第四話『ぼっちです』
『あのー………』
『ヒェーッ!!』
『そのー………』
『ウヒィイイッ!!』
『この前ここに引っ越してきた………』
『コワイ!!ニゲロー!!』
『はぁー………』
重そうに項垂れた私の口元から、暗くて長い溜息が溢れる。
(友達を作る所かこれじゃあ、喋ることも出来ないな………)
今のでこの山岳地帯に住むモンスターに話し掛けて逃げられること四十二回目。もう泣き出しそうである。
かれこれこの山に移り住んでいたから一週間。飲み水もあって食べ物も美味しくてさも順風満帆かと思われた生活であったが、私は前世の母が言ってた『ご近所付き合い』というものに手子摺っていた。
なんでも前世の母が言うには新しい場所にやってきた人は必ずまわりに住む者に挨拶して回るのが大人の常識だと聞いてきたのだが。
『もう、お家帰りたい………』
「キゥュュン………」
うーん。これがホームシックっというやつだろうか?今まで経験したことのない気持ちで思わず唸る。誰も私と口を聞くどころか目すら合わせてくれないこの状況。私が道を通るだけでモーゼの海割りのように私の事を避け、声を掛ければあの調子である。
それでもめげずに頑張って声を掛けていた。前世の母も『大切なのは第一印象と自分から声を掛ける勇気よ!』っとよく言っていたし。
でも徐々に疑問に思い『何故、普通に話し掛けているだけなのにそんなに逃げるのだろう?』と首を捻っていると、私はある一言でとんでもない点に気づく。
『オオキイ食ベラレル!!』
「ウォンッ!?」
その一言に少なからず衝撃とショックを覚えた。
(すっかり自分のサイズ感、失念してましたッ………!)
改めて水に写る自分の姿を見返してみた。ピンッと立った三角の耳に大きい牙と鋭い爪。石炭みたいに黒い毛並みは私の狼のような目をした藤黄色の瞳をより一層際立たせる。まだ成長段階であるからといっても熊と同じぐらいの大きさはある。
(うん、これは確かに怖い)
こんな熊みたいなにでかい生物に遭遇したとなれば人間の頃の私なら間違いなく逃げてた。比較的対象がいつも母だけだったので、それに比べたら『私なんてまだまだ可愛いものだな』っと全然気にしてもいなかったのがそれがいけなかった。
『なんてこった。前世の母の言うその『第一印象』がいけなかったとは………』
私は思わずその場に絶望感で打ちのめされた。第一印象が駄目というなら他にどうすればいいんだと。
(でも確かにこんなゴツい、敵なのか味方なのかも分からない奴に急に話し掛けられても皆、逃げたくもなるよね………)
しかし、ようやく母元を離れ独り立ちしたのだ。おめおめと地元に戻るわけにもいかないし、折角の友達を作れるかもしれないこのチャンス、逃すわけにはいかない!
何か皆とすぐに仲良くなれるいいアイディアはないだろうかと考えを巡らせる。そして、ある事を思いついた。
(そうだ何か……何か困り事とかはないかな!)
生前、もし病気が完治したら何か人の役に立つような仕事に就きたいと考えていた私。そうすれば困っている誰かの役に立ちながら私が怖い存在じゃないということもアピール出来るし、正に一石二鳥の計画だった。
善は急げと私は早速、誰か困ってる者はいないかと山の中を奔走した。