Correct village‐3 strange technology
先ず、有り得ない記述しておく。青髪の少年と少年までの距離はまだ一キロメートル以上残っている。そんな距離をナイフが飛ぶなんて可笑しいとしか言いようがない。
次に二投目がやはり自分の十センチほど、今回は顔ではなく横腹の横を掠めて飛んで行った。背の高い草が幸いしたのかその標準は若干ずれている。
いや、本来この背の高い草の所為で少年が動物と誤認されて射殺されそうになっているのだが、それを今言っても仕方がない。不幸中の幸いと言うやつだろう。
青髪の少年のナイフは二投目も奇跡的に当たらず少年は背の高い草原地帯を乗り切れそうだ。
少年は背の高い草をかき分け、やっとのことで広い視界を手に入れることが出来た。
「やめてください!」
少年は大声で攻撃の休止を求めた。ここから青髪の少年までまだかなりの距離があり、その声が届くことは恐らくないだろう。しかし、少年が懸命に声を張り上げることにより、その意図が伝わるかもしれないとその一筋の希望を声に乗せて青髪の少年を見つめた。
「・・・人?」
青髪の少年は手の上にあった三本目のナイフをそっと荷台に戻した。少年の声は届いてはいなかったが人影が確かに人間のそれだったので殺してはまずいとナイフの投擲を止めたのだ。
「・・・やっぱり」
少年は青髪の少年のナイフの投擲を不自然だと結論を出していた。理由は投擲された投げナイフが真っ直ぐ飛んでいる様に見えたからだ。勿論見間違いの可能性もあった。が、流石に二投も見れば重力の影響を受けていない事くらい理解できた。
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この状況を見る限り少年の洞察力は一般人と比べて著しく高い事は明らかだが、そのことを本人は気が付いていない。それは偏に今まで置かれていた状況の所為だがそれを今言及しても仕方がないのでその話は後回しにしておく。
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つまり、少年はこのような結論を出していた。
『魔法が存在している』、と。
そもそも額から角が生えている馬・・・“ユニコーン”が歩いていたのを見た時点でそのような世界観の中に居るのではと仮説は立っていた。
そして今回の物理法則に喧嘩を売っているかのような軌道の投げナイフ。それを結びつけれない程少年は鈍感ではない。
自分も使えるのかと疑問が浮かんだが少年はそれを後回しにすることにした。
今は夢を見る時ではなく、命を繋ぐ希望に逃げられないようにすることが第一優先なのだ。今更青髪の少年が移動を開始する可能性はかなり低いが時間を掛け過ぎて痺れを切らされたら堪ったものではない。少年にとって青髪の少年の存在は正しく命綱なのだから、魔法の事を試しながら呑気に歩いてその小さな可能性に当たるのと息が切れるほど一生懸命走って青髪の少年の気が変わるのを阻止することを天秤にかければ後者に傾くのは必然と言える。
少年は馬車まで無事に辿り着いた。
「・・・どちら様?」
青髪の少年は不機嫌そうに少年に質問した。いや、少年はこれが皮肉だと気が付いていた。恐らく、『何処の誰か知らないけど何で自分に進行の停止を要求したのだ?』と、およそこのような内容の意味が詰まったセリフだったのだろう。
ただ、その要求に一々従っている青髪の少年には隠せていない優しさが見え隠れしている。
「・・・すみません。僕は、道に迷っていて・・・食料を有していないのです。お礼は出来ないのですが、食料を分けて頂けませんか?」
青髪の少年の表情はあまり変わらなかった。いきなり現れて食べ物を寄越せと言われれば顔を顰めてしまうのも致し方ないのだが、青髪の少年は全く嫌な顔をしない。むしろ先程までの不機嫌が若干収まったくらいだ。
