第三十ニ話『王からの呼び出し』
「よぅ、クロエル。起きてるか?」
まだ辺りがぼんやりと暗く空に朝日が登ったばかりという早朝、端正な顔をした金髪の一人の青年___シークは厩舎の中を覗いた。
ガサガサ、ガサガサ。
するとその声に反応するよつに厩舎の奥にこんもりと盛られた干し草がモゾモゾと動いたとおもったら、ぴょこんと可愛らしい黒耳が2つ出現した。
『シーク!』
シークの声に反応し、干し草の山の中から姿を現したのは一匹の黒い狼___クロエルの姿であった。
『久しぶり、元気だった?』
「クゥーン」
「ヨシヨシ。俺がいない間、しっかりやってたか?」
シークは近づいてきたクロエルの頭を優しく撫でる。クロエルもシークに久しぶりに会い、尾をちぎれんばかりに振る。あの後、シークの体調が回復するまで2日かかった。まぁ、怪我をして熱があった怪我人があんな激しい運動?をしたのであれば無理はないだろう。
その間、私に部屋としてあてがわれたのは古い厩舎だった。もう使われなくなって暫く経つというが流石王家御用達の建築家が作っただけはあり、造りは頑丈で木材も腐っている様子もなくそんじょそこらの建物より安全だ。それにシークが地べたじゃ寒かろうと心遣いで引いてくれた沢山の干し草もあるので寒空の夜でもへっちゃらだった。自分的には雨風が凌げるというだけでも十分満足でそれ以上は贅沢すぎる話だが。といってもまたあの汚い檻の中はもう勘弁してほしい。
(住めば都とよく言ったものだ)
うんうんと私は一人で勝手に頷く。餌も兵士が怯えながらも何だかんだちゃんと交代で小屋の前に置いていってくれたから飢えることもなくシークと会えない間も実に快適な日々を過ごしていた。
「クロエル、今日は外に出るぞ」
『外?何処に行くの??』
「ワゥ?」
「王様からのお呼びだしだ。俺とお前、でな」
(呼び出し?一体なんの用なんだろう)
シークと私を呼び出すということは今後のことについての話だろうが、今のところ王様がどういう人物か全く分からないのでどう相手が出てくるか未知数だった。ともあれ気を引き締めて向かわないと!私はふんっと鼻息を荒くした。シークはくすりとどこかその様子を可笑しそうに見て歩いていると……。
「うおっ!……」
(危ない!)
まだ足の骨だけがくっついてなく仕方なく片脚のみで壁沿いを伝って歩いていたシークだったがここら辺は物置としても使われており特に物が多く案の定、荷物に躓きバランスを崩すシーク。慌てて私はシークが倒れてきた方に体を滑り入れ、ぽすんとシークを背中でキャッチする。
「す、すまないクロエル。助かった」
『どういたしまして!』
「ウォン!」
またシークが転ばないようにと私は杖の如くぴったりとシークの隣につくことにした。シークもそれを感じ取ったのか黙って私の背に手を預けてくれている。久々に純粋に人の役に立てていると思うと嬉しくてゆらゆらと自然に尾が揺れる。こういうときに巨体で本当によかったと常々感じる。まぁ、女としてはいかがなものかと思うけど……。複雑な思いもあったが今は飲み込むことにし、シークと共に厩舎を出る。




