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Correct village‐2 invisible road

 先が見えないというのは、今のことを言うのだろう。若干十七歳の少年は地平線の彼方を睨みながらそう零した。

 彼は恐らく深いであろうと決めつけていた森を殆ど丸一日歩いた末抜け出すことに成功した。本来はもっと長い時間森の中に居るだろうと考えていた少年にとってしてみればこれはとても嬉しい事柄だった。しかし、森を抜けた先にあるのは日本では到底お目に掛れない広大な平野だった。森と打って変わって木など殆ど生えておらず、森に比べて資源が少ないことが少年が草原入りに難色を示す要因になってしまった。


 その後、少年は森の端っこで丸一日、食べられそうな物や、木の枝、その他平野では手に入れにくいであろう物をかき集めた。残念なことに少年にはそれほどサバイバルに関する知識が無かったため、食料は少ないうえにそれ以外のアイテムも森を抜ける前と大差ない。

 一番の収穫と言えば、森を抜ける前にお腹いっぱいになるまで食料を取ることが出来たことだろうか。運良く瀕死の兎を見つけ、更に運良くまだ若干火が残っている焚き火を発見したのでそれを上手く有効活用し兎を胃袋の中に詰め込んだ。

 ただ、その一連の幸運には不可解な点がいくつもあった。

 一つ取り上げるのなら、その兎肉が何故か美味しかったということだ。


 普通、肉は血抜きをしなければ生臭くてとても美味しいと言える仕上がりにはならない。ただの一般人の少年だが流石に出来過ぎていることに気が付いてはいた。兎を見つけた時咄嗟に周囲を警戒し確認して回ったのだが兎が瀕死になる要因なんてなかった。更に焚き火も、それ単体でぽつんと置いてあるという状況は基本有り得ない。焚き火の周りには必然的に休息をとった後があるはずなのだ。木を切り倒して簡易の椅子にしたり、食べ残しが落ちていたり、これは気が付きにくいが寝たなら長時間人が寝転がったまま動かなかった痕跡が地面につく。以上の理由からこの状況の不自然さは直ぐに分かるだろう。

 だが、少年はそれを承知の上で食事をした。

 食べなければ自分の体力がなくなってしまうため、言ってしまえば最初から選択肢はなかったのだ。例え罠だったとしても飛びつかなければ無かっただろう。


 何事も起こらなかったからいいものの、今後もそうなるとは限らない。命を賭けるような行動はなるべく避けなければと心に書きつけておく。


 そして平野に足を踏み入れた少年だが、その後半日ほど、景色は一向に変わる気配を見せない。三百六十度、全て草原、地平線の遥か彼方まで草ばかりだった。

 今時の高校生よろしく、『地平の彼方まで大草原www』とでも呟きたいところだが生憎とそんな余裕はない。生物さえも目視できる範囲・・・地平の彼方まで存在せず、そんな生きることにおいて一切の特にならない行動にカロリーを消費している暇はなかった。


 「・・・?」


 その時、地平の彼方にほんの少しだけ歪みが見える。集中していなければ分からない程度の歪みだが少年はそれが気になり、進路を三十度ほど変更してその歪みに向かって歩を進める。


 「・・・!」


 なんと、その歪みは気のせいではなく、馬車が一台停車しているのを発見できた。恐らく人も居るはずだ。そう思うと少年の足は途端に軽くなり、自然に歩く速度が上がっていった。


 近付けば近付くほど輪郭がはっきりしていきそれが何かを明確にしていった。馬車が一台、それ以外にもその近くに置かれている椅子の上に十四、五程に見える青い髪の少年が座っていた。何もしていない所を見るに、休憩の類だろうかと予測する。

 が、その青髪の少年は立ち上がり、椅子を馬車に片付け出発しようとしている。

 少年はとても焦った。ここで接触を計れなければ自分は餓死する確率が高い、と既に理解していた。少年はその一本の命綱にしがみつこうと早歩きになっていた足は強歩を超え駆け出すほどになっていた。


 「ん・・・?動物か?」


 青髪の少年はこちらに気が付いたようだ。しかし如何せん周囲の草の背が高く、都合が悪く少年の体は全くと言っていい程青髪の少年の瞳に映らなかった。


 ただ、動物がいると認知したことにより青髪の少年の行動は移動以外の選択肢を持ったようで、少し悩ましげな表情をしながら草むらを眺める。だがやはり少年の体は草に隠されていて青髪の少年は目視出来ない。青髪の少年は何か思いついたかのように顔の表情をほぐし、馬車の中に入り込んでいった。御車には人が居らず、恐らく中の荷物を取りに行っただけだと内心分かっていても青髪の少年の姿が見えないだけで少年の焦りはさらに濃ゆくなった。

 あと三十メートル弱で高い背の草むらを抜けることが出来る、と思ったその時、馬車の荷台から少年が出てきた。手には小さなナイフを持っている。恐らくどの様な生き物が飛び出してきてもいい様に持っているのだろうと、つまり自分が姿を現すまで待ってくれるのだろうと安堵をしたその時、


 ―――ひゅん


 二の腕の僅かニ十センチ右にナイフが見えた。青髪の少年が行ったのはナイフの投擲。少年は自分が今晩の食材として認識されていることに、驚愕と恐れの感情を未だかつてない程強烈に感じた。

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