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意外とナイーブ

大河とルーニーの挿絵が完成しました!

「33話 初バトル<挿絵あり>」に挿入しております。


めっちゃかわいいので是非見てみてください!!




「あの……大河、ごめん」



 リックがミリーの治療を受けながらポリポリと頭をかいた。大河が人口呼吸について説明したところ、リックは溶解液で赤く腫れた顔を更に赤らめた。自分を救おうと必死だったのに寝込みを襲おうとしたヘンタイさながらに強烈なボディブローをかましてしまったのだ。

 大河はミミズのように這いつくばりながら手をひらひらと振った。



「ああ、いい、いい。知らなきゃ確かに俺は気を失ってる少年の唇を奪おうとしてる変態だよ……。

 ……結局は、何の役にも、立たなかったわけだし……。」



 大河は俯き、自嘲気味に笑う。冗談めかして言ってはいるが、何の役にも立たない自分への無力感が大河を襲っていた。

 周りにいるリックやライルも大河の様子を見て、視線を交わしあった。



(大河、なんかあったのか?)


(いや、わからないんですよ……)



 微妙な空気を察知した大河は、わざと明るく振る舞った。ミリーの魔術の光に包まれ治療を受けているリックに貼り付いたような笑顔を作ってみせる。



「それより無事で良かった。肝が冷えるってこういうこと言うんだと思ったよ」


「タイガ様、顔真っ青でしたから」



 ライルが清潔な布を動かしながら微笑んだ。今は桶に溜めたお湯で、リックの身体に付着した落とし切れていない溶解液を拭き取っているところだ。

 リックは照れ臭そうにそっぽを向いた。



「そ、それより魔族はどうなった? あのキモい魔族と戦ってたらいきなり別の奴に不意打ちくらって気ぃ失って……」



 大河は体勢を整え、その場に胡座をかいて俯いた。忘れていた訳ではない。今も街の至る所で爆発音や悲鳴が響いていた。大河が重い口を開く。



「……上ではウォードが女の魔族と戦ってる。エルナはリックと戦ってた、水死体みたいな魔族に吹っ飛ばされて……」


「エルナ様が……」



 ライルが心配そうに口をキュッと結んだ。

 あれからエルナはどうしただろうか。ウォードは平気だと言っていたけど、壁や天井を発泡スチロールか何かみたいに素手で軽々と破壊する魔族と戦うことなんて、可能なのだろうか。早く助けに行ったほうがいいのではないか。でも、リックの治療を放ってもおけない。かといって自分一人では、到底役に立てそうもなかった。

 心配と不安で押し黙る大河を横目に、リックの治療を続けていたミリーが口を開いた。



「エルナ様なら平気よ」



 ミリーは片目を閉じ、余裕のある表情で大河に告げる。



「エルナ様は相手の力を見誤らない。あの方が戦えると判断しているということは、勝つ未来が視えてるってことよ。余計な心配いらないの。

 ウォード様だってそれを解っているから、エルナ様に魔族の相手を任せているの。

 それに……」


「それに?」



 大河がミリーに問いを返した。それはきっと、ミリーにとっては言うまでもないことであったが、大河はそのことを知らないのだ。

 ミリーが口元に笑みを浮かべて言葉を続けた。



「エルナ様は強いわ。私とグリスを同時に相手取ったとしても勝てると思うわ。まあ、私は治癒術以外は補助が主体だから当然だけど、グリスなんかアホ筋肉の割になかなかやるのよ?」


「アホ筋肉、みんなにその呼び名浸透させようとしてるっすね……」



 調理場の奥からグリスがボヤきながら姿を現わした。鍛えられた身体には、水浴び用の大きな木のたらいを抱えている。新たにお湯を入れてきてもらったのだ。

 グリスが歩くたびに宿の古い木の床がギシリと軋んだ。グリスが白い歯をこぼしながら微笑む。



「まぁミリーの言ってることは間違ってないっすよ。ひいき目抜きにして、エルナ様は俺たちより強いっす。ウォード様にはさすがに勝てないと思うっすけどね。

 ……んで、ルーニーはあれ、どうしたんすか?」



 ルーニーは大河と少し距離を置き、今は端に寄せられている木のテーブルの上で小さくなって寝ていた。尻尾をぱたぱたとはためかせ、耳をピクピクさせているから恐らく狸寝入りだろう。猫のくせに。



