第二十七話『燃え盛る炎』
「水魔法と土魔法を使える者は燃えている建物に一点集中して魔法を放て!それ以外の者は怪我人の救助、動けない者には手を貸して火の手が届かない安全な奥の方に運んでやれ!!」
『水よ、降り注げ!』
『土よ、大地の力を!』
シークは現場に着くと東棟にいた使用人たちの避難と消火活動の指示を行っていた。これ以上火の手が広がるという最悪の事態は阻止は出来たものの、肝心の今回の火事の発生源である東棟の火の勢いだけが止まらなかった。皆、慣れぬ火の消火活動に苦戦を強いられていた。
「シーク隊長、彼処に人影が」
「ケホケホッ…!だ、誰か、助けてぇー!」
兵が指差す東棟の最上階に位置する部屋には大人一人が立てるぐらいの狭さのバルコニーが付いており、黒煙が空にと立ち上る。よく目を凝らすとそこには小さな人影が丸まっていた。白色のドレスを着た少女が体中が煤にまみれてして声をあげる。
「シエラ姫!何故あんな所に!?」
「付きのメイドは何をやっていたんだ!」
「も、申し訳ありません!少し目を離していた間に何処にもお姿が見えなくて………!」
まさかこんな事になるとはと避難していた召し使いのメイドは顔を真っ青にしていた。
「シエラ姫ッ!!」
燃え盛る建物にシークは一人飛び込もうとした。
「なっ!?隊長!!」
「くそ、離せッ!」
「無茶ですよ!そんな体であんな火の中に飛び込むなんて!」
「じゃあこのまま姫が焼け死ぬのを指を咥えてみていろというのか!」
中に飛び込もうとするシークを必死に羽交い締めをしてコニーは止めに入る。シエラがいるとされている場所は火の手の中心辺りで特に炎の勢いも強い。とてもじゃないが人が中に入って助けに行くのはほぼ自殺行為であった。シークはあまりの自分の無力差に唇を噛みしめた。
「けほッ…!ゲホッ……!!ううぅっ、熱いよ……!!」
そうしている間にも火は勢いをどんどんと増し、息苦しそうにシエラは喉を抑えて激しく咳き込む。
「頼むシークよ、シエラを、シエラを助けてくれッ………!!」
「私からもお願いしますわ!」
「シド様……」
先に避難していた国王は火事の惨状を目の当たりし、どうにか姫を助けて欲しいと必死にシークに縋る。現王妃であるマエル王妃も心配そうな顔で様子を伺っていた。親として目の前で子供に危機が差し迫っているのを放っておけないのは当たり前だ。だが、この火の様子では鎮火にはまだまだ時間もかかる。怪我と回復しきっていないこの体ではシエラ姫を救出するのは不可能であった。
(何か、何かこの絶望的な状況を打破する方法はないのか……!)
「………そうだ!一つだけ方法があるじゃないか」
脳裏にある方法が一つだけ思い浮ぶ。だがそれはあまりにも無謀で前代未聞の方法であった。けど悩んでいる時間は最早なかった。もうそれ以外の策はないと藁にも縋る思いでシークは一つの賭けに出てみることにした。シークはコニーを呼ぶと本来向かおうとしていた牢獄に向かった。