少年もその異常性には気が付いているが少年にとってそれは良い方向の誤算なのであまり深く考えなかった。本来、自分の思い通りに話が進んでいる時こそ細心の注意を払わないといけないのだが、少年は経験が浅い為そこまで気が回っていない。
「いいよ。だけどその代わり幾つか質問に答えて欲しい。それがお礼って事で、どう?」
いまだに期限は悪いままだが少年が考えられる限り最上の結果だった。
「それと、無計画はよくない。今食料を手に入れたとして、それが尽きたらもう終わりだ。ここからだと一番近い村でも徒歩で十日はかかる。俺は馬車で徒歩で大体十六日・・・馬車で四日の町へ向かう。食料とかそういうのを要求するんだったら定期的な入手まで視野に入れる要求をした方がいい。」
少年は思わず驚きを露わにした。青髪の少年は明らかに不機嫌だ。元々そういう表情だと言われても肯けない程雰囲気そのものが悪かった。なのにそんな青髪の少年がこんなに親切なことを、それに助言のようなことまでしてくれているのだ。
心根がとても優しいことが読んで取れる。
「ありがとう、ございます。」
少年は素直にお礼を告げる。ここまでの事をしてくれるとは微塵も思っていなかったので、今更ながら申し訳ない気持ちになった。
一筋の風が草原を撫でる。
涼しい気候に相まって移動で溜まった体内の熱を気持ちよく流しだしてくれる。風上を見るとそこには・・・先程までの静けさからは考えられない、小さいが決して弱くない竜巻が起こっていた。竜巻の中心が若干赤色に輝いている様に見える。
何なのだろうと少し考えたが直ぐに興味を失くし、青髪の少年に向き直ろうとした時、
「・・・!」
その竜巻の核とも言える『赤』と目が合った気がした。
「・・・はぁ。そろそろ移動しないと害獣が寄ってくる。おい、早く荷台に乗れ。移動するぞ。」
(害獣?何をことを・・・それよりあの竜巻何か・・・?)
青髪の少年は気だるそうに少年に行動を促した。少年としてもここを一刻も早く離れたいほどの悪寒を感じていたので直ぐに荷台に移動した。
青髪の少年は少年に早くと急かしたのだが御車につく行動は特段急いているような印象は感じなかった。だが、少年は同乗を許されただけの立場にも関わらず青髪の少年の動きの遅さにイライラしていた。それはハラハラにも近いもので、一刻も早くここを離れなければ死んでしまうかのような感覚に陥っていた。
(いや、まさか、)
一筋の風が草原を薙いだ。
竜巻はゆっくりではあるが確実にこちらに近付いてきた。唯の自然現象だ、偶然こちらに進路が傾いているだけだ、直ぐに消える、などなど言い聞かせるように言葉を頭の中に並べ立てる。しかし、心の何処かであの竜巻が意志を持ってこちらに近付いてきている様に感じている。冷汗が止まらない。体の中に運動の余熱など微塵も残っていなかった。
青髪の少年が馬に移動を促す。馬はゆっくりと走り始め、直ぐに安定した速度になった。しかしその速度は竜巻を振り切れる速度ではなかった。目算二百メートルまで迫るのに五分も掛からなかったように感じた。その間少年は全く生きた心地がしなかった。
この距離まで近付かれればその竜巻の中に存在した赤い何かがはっきりした。見間違え、記憶違いで無ければそれは正しくドラゴンだった。目が合った気がしたとき、それは勘違いや考えすぎではなく、確実にドラゴンに感知されていたのだ。
(竜巻が害獣!?)
しかし、少年は青髪の少年の言葉を全く理解できなかった。
≪アナライズに成功しました。≫
唐突に少年の脳内にアナウンスに近い機械的な、事務的な声が聞こえた。少年は何が起こっているか理解できなかった。しかし、それの有用性は一瞬で理解し、その結果を穴が出来るほど凝視した。
≪名前‐回旋竜 =ネームド= ≫
≪種族名‐アンユージュアル・スカーレット・ワイバーン≫
≪レベル‐なし≫
≪攻撃力‐測定不能≫
≪防御力‐測定不能≫
≪魔力‐測定不能≫
≪スキル‐測定不能・阻害を感知≫
「嘘・・・測定、不能?」
害獣と言うには些か強すぎないだろうか。
この文字は少年とドラゴン実力差を如実に表している。
少年は絶望した。