第二十一話『グラデルフィア』
人の手が一切入っていない凸凹と不安定な山道を慎重に降りて山を下山する。私は何十年振りかに外界の地へと脚をつけた。やはり山とは違って、見える景色も匂いも全く異なる。
『って、懐かしんでる場合じゃないって……!スキル“嗅覚強化”』
身体強化のスキルを使い、人間の匂いを辿る。より多くの人間の匂いがある方面にきっとグラデルフィアがあるばすだ。
『こっちだ!』
雨風のせいで大分匂いは薄れていたが、微かに残っていた匂いを頼りに道を探る。
「ごっほッ………!」
「クゥーン………」
背中から聞こえる苦しそうな声にやりきれない思いが込み上げる。私は走る足の速度を上げた。景色も変わり、人間の匂いが強まっていく。
『!!見えたッ……!』
平地をひたすら走り続けて五時間。ついにグラデルフィアの砦が見えた。ぐるりと周囲を見渡すが周りはどこも高くて頑丈な石で出来た塀で覆われている為、男を背負った状態では外部からの侵入は難しいそうであった。
『城門から正面突破するしかないみたいね』
国の正面に開放されている城門。城門には検問所があり、商人たちや外からの来訪した者などの荷車や馬車で長い列を成していた。
「おい、なんだあれ?!」
「魔物だ!魔物が来たぞ!!」
私の姿に気づいた人々は逃げようと長い列を乱し、その場は一気に混乱した。でも、その方が私としても都合がいい。検問所にいる門番たちはパニックになっている御者や商人などを抑えつけるので精一杯で動けない。入るなら今がチャンスだった。
『えいッ………!!』
助走をつけ、思いっきり地面を蹴りあげる。常に野生で鍛えられている手足はバネのように跳ねて飛ぶ。人混みを越え、大きく放物線状を描いた体は無事に城門の中にへと辿り着く。「魔物が侵入したぞー!」っと、門番が後ろの方で騒いでいたが、今は後ろを振り替えっている場合ではない。
『早くこの人をお医者さんの所に届けなきゃ……!』
街中を男を背負って走り回るが、知らない街で手掛かりもなしでお医者さんを探すのは至難の技でしかも混乱して逃げ回っている人々のせいで薬剤の匂いを辿ろうとしても色んなが混合してしまっていて探すのに時間がかかりそうだった。
「いたぞー!魔物だー!!」
『くっ……!!』
少しの時間でも惜しいというのに追手の兵は次第に増えていき、医師を探すことすら困難になっていく。どうするれば……っと考えていると、ふと顔を上げると視線に大きな城が映った。多分、雰囲気からしてあそこには王族など偉い身分の人間が住んでいるのだろう。
『王様がいるならお抱えのお医者さんの一人はいるはず……!』
少し考え、私は街中から身を翻し、中央に建つ大きい城に向かって走り出す。




