Correct village-8 happy village
ガラガラと馬車が音を立てる。車輪の奏でる音は緩やかになりつつある。
壁が徐々に視界を埋めていく。
「止まれ!」
≪アナライズに成功しました≫
≪名前‐アーノルト≫
≪種族名‐ヒト族≫
≪レベル‐8≫
≪攻撃力‐247.50≫
≪防御力‐225.00≫
≪魔力‐90.00≫
≪スキル≫
・槍術‐lv.1
門兵に声を掛けられ、ミノルは馬車の停止を促す。パッと見ではミノルが馬車を御し馬の速度を落としているように見えるが実際はミノルは紐を握っているだけで何もしていない。
ミノルが乗っている馬車と馬は魔道具の様で、全く馬を御したことが無い人間でも簡単に操ることが出来る仕様になっているのだ。極論、御車に誰も座っていなくとも馬車は所有者のミノルが望んだとおりに動き続けるだろう。
「はい、どうかなさいましたか?」
「『どうなさいましたか?』って、そりゃあ通門審査だよ。身分証明書を提示してくれ。」
ミノルは言われた通り身分証を取り出す。ミノルはこの世界に来たばかりなのでその様な物は所持しているはずがないのだが、ミノルはしっかり身分証を所持していた。こうなることを予め予想していたであろうユイアが身分証の代わりになるカードを作っていてくれたようだ。
≪身分証明カード≫
身分:子爵
名前:ミノル・(非表示)
この証明が偽装で無い事をここに記す
発行:大-大陸王国
ちらと自分の身分が目に入るがいつの間にか貴族になっていた。
(いやいや・・・何時の間に僕は子爵になっていたんだ?)
これも確実にユイアの所為だとミノルは結論を出す。まあ、そもそもこの身分証を作ったのがユイアなのだから身分に子爵と書いたのもユイアなのだろう。
(これ、詐称にならないのかな・・・?)
不安を抱きつつ門兵の反応をじっと待つ。
「え!?子爵様!?・・・。ありがとうございます。確かに本物ですね。詐称防止の魔術も正しく掛かっていますし『大-大陸王国』発行なら間違いはありません!」
しかしその不安は杞憂に終わり、ミノルは安堵を覚える。
しかし、逆にこの身分証が本物だと証明されては疑問が残る。先ず、何故ユイアが本物の身分証を作れたのだろうかというのが一つ。次に何故身分が子爵なのか。最後に『大-大陸王国』とは何処の国なのか、何故そこまでの信用があるのか。
ふとした拍子に全て『ユイアさんだから』で片付けてしまいそうだがこればかりはこれからの身の振り方に関わるのでしっかり調べていなければいけない。最悪、身分詐称の犯罪者になってしまう。
「いや、最近までこの村は悪い雰囲気が蔓延していましてね・・・ですが子爵様はタイミングが良いですね。実はつい二週間ほど前にその原因を村の皆で団結して排除しましてね!今では皆が笑顔で暮らせる良い村となっています。」
この辺の事情に疎いミノルはその話が具体的にどの様なものかは分からなかったが話を合わせるために首肯して笑顔を作る。
「そうなのですか。それは楽しみです。」
しかし、気がかりなのは門兵がこの町の事を『村』と呼んだという点だ。明らかに町と呼んで差し支えない大きさだと思ったのだが何か事情があるのだろう。
その辺りも街に入って、いや、村に入って少しずつ理解していけばいい。
一連のやり取りを経てミノルは村に入った。
時は過ぎ、ミノルは現在図書館にいる。自分の知識不足を常々実感しているミノルは食料の補給よりも先に知識を身に着けに来た。
「・・・うん、何て書いてあるか分からない。」
しかしミノルは字が読めず目的の達成は現状不可能だと悟った。
(あれ?でも何で鑑定とかユイアさんの手紙は読めたんだろう?)
