welcome to the jungle
「嘘みたいだろ?死んでるんだぜ、それで。」
ルーニーは悪戯っぽくそういうと、くるりと後ろを向く。
「つまりね、あっちとこっちのある意味世界は繋がってるけど、ある意味では繋がってない。テレビの中の女の子のパンツを覗こうとしても覗けないだろう? 次元が違うって言うのはそういうことさ」
「だから、俺がここにいるってことは地球では俺は死んでる……ってことか? ちょっと無理矢理やしない?」
「パンツには反応が薄いね。キミの性癖からするとこういう言い方の方がいいかな。し」
「ストォ〜〜〜〜ッッッップ!!!!!! わかったからやめて!?」
やはり大河の性癖はバレていたらしい。
何を言わんとしていたかわからなかったが、何となく正しくありのままの性癖を突きつけられる直感がそこにはあった。
顔面からマグマが噴出しそうであった。
「穴があったら入りたい? じゃあ、用意してあげよう」
瞬間、いくつかの魔法陣が起動し、メコッと地面に穴が空き、退けられた土がガチンガチンガチコンと、超合金ロボの合体シーンの様に合体し、立派な御影石を形どる。きちんと墓石らしく『山内大河之墓』と彫ってある。
「これは、ご丁寧に墓石まで用意いただいて……嬉しいよ」
大河はガックリと肩を落とす。
ルーニーはもっと壮絶なツッコミが来ると思っていたのか、あれ、という表情を浮かべる。
「死んだ……のか、そうか……」
「あっちとこっちを往来して記憶を保ってるなんてのは、ボクも初めて見たよ。
魂自体の往来は稀にあるんだけどね。普通は漂白されてるし」
「魂の漂白……か」
御影石が浮かびあがり、やたらとカッコよく割れると、今度は石製のリクライニングシートを創り出す。ルーニーは腕置きの上にふわっと腰掛け、ぽふぽふと大河の座席を示す。
大河は誘われるまま大理石の様な椅子に腰かける。
「硬ってえよ……」
「まあ、そういうこともあるさ」
大河の頬を伝う水分を、ルーニーは何となく、見てなかったフリをした。
(この世界にも月、あるんだな)
旧い樹々の間から覗く三日月は、地球と変わらないような柔らかい光を灯して、夜が続いた。
◇◇◇◇
爽やかとは言えない朝が訪れる。
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。チュンチュン、なんて可愛らしい小鳥の囀りではなく、アンギャアアアという甲高い鳴き声で目が覚める。鳥か?鳥なのか?
「んー身体、マジいてえ……」
樹海に似つかわしくない大理石の椅子に、葉っぱを敷きつめてみたのだが、やはり根本のクッション性はどうにもならない。
大河はひと伸びし、クビをゴキゴキと鳴らすと、顎のあたりをさすってみる。ヒゲはまだそんなに伸びてないようだ。
「しっかし、精霊ってこんな感じなのか……」
ルーニーは葉っぱの上で気持ちよさそうにスカピー寝ている。
もっと神秘的な布の少ない服を着た女性とかじゃないのか、と思いめぐらす。
「完全にニャンモナイトじゃんか……」
そっとその毛皮に触れてみる。フカフカだけど少し脂っぽい気がする。
(風呂に入れてあげたい…で、ブラッシングして思う存分モフモフしたい…)
額のところをコチョコチョとすると、耳をピクピクさせながら尻尾をチロチロする。目を覚ましたらしい。
「ふぁ、おはよーぅ……早起きなんだね。大河は」
「なんかすげえ物騒な鳴き声で目が覚めちゃったよ。この辺って猛獣とかいないのか?」
ルーニーは伸びーっ!っとしながら欠伸をする。どっからどう見てもネコだこれ。
背中を撫でるとするっと手を抜け、顔を洗う仕草をする。
「いるよ。この辺りは魔素が豊富だからね。少しばかり周りの空間を弄っておいたから、ここに来ることはないけど。ついでに周辺の気温も少し弄ってる。今は冬だからね」
「そんなことできんのか、すっげえ。さすが『次元』の精霊」
「ふふ、褒められるのは悪い気しない。魔素がたっぷりある空間でなら、そんなに難しくはないよ」
「じゃあこの大理石のシートももっとふっかふかのやつにしてやー」
「それはボクの権能じゃなくて魔術で創ってるからね。土魔術はそんなに得意じゃないんだ」
「んー、なんか魔法のこともだけど、色々知らなきゃな。地球では死んだのかもしれないけど、こっちでは生きてるわけだし」
帰る方法も。もしかしたらなくはないかもしれない。
大河はまた伸びをして、ペットボトルの水を取り出す。
「ん、そういえば水とか食料もマジで考えなきゃ。てか、ここの森から出なきゃなぁ」
「水は魔術で一応出せるけどね。ボク自身は水分補給は周囲からできるけど、大河はそうじゃないからね」
「マジ? やっぱそういうのあるんだ? 飲んでみてーな」
