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第五話『平和だな』

とある方からのご指摘で題名が間違っていたので名前が少し変わりました。

恥ずかしい~(*´-`)

でも、ご指摘どうもありがとうございました~!

 数多くの生物が住み、樹木が深く茂る樹海。そんな山の中なのだ。一つぐらい何か問題が発生してもよさそうなのだが、この山はびっくりする程に平和だった。

 そもそも自然に恵まれた森に、豊富な食料と水に適度な気候。そしてこの山岳に住んでいるのは大体、臆病な性格のモンスターたちだ。そんな平和ボケしたような山の中で問題が起きるような理由がない。


(まぁ、そんな都合良く困った事なんてないよね………)


 平和な事は大変喜ばしい事だ。私は無駄に走り回って疲弊した体を休ませるように暫し地面に寝転がっていると、ふわふわと綿毛のように浮かぶものが頭上を通り過ぎていく。


『あっ……“ケケラセラ”だ』


 ケケラセラとはモンスターとよりもその土地に守り見守る、守護精霊みたいなものでその姿はまるでケセランパサランにそっくりで大変可愛らしい。

 彼等は悪さなどはしないのだが、大の噂好きで森のモンスターたちに噂を流していつもどちらの方が面白い噂話をしているか競い合っている。要するにお喋りが大好きな精霊たちなのだ。

 『今度はどんな噂話をしているのだろう?』と、暇潰しついでに聞き耳を立てていると気になる話が聞こえてくる。


『ネェ、アノ崖ノ下。獣人ノ子ガ落テルラシイヨ』


『ウン、落テタラシイネ』


(んっ?獣人の子供………?)


 ケケラセラたちは興奮したように話していたが暫くすると飽きてしまったのか、また違う話題で盛り上がってどっかへ飛んでいってしまった。


『そういえば、すぐそこに獣人の集落が一つあったけ?』


 寝床を探してまだこの山の中を探索していた頃。一度だけ猫の獣人たちが暮らす集落を見かけたのを思い出した。藁の屋根に山奥での自給自足の生活。ひっそりとした質素な暮らしだが、猫の獣人たちは幸せそうで皆、貧しい中でも肩を寄せあって生活していた。その姿はとても微笑ましいものであった。

 もしかしてそこの集落の子かもしれない。気になった私はモンスターたちが噂をしていた辺りに足を運んでみた。


『多分、この辺りのはずなんだけど………』


 取り敢えず辺りを散策していると、僅かだが啜り泣くような声が聞こえてきた。

 急斜面の下に出来た溝のような穴があり、その中を覗いてみた。するとそこに、今にも泣き出しそうな顔をした赤髪の男の子が一人でぽつんと座っていた。


『か、可愛い~!!』


 年は五~六歳ぐらいっと言ったところだろうか?頭にはぴょこんとシマシマ模様の猫耳にお尻からは尻尾が生えていた。子猫みたいで可愛くて思わずじっと私が穴の上から見つめていると自然と獣人の子と目が合った。


「うぅえッ………!」


『えぇッー!?え、ちょっ、泣かないで………!』


 私の姿を見るなり怯えた男の子はぺしゃりと猫耳を伏せ、くしゃりと顔を歪ませた。慌てた私は取り敢えず穴から距離を取る。


(ど、どうしよう………)


 出来たらそこから救い出して助けてあげたい。だが、姿を見られると泣かれてしまう。どうしたものかと考えあぐなえて、その場をぐるぐると何周も回っていると「きゅるるるぅ~」と穴の中から、可愛らしい音が聞こえてきた。


「はぁ………お腹すいたなぁ」


『それだ!』


 男の子がぽつりと呟くように言った言葉を私は聞き逃さなかった。お腹が一杯になれば心に余裕が出てくるかもしれない。

 この森は土壌の環境が良く多種多様の木の実や果実が自生している。私は自慢の身体能力を駆使し、山の中を駆け回った。その中でも子供でも食べられるような甘くて簡単に剥ける物だけをピックアップし、集めた。