「……猫じゃないもん、精霊だもん」


「……ルーニー。お前、また俺の心読んだな?」



 大河がジト目でルーニーを見やる。ルーニーはバレないようにチラと目を大河に向けるが、大河もルーニーを見ていたため目が合ってしまう。ルーニーは慌てて顔を伏せた。

 大河がはぁっと大きく息をついた。



「なあルーニー、いつまでへそ曲げてんだよぉ。なんかキツイ言い方しちゃったのは悪かったって。いつまですねてんだよぉ」



 そう、先ほどリックの魔力反応が女魔族の結界に閉じ込められたせいで感知できなくなった際、リックがやられてしまったと勘違いした大河はルーニーに食って掛かり、無意識に強い口調になってしまった。どうやらその時の大河の言い方に落ち込んでいるらしく、若干スネているのだ。



「だって大河すごい怒ってたんだもん……」


「ごめんて。あの時は……リックがやられたのかもって、ちょっと焦ってて。」



 大河は顔に手を当ててリックをチラリと見た。リックと目が合う。リックは顔を真っ赤にして慌てて顔を背けてしまった。

 大河は続けて、ルーニーの機嫌を取るべくあからさまに褒めはじめた。



「あの女魔族の繭の中からリックを助けられたのはルーニーがいたからだ。なっ!? リック!!」


「うええ!? いや俺気ぃ失ってたからわから」



 大河が慌てて指を口にあててリックの話を遮った。



(リック! 話合わせてくれ! ルーニーいじけてんだよなんか!!)



 リックは目を丸くするが、いじけて尻尾をパタパタしているルーニーを見遣ると、諦めたように笑い、話をあわせはじめてくれた。



「そうだな。魔族に捕まった俺を助けるなんて、ルーニーくらいじゃなきゃできねーな。

 油断した俺のミスをカバーしてくれてありがとな、ルーニー」


「……別に、普通のことしただけだもん」



 ルーニーの耳がピンと立ち、ピクピクと動いている。先ほどまでは小さく机を叩くように上下させていた尻尾も、今は横にもふもふと大きく動いている。どうやら機嫌も直った様子だ。

 リックと大河は顔を見合わせ、苦笑いした。



(やれやれ、大精霊様もなかなか気難しいもんだな)


(だな)



 するとそこへ宿の客である女性がグリスに声をかけてきた。足を怪我したらしく、少し引きずりながら歩いてくる。



「あのう……、貴方はファリアス様の私兵なのですよね?」



 見た目は三十代後半といったところだろうか。亜麻色の髪をした中流階級の女性が、グリスに恐る恐る話しかけている。



「そうっすけど、何かあったすか?」



 グリスの返事を聞いた女性は、後ろを振り返り、同じく足を怪我した様子の男性と視線を合わせると、小さく頷いた。



「あの! こんなことをお願いできる状況じゃないのはわかっているのですが……!

 二人の子供を教会に預けてきているのです。今日は大地の神グラウクス様の降臨祭が教会で催されておりましたので。

 先ほどの揺れで私たちは足を怪我してしまいました。教会には警護の兵もおりますし、神官様たちは治癒魔術の使い手。無事だとは思うのですが……心配で。

 もし他の魔族が教会を襲っていたら……!!」



 女性は涙を堪えるように話しはじめた。周りの人々もそれぞれ家族がいるのだろう。不安そうな面持ちでこちらを見つめていた。

 グリスが困ったように頭をかく。



「様子を見に行ってあげたいのは山々なんすけど……この場も守らなきゃいけないんす……。それに、俺がエルナ様やウォード様を置いてこの場を離れる訳には……」



 女性はグリスの言葉に泣き崩れてしまう。



「ああ……! まさか魔族に街を襲われるなんて……! あの子達に何かあったら私……!」


「俺が行く!」



 女性が振り向くと、黒髪の少年、大河が必死に手をあげていた。






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