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第九話『黒い狼さんの話(後編)』

 お腹も一杯になり少し気持ちに余裕が出てきた。今頃、皆どうしているだろうかと考えていると穴の中に冷たい風が吹き抜けていく。


「くしゅん!」


 ぶるりとあまりの寒さに尻尾の毛が逆立った。


「寒いッ………!」


 ふと空を見上げる。気づけばもう空は茜色に染まっており日が落ちてきていた。山の気温はあっという間に下がっていき、どんどんと体の体温を奪っていった。チャドは自分でも体を擦ったりして少しでも体を暖めようとしたがそれは微々たるものであまり効果はなかった。

 あまりの寒さにガタガタと一人震えていると、ドサリッと何かが降ってくる音が聞こえてきた。


「ひっ………!」


 あの恐ろしい狼だった。黒い影に浮かぶ黄金の瞳がじっとこっちを見てくる。


「食べないで………!」


 今度こそ自分を食べに来たんだと思い、チャドはぎゅっと目を瞑る。でも、いつまで経っても狼は近寄ってはこなかった。チャドは目を恐る恐る開けた。


「………?」


 狼は飛びかかる様子もなく、熊みたいな巨体を地面にうつ伏せにし、黄金の瞳でただ黙って此方を見上げていた。何もしてこない狼を不思議に思い見ていると、ある匂いが鼻先をかすめた。


『あれ?この甘い匂い………』


 チャドは嗅ぎ覚えのある匂いにヒクヒクと鼻を動かす。狼から甘い果物のような匂いが漂っていた。狼はゆっくりと起き上がると立派な黒い毛並みでチャドの体をあっという間に包み込んだ。


「わぁ………!」


 最初はびっくりとして体を強張したが狼の腹は非常に暖かく、外の冷たい空気から遮断される。冷えきった体を優しい温もりが包む。


「大きい狼さん、暖かいや………」


 もふもふとして気持ち良い狼の毛皮にうっとりとするチャド。狼の体からはふわりと淡く甘い果物の匂いが香る。安心しきったチャドは段々と寂しくなり狼を相手に話始めた。


「きっとバチが当たったんだ。僕が悪い子だから………!」


 ついにあんなに我慢していた涙が瞳から溢れてしまう。もう家に帰れないかもしれないと思ったら母と父の顔が浮かぶ。無性に両親が恋しくなった。


「クゥーン、クゥーン」


 寂しくて泣いていると狼が鼻を鳴らし始め、チャドの瞳から流れる涙を長い舌で拭き取る。


「フフッ………!擽ったいや」


 その仕草が擽ったくて狼の舌から逃げるようにチャドは顔を反らした。トクトクと流れる心地よい心音にチャドはうとうとし始めた。一日中気を張っていたせいかいつもの何倍も体が疲れを感じていた。

 暫くの間、必死に睡魔と格闘していたが疲れていた体さ睡魔には勝てずチャドはゆっくりと瞼を閉じた。


 ………………………………………………


 空を照らす月明かりでチャドは目を覚ました。ゆっくりと地面から体を起こすと体を覆っていたの大量の落ち葉が舞っていく。いつの間にか黒い狼の姿が消えていた。


「狼さん………?どこ?」


 寝惚けた目を擦ってチャドは穴の中を見渡すが狼の姿はなかった。ガサガサと不気味に揺れる木々に真っ暗な森の中。一人だと自覚すると余計に周囲の音に敏感になり、チャドは急に心細くなった。


「狼さん、ぐすんッ………」


 チャドは一人ぼっちで穴の中の壁際で踞っていると誰か落ち葉を蹴り上げ、崖の上を猛スピードで走って降りてくる音が聞こえた。それはどんどんと近づいてきて、穴の上を大きな影が通りすぎていく。


「!」


 月明かりに照らされたその狼の姿はとても神秘的で、しなやかな肢体に漆黒の毛並みは美しく月明かりに反射し輝きを放っていた。チャドは息をするのも忘れてその一瞬を見入った。黄金の瞳と目が合う。


「狼さん!」


 慌てて声を掛けたが狼はもう戻っては来なかった。するとすぐに崖の上からまた違う足音が聞こえてきた。


「チャドー!どこー!」


「いるなら返事をしてくれー!」


「ママ、パパッ!」


 遠くの方から母と父の声が聞こえてきた。ぱぁっとチャドの顔は輝いた。


「ここだよ、ここにいるよ!」


 穴の中にいるチャドは必死になって崖の上にいる母と父の呼びかけに答えた。暫くするとロープを括り付けつけた降りてきた父親がやって来て、ようやくチャドは穴の外に出られた。


「ママ、ママッ………!!」


「あぁ………!チャド、無事でよかった!ごめんねッ………!!」


 喧嘩していた事も忘れてチャドは母親の胸に飛びついて泣いた。


「あのねママ、パパ。僕、凄いの見たんだよ!」


 チャドは見たものの全てを説明した。森の中に住む熊みたいにでかい黒い狼が自分に餌を与えてくれた事や寒くて震えているともふもふとした暖かな毛皮で暖をとらせてくれた事。

 チャドは興奮しながら一生懸命に両親に今日一日の出来事について伝えたがチャドの話を聞き終えると皆吹き出すように笑い始める。


「嘘じゃないもん!」


 チャドは顔を真っ赤にして怒ったが集落の皆は適当に頷くだけだった。その様子にますます腹が立ち、頬っぺたがハムスターみたいに膨れる。


『嘘じゃないんだもん、本当にでかくて黒い狼さんはいたんだもん!!』


 最後の最後までチャドの話は信じて貰えなかった。疲れて眠って見ていた夢の話だと処理されたがチャドはあれは夢なんかではないと信じていた。


『またいつか会えるといいな』


 そう思いながらチャドは両親と集落の仲間と共に家にと帰っていった。

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