第十九話『食事(後編)』
もしかして、苦手な肉だったのかもしれない……と考えていると。
「うーん……立派な猪だが、流石に生で食べるわけには…」
『あっ………そっか!人間って基本、生肉は食べないんだった………』
そっかそっか、普通人間はちゃんと食材を調理をしてから食べているんだった。お恥ずかしい話、いつも自分はそのまま生といった野性味溢れる食べ方をしていたのですっかりの工程を忘れていた。
『正直、人間の頃より獣生活が長いので多少は仕方ないと目を瞑って欲しい……』
だが、そうと知ったからには話が早い。火をつけようと落ち葉や枯れ木を集める。私のその行動に、男は「??」と黙って様子を見ていた。
『火よ………!』
「ガゥッ………」
鼻先を集めた落ち葉と枯れ木でこんもりと盛り上がっている所に向けて火の詠唱を唱える。すると赤い魔方陣が展開されて火種が枯れ葉の中に落ち、みるみると枯れ葉の中から煙が上がってきた。普段、あんまり火の系統の魔法は使わないので少し不安があったが上々の出来だ。
「お前……!魔法が使えるのか……!?」
男は大層驚いた顔をしてこちらを見ていたが私は火の様子を見るで忙しくてそれどころではなかった。
『ほら、これなら食べれるよね!』
火の設置も無事に出来たし、これなら何の問題もないよね!っと、キラキラと期待した目で私は男を見たが男は何故か、ぽかーんっとした目をしていた。私は一向に動かない男を不思議に見たが『あっ、怪我してるから上手く捌いて食べれないのかな?』と思い、男の代わりにでかい猪の関節部分に牙を突き立て肉を裂き、牙で器用に毛皮も剥いだ後、火を通して焼いた。
『寄生虫などもいるかもしれないといけないのでここは念入りに焼かなくては……』
「えっ、えっ……?」
男が横でオロオロと戸惑っている間にも肉は焼ける。なるべく柔らかくて骨が少ない、人間が食べやすい部位を男に与えた。「お、おう………ありがとう」と言いながらも男はまるで幽霊でも見たかのような、信じられないものを目撃しまったという顔をしていた。でも私は『そうかそうか。久しぶりのお肉がそんなに嬉しかったのか』っと男が遭難中に肉にありつけた事に感激しているものだと思い、こんなにも喜んでくれるならまた狩りにでも行こうかな?とウキウキとした気分で考えていた。