第十七話『接触』
驚愕とした翡翠の瞳と獣の黄金の瞳が重なりあった。
(見られた……!!)
頭の中ではここにいちゃ駄目だ!っと理解しているはずなのに、翡翠の瞳に射ぬかれてしまうとその思考も停止してしまう。不覚にも体を石のように固まらせていると突然体に激痛が走った。
「キャウンッ!!」
『痛いッ!!』
男性が尻尾を握りしめる力が強くしたのかこれには堪らず悲鳴をあげた。尻尾だってちゃんとした器官の一つで神経も繋がっているのだ。それを馬鹿みたい強く握られたらそりゃは痛いに決まっている。男の方も私の悲鳴に驚いたのか、尻尾を握り潰していた手をパッと離した。その瞬間、私は反対側の茂みに飛び込んだ。
(あいてててっ……!)
フーッフーッと私の可愛いふさふさ尻尾に息を吹き掛ける。
(って、こんなこととしてる場合じゃなかった!やばいやばい………!!姿がっつり見られちゃったよッ!)
尻尾の痛みは緊張のせいかすぐに引いた。一匹、茂みの中で無駄に大きな体を縮こませる。
「ま、待ってくれ……っ!」
茂みの隙間から覗くと男はバツが悪そうな表情をして、こちらの茂みの様子を伺っていた。キリッとせっかく綺麗に整えている眉毛は困った様子で八の字になっていた。その顔はまるで、病棟で自分の部屋が分からなくなってオロオロとしている迷子の子供と同じ顔で、それを目の前にいる成人の男がやっているとなんだか少し不釣り合いで少し可笑しくて笑ってしまった。
翡翠の瞳にはまだ戸惑いと混乱は隠せていないようだったがその目はまっすぐと私をとらえていた。
「もしかして、お前が毎日俺に食料と水を持ってきてくれていたのか……?」
話しかけてくる男性に対して正直姿を見せるべきか迷ったが、私は意を決して茂みから出た。茂みに隠れていた自慢の艶やかな黒い毛並みが月の青白い光によって反射する。相手をゆっくりと見下ろしていると息を飲む音が聞こえた。
「ま、魔物………っ!?いや、だが、そんなまさか……」
男は何かブツブツと呟いていたが、いきなり私の頭に手を伸ばしてきた。また痛い目にあわされるのではないかとびくりと体が勝手に反応してしまう。
「も、もう酷い事はしない!本当だ信じてくれ」
その言葉の通り敵意はないようだったが、慎重に一歩ずつ男性の方へと近づいていった。
「その、触ってみてもいいだろうか………?」
まだ恐る恐るといったようだが、私に向けてそっと手を伸ばしてきた。私はそれを大人しく受け入れた。男は私の鼻先を撫でる。
「幻じゃない………」
男性の手がまるで私の存在をしっかりと確かめるよう優しく触れた。誰かにこうして触れられたのは久々で私は嬉しくてなって無意識に尻尾を横に振っていた。
「先程はすまない、尻尾を強く握ってしまって……痛かったろ」
申し訳なさそうに謝る男性の姿が少し可笑しくて私は『もう気にしてないよ、許してあげる』と意思を示すように大人しく男性の撫でる手を受け入れてあげた。