第二十六話『脱出』
何やら外が騒がしい。それにさっきから焦げ臭い匂いがして仕方がない。心がざわざわするこの感覚、嫌な予感がする。垂れていた耳が自然にピンッと立ち上がる。
「ウウウゥッ…!!」
「おい魔物うるさいぞ!」
「キュ~ン………」
唸って看守に外の騒ぎを知らせてみるが、看守はまったく興味を示さず、終いには声がうるさいと叱られてしまった。
『くぅ~!魔法さえ使えればこんな檻、どうとでもなるのに……!』
口輪を付けらている為、これでは詠唱が唱えられない。口輪を取ろうにも手足はロープで頑丈に固定にされていて簡単には解けそうにはなかった。悔しくて入り口の前で座っている看守の兵を睨んでいるともう一人の兵が慌ててた様子で牢屋にと走り込んできた。
「あぁっ?もう見張りの交代の時間か?」
「そ、そうじゃない!それより大変なんだ!!お、王宮内で火事が!」
「か、火事ッ?!」
『チャンスだ……!!』
大変不躾ではあるが、その騒ぎに乗じてなんとか外に逃げられるかもしれないと考えた私は狩りをする時と同じく、じっと辛抱強く機会を待つ事にした。脱出のチャンスはないかと二人の兵の様子を伺いつつ脱走のタイミングを見計る。
「チッ、やべぇな……!それじゃいつこっちにも火の手が回るかわかんねぇじゃねぇか!早く俺達も避難するぞ!」
「えっ!この魔物はどうするんだい?」
「そんな高が魔物一匹放っておけ!」
此方を忌々しそうに見る緑の髪をした看守の男に対し、今しがたやって来た青い髪をした兵の男の方は心配そうな瞳で私を見た。
「けど、こんな所にいたらこの魔物も焼け死んでしまうかもしれない!」
「相手は魔物だぞ!死んだって誰も困りゃしない!!」
青い髪の男は一瞬、緑の髪の男の言葉で躊躇したが、意を決したように顔をあげると入り口の近くに吊るされていた檻の錠を持って檻の前に近づく。
「あ、おいこの馬鹿!」
「た、頼むからじっとしておいておくれよ……!」
びくびくと怯えながらも檻の扉を開けると私を檻の中から出そうと壁に繋がれている首輪の鎖を頼りに私のことを引っ張る。私の事を怖がりながらも助けようとしてくれる健気な青年の姿に感動を覚えるが、ぎゅっと目を瞑り心の中で先に謝っておく。
『ごめんなさい!』
「ふぎゃあっ!」
心の中でしっかりと謝罪した後、男が近づいてきた所を狙って体当たりを繰り出す。けど、手足が縛られている状況なのであまり力強く飛び掛かれなかったので少し焦ったが、運がいい事に男は自分で驚いた拍子に足を滑らせて壁に頭をぶつけて気絶した。
「こんのっ馬鹿ッ……!!」
入り口にいた看守の男が槍を持って私に襲い掛かってくる。
「死ね!」
鋭利な刃の銀の槍先がこちらの背後に迫ると同時に、鞭のようにしなる尻尾を器用に操り私は男の体を払う。
「ぐはっ……!!」
見事尻尾が鳩尾あたりに入り、男はその場に崩れ落ちる。二人共すっかりのびていた。男たちの様子を確認し、何かロープを切る物はないかと視線を動かすと地面に落ちている先程の銀の槍先が目に入った。
『これだ!』
前足さえ自由になっちゃえばこっちのもんだもんね!ずれないよう巨体な体で槍を挟むと前足を動かし、ロープを切断する。前足が自由になると次は後ろ足を縛られているロープを前足の爪を器用に使って切る。のびている男たちを踏まないように避け、牢屋から脱け出すことに成功した。
『よし!後は逃げるだけ』
こんなところはさっさとおさらばしてしまおうと背を向ける。だが、ふっと足を止まる。
『…………』
ここで彼らを放っておけばどうなるのだろうか。煙を吸って中毒死?それとも火に囲まれて気絶したまま焼け死ぬのだろうか。そんなの知るもんか、あっちが先に攻撃してきたんだ。気付けば男たちの襟を咥えて煙がこない茂みの中に運んでいた。
『馬鹿だな、私……』
わざわざ自分に酷いことをしてきた人間たちを助けるなんて自分でもどうかしていると思う。こんなことをしたって感謝なんてされない。それどころか石を投げつけられるかもしれない。けど、どうしても放っておくことができなかったのである。それぐらいに私は人を愛しているのだと改めて痛感した。
『……最後に助けてくれてありがとう』
言葉は通じないと理解しつつも青い髪の青年にお礼をそっと呟き、私はその場を去った。
気づいたらレビューが消えてた……ちょっぴりしょぼん(´・c_・`)




