第十六話『重なり合う瞳』
男の人の怪我が治るまで面倒をみると決めてから3日経った。それからというもの森の見回りと共に、男の人が寝静まった頃に夜と朝の時間の2回に分けて生きるには困らない程度の食料を置いていく生活が続いていた。
男は相変わらず起きた頃には必ず置いてある食料に怪訝そうな顔をしたが負傷している身体で下山をわけにもいかないし他に食べれるものもないので仕方ないといた表情で食べていた。そんな様子をじっと観察していると男がふっと顔を上げた。
「………誰かいるんだろう?」
姿は見えてないらしいが男は私の目線に気付いていたらしく、語り初めてきた。
『気配殺してたつもりだったんだけどな……』
かなり手慣れた剣士なのだろうか、こちらが全力で気配を殺しているというのに一瞬にして僅かな気配を察知し気づかれてしまった。こんな非常事態も一定の平常心を保っているし、彼の力量に私は思わず舌を巻いた。
「見ず知らずなのに助けてくれてありがとう。是非お礼を言いたいんだが姿を見せてくれないだろうか?」
私のことを村娘と思っているのだろうか?最初に聞いたあの怖い声音とは打って変わって優しい口調で語りかけてきた。
「でもここで一人でいると危険だ。ここの森には危険な魔物がいるんだ、熊みたいにでかい恐ろしい奴だった……」
『げげっ………』
やはりあの時、姿をバッチリ見られていたらしい。多分特徴からして私の事を言っているのだろう。
『それだとますます姿を見られたら厄介なことになるかも……』
そうと思っているとなかなか姿を見せようとしない私のことを諦めたのか男はため息をつくとまた眠りについた。その日の狩りを終え、夜になりといつもと同じようにまた男の人の寝床に行くとぐっすりと眠っているのか男の寝息が聞こえてきた。起こさないようにゆっくりと近づいて今日手に入れた食料に置いていく。
『よし、起きて……ない』
今朝あんな話を聞いたばかりのせいかいつもより慎重になってしまった。さて、食料も置いたことだし私も自分の巣穴に帰るかと後ろを向くと何か急に強い力に尻尾を引っ張られた。
『いっ……!!』
悲鳴をあげそうになったのを必死に堪え、後ろを振り替えると顔から目玉が溢れるのではないかというぐらいに見開いた橄欖石の瞳とばっちりと目が合ってしまった。