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第二話『自由って素晴らしい!』

 黒い影が思いっきり草原の中を駆け抜ける。いつまで走っても息切れることのない体、地面を蹴るしなやかな四足。まるで風になったかのようだ。


『あぁ、自由ってこんなに楽しいんだ………!』


 あれから百年近く経ち、私の体は大型犬と同じぐらいの大きさまで成長していた。新しく授かった体はとても健康体で神に感謝した。すると、草原を走り回って遊ぶ私を呼び寄せる母の鳴き声が聞こえてくる。


『おいで私の可愛い子。ご飯の時間ですよ』


『やった!ご飯ッ!』


 狩りから戻ってきた母に呼ばれ、私は急いで巣穴に戻るとそこには雪のように真っ白で美しい毛並みをした狼がいた。普通の狼の何十倍大きい体に端正で凛とした気品溢れるその顔と姿は何とも言えぬ王者の風格を感じる。


『頂きまーす』


 私は早速母が狩りで捕ってきた獲物に口にする。最初は生々しい光景に食欲をなくしたが、段々とその光景にも慣れていき今なら自然と食べられるようになった。

 私の目の前にいるこの美しい白い狼は正真正銘の今世での私の母である。どうやら私が次に生まれ変わったのは聖霊狼(フェンリル)という種族で、聖霊狼(フェンリル)は昔は偉い神様の使いでその為に知性が高く、代々と生きる為の豊富な知恵と術を受け継いできたと、私は小さい頃から母に言い聞かされてきた。

 まぁ、それ以外はほぼ生態としては狼と変わらないようだが色々と違う部分も数ある。一つめはまず食事。狼は基本肉食なのだが、聖霊狼(フェンリル)は雑食で肉や魚以外にも木の実や果物だって好んで食べる。


『ふーッ……!お腹いっぱい』


『こらこら、お口に汚れがついてますよ』


 お腹一杯に食べ満足して寝そべっていると母が私の顔をペロペロと毛繕いするように舐める。その仕草はくすぐったくていつまで経っても慣れないでいた。


「きゅーるるるぅ………」


 ついつい気持ち良くて喉が鳴ってしまう。ブンブンと尻尾が横に揺れる。いつもは厳しくそして賢い母だが、この時だけは優しい母の顔を見せてくれた。母には私以外の子はおらずその愛情をたっぷりと私だけに注いでくれた。

 そして、二つめは繁殖率。聖霊狼(フェンリル)は魔力や身体能力にとても優れているのだが繁殖率は非常に低く、数が少ない。寿命の方も生物の部類としては長命だが体の発達も遅かった為、赤ちゃんの時は特に外敵にも狙われやすい。私も母以外の聖霊狼(フェンリル)には一度もあったことがなかった。

 けど私はその母親とは似ても似つかない真っ黒な煤みたいに黒い毛並みで。私がその事を気にしていると『見た目など些細なことでしかありません。貴女は貴女で私の可愛い子で違いはありません』と言われ、その時から私はその手のことは深く考えるのを止め、母の自慢の子として立派な聖霊狼(フェンリル)になれるよう努力しようと心に決めた。今はその為、母の元で日々勉強中の身である。


『あ、人間だっ………!』


 外を覗くと近くの集落に住む人間の子供たちの姿が見えた。楽しそうに野原で鬼ごっこをして遊んでいる子供たちの姿を見て、私は無性に羨ましく思った。


『ねぇ、母さま………』


『なりません』


 まだ何も言ってないのに母はぴしゃりと返事を叩きつけてくる。取り付く島もないとはこのことか。せめて最後まで言わせて欲しいものである。

 母が私に愛情を注いでくれるのは嬉しいのだが逆に言えば私には母しかいないということだ。母は四六時中私の為に狩りをしているので巣穴を留守にしている為、兄妹もいない私には遊び相手がいなかった。母の涼しい色をした水縹色の瞳が冷たく輝く。


『私たちの存在が希薄になりつつある理由も何度も、もう説明しましたよね?』


 そう私たち聖霊狼(フェンリル)の数が激減したのは繁殖率の問題もあるのだが、遥か昔に人間たちが戦争目的のため行ったという『聖霊狼(フェンリル)狩り』が原因でもあった。今の私の父も母を逃がす為に捕まってしまい、それ以来行方不明で生きてるのか、死んでるのかさえも知らないらしい。

 その事を知っている私はこれ以上母に我が儘言う気にはなれず渋々『はーい』っと返事をして大人しく寝ることにした。すると母は私の寂しさを察してか何かなのか私の体を包みこむように一緒に寝てくれた。

 確かに人間には悪い事をしでかす人もいる。でもその分、良い人だってきっと沢山いる。前の世界の私の両親みたいに優しい人や病院にいた子供たちだって皆素直でいい子たちばかりだった。

 その事をいつかきっと母にも分かってもらえるといいなと私は思いながら目を閉じた。

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