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魔族との戦い



「マジ?人がいるの!? 近いって距離はわかるのか!?」


「ここから東南……んー、2、3キロってことかな」


「まてまて、単位はメートル法なのか!? こっちも!!」



 そんなことはあり得ないだろ、と大河は突っ込む。日本とアメリカでさえ違うのに、異世界の単位が同じだなんて共時性(シンクロニシティ)とかってレベルじゃない。



「メートル法っていうのはチキュウの距離の単位か。よくわからないけど言葉の精霊(ジェバンニ)がどうにかしてくれたんじゃないかな」



言葉の精霊(ジェバンニ)半端ねえって!)



「すぐにそっちに向かおう! ……いや待て、俺って不法入国みたいなもんだよなコレ。 いきなり捕まったりしない?」


「こっちの世界は商人や冒険者が世界中うろうろしてるからね。パスポートやビザなんてものもない、問題はないはず。街に入るときに衛兵が確認するくらいじゃない?」



 国によっては戸籍だってきちんと管理されていない。領主任せというところも存在する。孤児や難民も多く、見知らぬ人が流れ着いてもさほど気にされないとの話だ。



「あとはそいつがめっちゃ悪いやつってパターンだけど……。ええい考えても仕方ないか!! 行こう!!」


「どうやら向こうはボクがいじった空間に迷い込んでたみたいだね。いや~申し訳ない。でも、ちょっと派手に戦ってるみたいで気づけたよ」


「は? 戦い?」


「うーん、これは魔族と戦ってるのかな? 相手も魔力を行使してるけど、波長がちょっと違う」


「え? 魔族?」


「そう、魔族。キミの知識にもあるはずだろ?」



――魔族。

 魔族は、人間に比べ圧倒的に個体数が少ない。

 しかし、人間を遥かに凌駕する力を持つ存在だ。

その力の最大の特長はルーニーたち精霊の様に『魔法』を行使可能――即ち詠唱などの『鍵』によらず超常的な事象を引き起こす特性をそれぞれが持っていること。

 それは戦闘における途方もないアドバンテージを魔族が有しているという事実であるが、

圧倒的にヒトに対して有利であったのはそれよりもむしろ物理的な力への強力な耐性がある点だろう。

 つまり、魔族にダメージを与えるためには魔法的影響力を備えた攻撃手段を用いるしかないのだが、魔法による対決は先の詠唱等の行為が一切不要という特性により魔族が絶対的に有利であり、

またマナを抱えうる量たる魔力容量(キャパシティ)を始めとした魔法基礎能力は一般的な人間族の数倍にもなる。

 一般的な人間が敵う道理がない。



「だからこの世界の人々はこう言うんだ。

 『魔族に遭遇して逃げられないのなら、これまでの善行を数えよ』、つまり来世に期待しろってことだね」


「……」



 そもそもバトル展開自体が無理だ。大河に格闘や武術の心得はもちろんないし魔法だって使えない。人を傷つけた経験なんて未だかつてない。



「血を流させた経験はあるみたいだけどね」


「おいやめろ」



 なんつー下品なジョークを言うんだいこの精霊は。ビックリするわ。



「いや、でもマジでバトル展開はやばいわ。聞いてる感じだと魔族ってそれ普通の人間じゃ太刀打ちできないんだろ?」


「こっちの世界である程度魔物退治や冒険者として名を挙げている人でも、魔族が相手だと知ったらとりあえず先に逃げる算段をつけるだろう」


「無理じゃん! 絶対無理じゃん!」


「こういうときのためのボクさ。大河、キミなんのためにボクなんかと契約したんだい?」



 ルーニーはニヤリと笑みを浮かべる。大河にとっては力強い笑みだった。



「ってことは……?」


「そう、大河の次元刀の出番だ」


「それ俺が死ぬやつだよね!?!?!?!?」



 そして大河は裏切りの味を知った。



「でぇじょうぶ。ド●ゴンボールで何とかなる」


「あんの!? ドラゴ●ボール!!」


「ねぇ」


「ねぇのかよ!!」


「だから死んだらどうにもなんねぇ」


「やかましい!!」



◇◇◇◇



 既にその場は森とは言えない程に荒れていた。



「……正直、ここまでやるとは考えもしなかったな」



 森の中の戦場では辰砂の様に紅い眼を持った男が、対峙する老戦士に話しかける。紅い眼の男の肌は薄く紫がかっており、明らかに人間とは異なる存在――すなわち、魔族だ。魔族の頬にはごく薄い切り傷のあとがつけられていた。



