親方!空から男の子が!
「のぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!!」
緊張感のない声が戦場に響き、少し離れた場所に髪が黒い少年、大河が落ちてきた。
「この鳴き声、猫!?」
「子供ですエルナ様!!」
あまりに致命的と言って過言ではなかった。互いが命のやり取りをしている最中の「余所見」。
まさに命取り、上空からの不可解な量のマナの波動、相手の援軍かとそちらをつい確認してしまったのは、あるいは戦闘そのものへの意識の差だろうか。
生まれた一瞬の隙をウォードは見逃さなかった。
左右2つの護符に込められた魔術を2つ同時に解放する。
(解放:加速!)
(解放:強化・精銀腕剣!)
魔術を込めた護符の魔宝石が砕かれ、こめられた力がウォードに宿る。
エルナたちと同様、上空の「異物」に気を取られていた魔族の顔色が驚愕の色に染まる。老兵との先刻までの手合わせで見えた、魔族の知りうる情報の中での「何があっても対応できる距離」を保っていたが、その老兵はいとも容易く魔族の死線を超え、生命を刈り取れる距離まで瞬時に詰めよった。
「クッ……!!」
しかし、魔族の反射速度は人智を超えている。老兵が取りうる最も素早い攻撃手段であった突きは並の戦士であれば心の臓をひと刺ししていたが、魔族はくるりと半身を捩りなんとか躱す。
必殺必中の攻撃が当たらなかった老兵は体勢を崩し――のはずが、瞬時に刃を逆手に持ち替え、駒のようにその身を回転させる。
「本命はこちらです」
ウォードの刃が魔族の胸の辺りを切り裂いた。剣に込められた魔術は護符により更に強化されている。魔族は大きく距離を取り、切られた部分を見て時を止める。そして一呼吸ののち、思い出したかのように憤慨する。
「糞がァァァ!!!!!!」
魔族の赫い目が怒りに染まり、大気が震えると、虚空から黒い刃が無数に現れる。
『烈風障壁!』
そこへエルナの唱えていた魔術が完成し、激風の盾がウォードと魔族の間に発生する。
漆黒の刃の多くは届く前に風に散らされ、角度よくウォードまで辿り着いた黒刃もウォードの剣によって地に落とされる。
「ウゥ!!」
「ライル!!!!!」
エルナの生み出した風の盾は正面からであれば物理・魔法に関わらず大抵の攻撃を防御可能なレベルの出力であったが、得体の知れぬ魔族の力の行使に対しその威力を推し量りかねたエルナは防御力をあげた分、カバーできる範囲は限定していた。運悪くウォードの後方にいたライルはいくつかの黒刃に襲われ、うちひとつを躱し切れず、手傷を負う。
「だい……じょうぶですっ!! 掠めただけです!!!!」
一方、魔族は先程現れ、木に引っかかっている珍妙な出で立ちの少年に――今度は警戒を怠らず――目を向け、その上方に精霊の姿を見つける。
「精霊使いか……? 厄介な。……まあいい。これで連中の足止めにはなったろう? なぁお前さん。任務達成だ、任務達成」
何事か呟くと、ヴゥン、と空気が振動し、
魔族の姿は虚空へと溶けていった。続いてエルナと交戦していた下級魔族たちも姿を消す。
ウォードは注意深く辺りの気を探り――その後深く一息ついた。
エルナは呆然とそれを見送る。
「行った……の? ライル!! 怪我は!?」
従者の少年は額に脂汗を浮かべ、無理やり笑みを作る。右手で傷付けられた左肩を押さえながら、
「全然……、へっちゃらです。ホントにかすり傷です。自分で手当てできます!!」
「お嬢様……ライルの手当ては私がしましょう。荷番をしている2人の所へ戻り具合を見ます。 お嬢様は……」
ウォードがエルナにそう声をかけながら、先程落ちてきた少年に目を向ける。
「あ、忘れてた……」
◇◇◇◇
「親方!空から男の子が! って感じなんだろうね、彼女たちからしたら」
「あっそ、じゃあ早いとこ降ろしてくんない……?」
目の前までふわりと降りてきたルーニーに大河は冷たい視線を送る。
(やっぱり転移なんてやめときゃよかった……)
戦いの中で行使されるマナを感知したルーニーは捻じ曲げた空間を元に戻すと、戦っている際に生じるマナの波動から座標が『だいたい』わかるから転移可能だという。『ちょっと』高い場所に転移すれば石の中状態にもならない、との言葉を信用してしまった大河。
精霊のいう『ちょっと』高いの意味を擦り合わせなかったのは大河の責任でもあるのだが。
ルーニーはそもそも悪い事をしたと思っていないようで、元気にオッケーサインを作り答える。
「おっけー!」
そして、再びルーニーは「転移」を行使する。
木に引っかかっていた大河は消え、そのままの体勢で地面の少し上に現れ、
「んだぁ!!!!!!!」
そのまま地面に落ちた。
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