第一話『生まれ変わったけど』
人生とは不思議なもので、終わったと思っていた人生も終わっても尚も続く。読み終わったと思った本が実は続編があったみたいに。
私のたった十七年という短い人生の物語は結局、この狭くて白い病室の外から出ることは叶わず、ここまで育ててくれた優しい両親に見守れながら息を引き取った。
「ありがとうパパ、ママ………」
二人の瞳から一心不乱に降り注ぐ雨みたいな涙を拭き取って上げたいけど、もう手を上げてその涙をすくってあげることもできなかった。
『私は長く生きられなかったけど、どうか二人は元気でね』
骨肉腫との辛く長かった闘病生活、でも両親が居てくれたから辛い副作用も乗り越えられた。最大級の感謝の想いを込めながら私の手をいつまでも抱き締めて泣く両親の手を握り返した。私も最後の一粒の涙を溢すと、ゆっくりと目を閉じた。
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次に気付いた時には真っ暗で狭い部屋の中に一人っきりだった。『ここは一体どこだろう?』と、自然な疑問が浮かびあがるも大きな揺りかごに乗っているようなこの世界は暖かく、すっかりと私は微睡んでしまう。
『気持ちいいな………』
トクゥントクゥンと波打つ優しい鼓動は心地よく思わず聞き入ってしまう。突然、暖かったあの世界から冷たくて訳の分からない世界にと引摺り落とされる。
「きゅーきゅー」
『何コレ、私の声?』
寒くて暗い世界、怖さと寒さで体が震える。目が見えず不安で鳴き続けていると頬に暖かい何かが伝う。
『あぁ、私の可愛い子』
ペロペロと私の顔と体全体を舐める舌はマッサージするかのように優しく撫でる。優しくて凛とした女性の声に気持ち良くてあっという間に体の震えは収まった。
すると今度はお腹が空いてきた。そしたら暖かくて柔らかい突起物のようなものが差し出される。私は差し出された突起物を咥えるとおっぱいを吸うかのように必死に吸い、夢中になって食事をする。
そして二~三日経ってようやく目が開くと私は目の前の光景に驚いた。何故ならそこにいたのは私の何倍より大きく、美しくて白い毛並みをした狼がいたのだから。