「お褒めに預かり恐縮です」



 軽口を叩きながらも老戦士は一切油断をしない。

目の前にいる存在は人である自分のスペックを大きく上回る。よく見ても互角、客観的にみれば

老戦士のほうが若干苦戦を強いられているように見えるだろう。



――肉弾戦の結果のみを見れば。



(奴には技や駆け引きなんてものは存在しない。

 途方もない力と速さだけで押し込んでくる。

 そしてそれだけで私は押されている)



 老戦士はそう分析する。

自身の培ってきた技や駆け引きをもってしても、それらを一切歯牙にかけず魔族は攻めてくる。

 そして、老戦士のつけた傷に驚きはしているものの、魔族にとっては文字通りかすり傷を負った程度だ。老戦士も合間に魔術を行使はするものの、老戦士はそもそも剣技を得意とした近接タイプ。高速戦闘の最中に割ける彼の集中(コンセントレーション)では威力や速度に長けた魔術は行使できなかった。



「人間の武器程度じゃ傷なんてつかねえと思ってたんだがなぁ。

 金属に魔術を付与しているのか。なかなかに高等な術式だ」


「……余裕ですな」



 老戦士の使用している武器はいわゆる魔法剣と呼ばれるものではない。

ウーツ鋼を用いた業物ではあるが、上級鍛冶師(ハイ・スミス)と呼ばれる者にある程度の対価を渡せば打ってもらえるであろう。

 特筆すべきは剣にかけられた付与魔法(エンチャント)であり、『魔導師』と呼ばれる高位の魔術使いである者――今も後ろで下級魔族(レッサーデーモン)と戦闘している金髪の女性、エルナの師――が編み出した高位の魔術である。この付与魔法(エンチャント)により、老戦士の剣は切れ味向上や刃こぼれを防ぐだけでなく、切り伏せた相手の構築するマナによる防御に干渉する。



 魔族に物理的攻撃が効かない理由は、簡潔に言えば高濃度の魔素を含む体細胞組織にマナを循環させ内部からの圧力をかけることで、外殻を非常に硬くする力学的作用にある。この「マナによる肉体の硬化」は戦闘では基本的な技術だ。しかし魔族は濃密な体組織の魔素と膨大なマナで人を遥かに凌ぐ硬化を実現する。

 老戦士の剣の付与魔法(エンチャント)は、マナによる圧力に直接作用することで、相手の防御を通過する。とはいえ、マナの魔力容量(キャパシティ)に絶対的な差がある魔族の肉体を滅ぼすには足りない。老練の戦士と対峙する魔族の余裕はその点に由来していた。



蒼塵光放射(ブレーザー・ガッシュ)!!』



 下級魔族(レッサー・デーモン)と戦っている金髪の少女エルナの、銀糸のように澄んだ声が荒れ地となった森に響く。

エルナの放った蒼い波動が下級魔族(レッサー・デーモン)の一体を灰にする。エルナは肩で息をし、背後の従者に声をかけた。



「ライル! 怪我はない!?」


「は、ハイ!! エルナ様は!?」


「私もまだ平気!! でも……!」



 エルナはライルが手渡した魔力回復薬(エーテル)を飲み魔力を回復する。



 周囲には下級魔族(レッサー・デーモン)がまだ5体。エルナは何とか3体屠ったが、魔族相手の戦闘能力に欠けるライルを庇っての戦いは不利だった。ライルはせめて盾があればと思ったが、荷を下ろしたあと周辺の確認の際に急襲されたため、装備は充分とはいえなかった。



 無詠唱で放たれる魔法の矢。炎や石の槍が容赦なくエルナたちを襲う。尋常ではない魔族の赤い眼に睨みつけられる度、ライルはぞっとして逃げ出したくなる思いだった。

 更に、老戦士ウォードと対峙している魔族は紛れもなく高位の存在。古強者たるウォードと言えど勝てる公算があるかは解らなかった。



(あの巻物(スクロール)を使う……?

 恐らく奴は倒せる。でも、新手が来る可能性は……!?)



 瞬間、上空から不可思議なマナの波動を感じる。

 戦闘行為中に上空を見上げる行為は致命的であるが、場数を踏んでいないエルナはその違和感の正体を探るべく咄嗟に上を見上げてしまう。



「のぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」



張り詰めた戦場に緊張感のない声が響いた。





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