少し疑問に思いまず自分に鑑定を掛ける。
≪名前‐ミノル・繝医く繝?く縲√♀蜑阪?豁サ縺ャ縺ケ縺阪□縺」縺溘s縺?≫
≪種族名‐ヒト族≫
≪レベル‐1≫
≪攻撃力‐122.40≫
≪防御力‐72.00≫
≪魔力‐7.20≫
≪スキル≫
・努力‐lv.1
-基礎能力向上に+1のボーナス
・舐めまわすように☆みる!‐lv.1
-鑑定‐lv.1を使用できる
≪備考‐称号≫
・円卓を逆巻く者
微量ながらステータスが上昇しているが今は関係ないと意識の外へ追いやる。
このステータス表示は紛れもなく日本語だった。次に手紙だが・・・
(明らかに日本語じゃないんだよね・・・)
ミノルは何故か日本語でも英語でもない見たことのない言語を読めていた。どういう理由でこの文字を読めているのだろうか。本のタイトルも内容もユイアの手紙と同じ言語で書かれている。だがユイアの手紙は読めてこの本は読めない。
(この手紙を鑑定してみる・・・?)
≪アナライズに成功しました≫
≪名前‐ユイアの手紙≫
≪備考‐魔術付与≫
・伝心
-いかなる言語でも相手に意味を伝えることが出来る
ユイアの手紙にはもしミノルが文字を読めなかった場合の配慮がなされていたようだ。確かにこの文字は読めないので結果的にその気遣いは物凄く有難いものだったと言える。
どうするべきかと考えるが打開策など出る筈もない。そもそもこの世界の常識に疎いのに言語問題をどうやって解決しろと言うのだ。
こんな時こそ都合よく魔法で・・・『魔術』でパパッと解決したいと感じるのはしょうがないだろう。
「何かお探しですか?」
≪アナライズに成功しました≫
≪名前‐エナ≫
≪種族名‐ヒト族≫
≪レベル‐2≫
≪攻撃力‐68.40≫
≪防御力‐68.40≫
≪魔力‐100.80≫
≪スキル≫
・速読‐lv.2
図書館の司書だと思わしき女性がミノルに話しかける。不意に心地の良い香りが鼻孔を刺激し顔が熱くなることをミノルは自覚した。
「ええと・・・実は本を読もうと思ったのですが字が全く読めなくて・・・。字を覚えれる本はありますか?」
そう言うと司書は怪訝な表情を露わにした。
それも仕方のない事だろう。聞いた限り本は貴重品だ。つまり貴重な本を扱う図書館に入るためにはそれ相応の対価、つまり入館料が必要になるのだがそれを払える人物ならば文字の読み書き程度の素養はあるはずだ。
その歪さから犯罪など、非合法的な何かがあるのではないかと勘繰る司書は不信感を隠そうとせず接客にあたる。
「・・・入口の近くにあります。他に何かあればお呼びください。」
ミノルはこの反応に日本にいた時と同種の視線を感じ、『ああ、またか』と感じてしまう。ユイアさんが親切にしてくれたおかげでこの世界でならもしかしたら受け入れてもらえるのではないかと思ったのだが・・・そう、どちらかと言うとユイアの方が特別だったのじゃないかと思い始めた。
「ありがとうございます。」
司書のセリフに反応し返答すると司書はミノルから目を放し速やかに視界から消えた。
恐らくこの後司書を見つけることは出来ないだろうとミノルは推察する。『呼んでください』と言っていたが呼ばれない、又は呼ばれたことに気が付かなければ二度会わずに済む。
つまり彼女はこれからミノルが呼びかけたとしても気が付かないのだろう。
「入口の近く・・・」
落ち込んだ気分を無視するように目的地を言葉に出す。
「この絵本とかで分かるのかな・・・?」
一番初めに手に取った本は三歳児に文字を教え始める時に使いそうな絵と文字がセットで描かれているものだった。
「明らかにリンゴなんだよな・・・」
解読に勤しむがやはり簡単に覚えれそうにない。何か規則性を見つけて、そこから芋づる式に関連付けて学ばなければ文字を覚えるのは難しそうだ。
それからミノルは閉館時間まで真剣な表情で様々な絵本を読んでいた。