 男の子から姿が見えない位置からそっと鼻先で集めた木の実と果実を落とすと、男の子は目を輝かせる。


「わぁ………!」


 男の子は突然、穴の上から降ってきた果実と木の実を少し不思議そうに見ていたが、落ちて来た果実を拾うと齧り付く。


「美味しいッ~………!」


 男の子は相当お腹が空いていたのか、ガツガツと私が持ってきた果実と木の実を食べる。結構な数の果実と木の実を持ってきたつもりだったのだが男の子はぺろっと平らげる。


『よかった、よかった!』


 どうやら元気にはなったようだ。男の子の元気な様子を見て安心していると、今度は下から「くしゅん!」っと盛大なくしゃみが聞こえてきた。


「寒いッ………!」


 気付けばもう空は茜色に染まり、日は落ちて暗くなってきていた。Tシャツに半ズボンといった肌寒そうな格好している男の子はガタガタと体を震わせていた。夏の季節といっても山は標高が高い為に夜は冷える。男の子は必死に体を擦っているようだったが、効果は薄そうだった。


 (このままじゃあ、風邪引いちゃうかも………)


 少しどうするかと躊躇ったが、やむを得まいと私は穴に飛び込み、男の子の前に姿を現した。


「ひっ………!」


 ビクリッと男の子の体が強張る。まず私は男の子に敵意がないことを伝える為、体を伏せ、視線を男の子よりも低い姿勢をとる。


「食べないで………!」


 そして男の子から動くまで決してこちらは動かない。絶対に。


「………?」


(よし………)


 少し男の子が緊張が解けるのを確認してから徐々に距離を縮める。ゆっくりと近寄って、冷えきった男の子の体を暖めるように男の子を包み込んだ。私は必死に男の子の体を自分の体温で暖める。


「大きい狼さん、暖かいや………」


 敵意がないことを理解してくれたのか、ぬくぬくそうに男の子も私の毛で暖を取り始めた。するとぽつりぽつりとだが男の子は私に向かって語り始めた。


「あのね、大きい狼さん。僕、家を飛び出してきちゃったんだ………。ママとパパが『お手伝いしなさい』って毎日毎日うるさくて。今日もお手伝い頼まれてたんだけど、でも僕、友達と遊んでお手伝いサボっちゃって………。それですっごく怒られて、ついママたちに『こんな家出てってやる!』って言っちゃった」


 なるほど、それでこの穴に落ちたと。男の子は怒りに任せて家を飛び出したものの、足を滑らしてこの穴に落ちてしまったらしい。


「きっとバチが当たったんだ。僕が悪い子だから………!」


『そんなことないよ、きっと大丈夫だよ』

「クゥゥンッ………」


 「ごめんなさい、ごめんなさい」と男の子は何度も繰り返すように呟く。段々と日が沈んできて心細くなってしまったのかついに泣き出してしまった。色々と我慢していたのか男の子の頬にポロポロと沢山の涙が伝う。


『泣かないで』

「クゥーン、クゥーン」


 私はそう言うように鼻を鳴らし、男の子を慰めるように泥と涙で汚れている顔をペロペロと舐める。


「フフッ………!擽ったいや」


 すると擽ったそうに男の子は笑い、安心したのか泣き疲れたのかは分からないが今度は静かに寝息を立て始めた。


『良かった………少し元気になったみたい』


 ホッと胸を撫で下ろすが喜んではいられない。これ以上暗くなれば危険な夜行性動物が動き出すし、気温だってもっと下がる。それにきっと今頃、この子の親も心配してこの子を探し回っているはずだ。

 男の子が熟睡しているのを確認すると私は寝ている男の子を起こさないようのっそりと体を起こし、穴から飛び出した。これ以上体温が下がらないように落ち葉をしっかりと男の子にかけておく。もっと夜が更ければ寒くなる、その前になんとかしなければ。


『待っててね、絶対に助けを呼んでくるから』


 猫みたいに丸まって寝ている男の子に約束すると、私は夜の森へと走り出した。

今日見たらすごいブックマーク増えて思わず『何かの見間違いかな?』って二度見しちゃいました。


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