第二十四話『黒き気高き魔物』
見事な満月の月夜が浮かぶ暗闇の森の中に一人で佇んでいた。けれどこれは夢の中だとシークは何故だが不思議とすぐにわかった。風が吹き荒れ、闇夜の森が木の葉を巻き上げてざわめくと一匹の狼が此方を見つめていた。
何も喋らずとも誰をも寄せ付けない佇まいに艶やかな濡れたような漆黒の毛並みは満月の月に反射し、やや青みを帯びる。その姿にシークは心を奪われたかのように見つめた。お互いの視線が重なる。いつもなら魔物に対する怒りしか沸かないはずなのに、心は驚くほど静かであった。其れが特に何をするわけではなく、闇夜に潜む黄金の二つの瞳はただ穏やかな瞳で此方をじっと眺めていた。
……………………
「ここは………」
目の前には見知った天井が広がっていた。体が岩の如く重く動かず、必死になって首だけを動かす。周囲を確認してみると、ここはグラデルフィアの城の敷地内にある医務室だった。それにベッドの横には見慣れた茶色の髪が写った。
「シーク隊長!よかった目を覚まされたのですね!」
「コニーか……」
「本当によかったッ………!隊長が賊から積み荷と僕たちを逃がす為にあの場にただ一人残って、それからは行方不明になったって聞いて……」
コニーと呼ばれた青年はうるうると涙ながらに語っていた。
「男が簡単に泣くな、自分の部下たちを守るのは隊長として当たり前だ」
コニーの情けない泣き顔をみると本当にグラデルフィアに帰ってこれたんだと実感する。それしても随分と可笑しな夢を見ていた気がする。熊みたいにでかい狼の魔物と出会ったり、しかもそいつは捕ってきた猪を捌いて、肉を焼いて何故か一緒に食った。それではまるで人間が獣の肉は生では食べない事を熟知しているようではないか。そんな知能が高い魔物など聞いたことがない。
(まったく随分とお伽噺話のような夢を見たな……こんなでは教会の子供らに笑われてしまう)
シークは自傷気味に自身を嗤うと共に、もう一眠りしようと横になり目を閉じる。まだ熱のせいで体が鉛のように重たく自由が聞かなかった。
「あっ!隊長を襲った魔物はちゃんと牢にぶちこんでやったので安心して寝ていて下さいね!」
「魔物だとッ……!?」
コニーの魔物という言葉に、シークの閉じかけた目が開く。
「おいコニー!それはどんな魔物だった!?」
「へぇっ!?えっ、えっと……それは、恐ろしいぐらい馬鹿でかい黒色の狼の魔物でしたよ!」
「夢じゃなかったのか……!」
ぼんやりと揺れる意識の中、身体中を包むほんのりとした温もりを感じた。俄かには信じられない話だが今の自分が置かれている状況から察するに、あの狼の魔物が森から担いで運んでくれたのだ。シークはゆっくりだがここ数日間の出来事は現実だったのだと理解した。最初は会った時は心臓が飛び出るぐらいに驚いた。すぐに気配の消し方で、ただの人間ではないことは予想はしていた。森に住む可憐な妖精族か獣人の乙女かと思いきや、それがまさかどの文献や図鑑でも見たこともない狼の魔物がやってきたのは想定外であった。山の中で転がっていた人間に対する純粋に物珍しさと好奇心だけで寄ってきた酔狂な魔物だと思っていた。
(俺があそこで朽ちようともあの魔物には何の痛手もない。むしろ楽に人間の肉が喰えると喜ぶことではないか)
それなのに何故病で勝手に死にかけてる自分をほっとかず、自分の身の危険をさらしてまでも助けたのか魔物の行動はどうしても理解しがたかった。
(あいつは他の魔物とは違って聡明だ……。自分がここに来ればどういう扱いを受けるかも多少なりとも理解できたはずだ)
まさか情が湧いたとでも?いや、だが魔物に心なんてあるのか?
「くそっ……!」
先に刃を向けた俺にどうしてそこまでしてくれるんだ?と、シークはいくら考えてみても答えは見つからなかった。取り合えず、あいつに会いにいかなければいかないとシークは重たい体を動かす。
「ちょっ!シーク隊長!?どちらに行かれるのですか?!」
「用を足しにいくだけだ!!」
「いや、その表情でトイレって絶対嘘ですよねぇッ!?」
熱と骨折で思うように動かない体でシークはベッドから立つ。思うように力が入らずあちこちに体がよろめく。コニーは慌ててふらついてるシークの体を支える。こんな状況では無理だと引き留めたがシークは「肩を貸してくれ」とその一言しか言わず、コニーはしかなく肩を貸すことにした。
お久しぶりでございます。自粛生活の中、皆さんはどうお過ごしですか?私の方もかかりはしなかったものの、色々と大変でした……。それでも小説はちょこちょこ書きたいなと書いてはおりましたがいかんせんなかなか執筆が進まず、更新が大分遅れましたこと誠にすいません。それでも小説を読んでくる方や感想や評価、メッセージなどで応援してくる方までもくれる方もおり大変恐縮です(´;ω;`)皆さんも大変だろうに………。
これからも更新は頑張りますので応援お願いしま~す!それではまた小説でお会いしましょう!