「真水だから味はよくないけどね。ボクでも湧水やなにかのほうがおいしいと思うもの。
水魔術も得意な訳じゃないからコントロールが難しいけど、飲んでみるかい?」
「飲みたい!」
「んじゃ、ちょっと待って。えーと、水、水か……飲める水……」
一休さんのようにこめかみをぐりぐりするルーニー。
「ボール状にすれば、まあ大丈夫かな……」
ワクワクしながら待つ大河の目の前に、魔法陣が生まれる。
『水球』
「んゴボォ!!!!」
「あ」
突如大河の周りに巨大な--バランスボール3つぶんほどの水牢が現れる。予期していなかった状況に大河はパニックに陥る。おそらく藁を掴んだところでどうしようもない状況だったが。
「ブボォ!!!! ブバババババボ!! バボス!!!!!!」
「いやあ、大河と契約したお陰でマナが溢れてるみたいで、思ってたより大きくなってしまったね。
で、味はどう?」
大河はもがき、水牢から脱出を試みようとするが、その場から全く動くことができなかった。それにしても人間水の中にいるときには何故こんなに不細工になってしまうのだろうか。
「バボ!!!! ボババンバババボボボ!!!!!」
「大河くんの!ちょっといいとこ見てみたい! あソレ飲んで飲んで飲んで!!」
「ババガ!! ブボ!! ゴボッ……」
「あ。そんなヤバい?」
ルーニーが手をグーパーすると、水牢が弾け、大河が倒れこむ。
「ゲホッッッッ!! ゲホ!!!! オオ″ッ!! ハー……ハーハーハー……」
「あんま美味しくないだろう?」
「それどころじゃねーよ!!!!」
「悪気はなかったんだ」
「殺意を感じたよ!!!!!」
「便利な道具も命を奪うことがあるってことなんだなあ……」
「ポエムにしても誤魔化されないからね!?」
「いやあごめんごめん、コントロールミス。水の魔術なんてとんと使わないもんだからさ」
「それよりも俺は途中のコールの方が気になったわ!」
「やっぱりイッキ飲みはよくないよね」
「違うの!なんか違うの!そういうことじゃないの!」
思わずやれやれと口に出して言ってしまう寸前だった。危ない危ない。
濡れになってしまった髪を整え、パンイチになり、ワイシャツの水を絞りながら、それにしても魔術自体は便利だがコントロールは大変なんだな、と考える。時計は防水性のおかげか大丈夫らしい。
「メシもどうにかしなきゃな。流石に腹減ってきたしな……。ってか、鞄はそのまま転移できたのはなんでなんだ?」
「鞄や衣服は再現されたものなんじゃないかな。 仮説だけどね。そもそも異なる位相にある世界を物質が渡るなんてことは基本的にありえないんだ。ブラウン管テレビから髪の長い白い服の女性が出てくるくらいありえない」
「おお、例えが死ぬほどわかりやすいわ」
ワイシャツをパンパンとやっていると、ルーニーがさりげなくそよ風――しかもあったかいじゃねえかコンチクショウ、を出してくれた。
紳士な精霊である。濡らしたのもコイツだが。
「思うに、魂の転生時に、君んとこの神が気まぐれに手心を加えて身体や持ち物を再構築したんじゃないかな。それなら君の魂の年齢と見た目から受ける幼さの違いも説明できるし」
「あ? なに?」
今度は肌着を絞りながら。
「大河もしかして気づいてない? ボクは人間についてそこまで詳しいわけじゃないけど、キミの見た目はどう見ても子供だよ?」
「いやいや、俺34歳よ? たしかに多少若く見られることはあるし、職場の女の子とかからも、
『山内さん、まだ20代かと思ってましたぁ~』とか言われるけども」
「いやいや、言ってる意味が違う。若く見えるんじゃなくて、実際に今人間でいう子供なんだよ、キミ」
「はぁ?」
大河は思わず服を乾かす動作を忘れてルーニーに向き直った。ルーニーはシャキーン!といったようなポーズで答える。
「わかりやすくいうとこうだ。
『見た目は子供、頭脳は大人!』」
「真実はいつもひとつ! ってやかましいわ!!!」
「ある日幼馴染で同級生のツノの生えた女の子と遊園地に遊びに行って、
黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃した、りしなかったかい?」
「声真似すんな!」
なんだかまたしても小愉快な精霊とのやり取りを交わしながら、大河はふとあることを思い出した。
(そういや、腕時計のベルトが緩かったな……)
まさかと思いながら、大河は今度は腰のベルトを緩め、自分のパンツの中をガバッと確認し、ガバっと顔を上げ、思わず絶叫する。
「ジ……」
「じ?」
「ジャングルがねええええええええええ!!!!!!」
密林に大河の声がこだました。
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