って、隠れていた必殺熊が出て来たって事なんじゃないか?


「それにもう一つ疑問があるとすれば、昨日対峙した必殺熊の強さが数段増しているところだと思いますね。何が影響しているのかは分かりませんが」


「強さが増しているって……繁殖期か何かって事なんじゃない? 血の気が多くなる的な」


「うーん。それとは何か違うような気がするんですが……こればかりは調べないと分からないですね」


 フェリたんでも分からない事が俺に分かる訳ないよな。


 ただ俺の頭でも考えつく事があるとすれば、繁殖期とかの本能的な事によるものなのか、もしくは環境の変化とかもなくはない話だよな。


 本当なら引っ込んでいた魔物が、この村周辺の環境の変化で出て来るようになったりとか……そんな短期間でホイホイ変わるものとも思えないけれど。


「何やっているんですか? ボケーっとしてないで手を動かしてください」


「わ、分かってるよ! やるって!」


 フェリたんに急かされるがまま俺は再び作業に取り掛かった。


 相変わらずフェリたんは驚異のスピードで次々と鉱石を採掘していく。


 俺ときたら、鑿は安定しないし慎重になり過ぎてちょこっとずつしか岩が砕けないしで散々だ。フェリたんの半分ですら鉱石が採掘できていない。


 ……フェリたん相手に競争心剥き出しにしても無駄だよなぁ。俺、ニートだし。プライドなんてないからマイペースでいいや。


「……? なんじゃこりゃ」


 そうやって適当に岩を砕いていると何やら半透明で飴色のローションのような液体が滲み出てきた。


 ねっとりと滴るその液体はかなりの粘度があるようだ。空気を含んでいるのか若干ながら泡立っている。


 指ですくって広げてみるとヌルヌルとしていて鼻を突くような酸っぱい臭いがした。


「ねぇねぇフェリたん。これなんだろう?」


「何なんですか? 遊んでないで仕事してください」


「いや、違うんだって。砕いていた岩肌から滲み出て来たんだよ」


 そう言って俺は、指に広げた飴色のローションのようなものをフェリたんに見せる。


 よく見えないのかフェリたんは顔をしかめて差し出した手を掴み、指に広げたそれを顔を近づけて見つめた。


 しばらく怪訝そうな表情をしていたフェリたんが急に顔を強張らせる。


「こ、これは!?」


「え? な、なんだ!? なんじゃこりゃ!」


 そう言ってフェリたんが声を荒げた直後、俺の片方の腕に何かヌルヌルとした粘度の高い液体が絡みついてきた。


 人肌よりも少しだけ温かく、ぬかるみにでも腕を突っ込んでいるかのような心地よさが腕全体を包み込む。


 粘度が高いせいか滴る様子もない。腕を包み込んだまま固まっているかのようだ。


「お、おおお! 何かよくわかんないけど気持ちいいぞ」


 こ、これ……アダルトグッズとして瓶に詰めて売れば金持ちになれるんじゃね? バカ売れだろ! 保温機能付きローション! 色はどうにもできないけど。


 ニチャニチャとエロい音を立てて俺の腕を揉むように蠢く液体。それに思わず興奮してしまう。


「やばい! フェリたんヤバいよこれ! 超エロイ! 久しぶりに俺の魔剣が疼いてるよ!」


「何を能天気な事を言っているんですか! 早く引き剥がしてください!」


「何言ってんのさ。これを瓶に詰めて売れば性欲を持て余した冒険者たちにバカ売れだぞ! 男が女の子を襲う事もない! 誰にも迷惑を掛けない! 世界平和じゃないか!」


「何を馬鹿な事を言っているんですか!? それは……プネブマジェル⁴⁾ですよ!」


「……え?」


 プネムマジェルという言葉を聞いて、俺は一瞬思考が停止する。ゾワリを背筋が凍る感覚。吹き出す冷や汗。強張る表情。


 恐る恐る包み込まれた腕に目を向けると、蠢く液体の中の腕が徐々に溶かされていた。


「ぎゃぁぁぁ!! と、溶けてる! 溶けてるよ俺の腕!」


 そのおぞましさに総毛立ち腕を必死で振り回して落とそうとするが、完全に絡みついて全くと言っていいほど落ちない。


 痛みを全く感じないのに確実に俺の腕はゆっくりと溶かされて行っている。ま、まずい! 本当にまずい!


「こ、これどうすんの!? どうしたらいいの!?」


「もう体を溶かし始めているのなら引き剥がす事は出来ません。ですが、勇者様なら助かると思いますよ?」


「え? ……ま、まさか!?」


 俺の反応にフェリたんは静かに頷いた。


「い、いやいや! 冗談じゃないって! 即死より立ち悪いじゃないか!」


「何言っているんですか。いつもの事じゃないですか」


「だから何度も言っているでしょ!? 痛いものは痛いんだって! ホイホイ再生すると言っても痛覚は人間並みなんだって!」


「ギャアギャアうるさいですね。男でしょう?」


「そういう次元の問題じゃないでしょ!?」


「あーもう、うっさい! 煌暁魔法5番――(あつ)!」


 右手の人差し指と中指を立てて揃え、それを胸の前で構える。


 直後、魔法を唱えながらその指を俺に向けると、まるで頭上から押さえ込まれるかのように圧力がかかり俺はその場に倒れ込んでしまう。


 起き上がることが出来ないが、けして潰されることのない絶妙な圧力が加わって俺は身動きが取れずにいた。


 俺の傍に佇むフェリたんの腕には斧が握られている。


「ひ、酷い! 酷いよフェリたん! いくらフェリたんが超が付くほどのサディストだからってこんなのあんまりだよ!」


「これしか方法がないんだからギャアギャア言わない! 一二の三で行きますよ!?」


「こ、この悪魔! 末代まで胸が膨らまない呪いをかけ続けてやるからな! ヒッ!? ご、ごめんなさい! 今のは冗談――」


(いち)!」


 思わず飛び出した言葉に眉をひそめたフェリたんは一とだけ言って、手に持った斧を包まれた腕に向かって振り下ろした。


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

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