凡人だって魔法が使いたい!
「じ、じげん……?」
……なんかゲームなら最終局面に入って究極魔法とかで登場する言葉が突然出てきたため
大河はひどく混乱してしまう。目は所さんのように点になってしまっている。
「ル……ル●ンの相棒的な……」
「それは次元が違うね」
「じゃあほら、現場で起きている……」
「それは事件」
「石炭とか石油とかをつかさど……」
「それは資源」
「はだしの……」
「ゲン」
「なんでそんな地球の、ってか日本の文化に詳しいんだよ!」
「ふふ、それはね……寝てる間にキミの記憶を勝手に見させてもらったからだよ! いやはや、こちらの世界にも娯楽はなくはないけどね、チキュウみたいな文化はない。卓越した誇るべき文化だよ」
キラキラしながら大袈裟に手を広げ、クルクル回りながらルーニーが言う。
「きっ……記憶!?」
「ああそうだよ、契約の対価として、ボクはキミの記憶領域にアクセスさせてもらった。
事後承諾ですまないね」
「きっききき……記憶って……?」
泡を食ったように口をパクパクさせ、頭に見られては恥ずかしいあんな記憶やこんな記憶やらを思い浮かべ、絶望の海へ堕ちる。はわわわわ。
PCのハードディスクに保存されているアレとかソレとか……そういや地球ではどうなってんだ……。出来れば爆発しててくれ……なんてことを願う。
「いやいや、さすがにプライベートなことまでは興味ないよ。ただ、こちらの世界にはないモノや発想を攫っただけさ」
「うぅ……一体どんな……」
乱暴された女性のようによよよ、と泣く大河を尻目に、あたかも記憶を反芻するように、遠い目をしながら物憂げにルーニーが呟く。
「3年間バスケを頑張ってきた男を侮っちゃいけないね……」
「ス●ダンじゃねーか! しかもシーンが若干渋いよ!!! だから最初からやたらこっちの話に詳しい訳だ……」
「うん、契約するまでは表層記憶しか読めなかったけどね。 今はホラ、この通り。まだ他の漫画の続き読んでるからしばらくはこれで楽しめます」
そういうとルーニーはどこから取り出したのか、バガ●ンドの4巻を取り出す。
(俺の記憶から漫画を再現して取り出したってことか? てか楽しめます。じゃねーよ!)
「あ、そうすか……それは、なにより。じゃあ契約ってのは俺の記憶を対価にして、ルーニーを使役できるようになったってこと?」
「まあ、使役ってほどではないね。ボクはその対価にキミにマナをあげたり、コントロールを手伝ったりできるよ。本契約に移ればボクの権能の一部を使うことも可能だし」
「おおーいいじゃんいいじゃん! まあ多少恥ずかしい気もするけど記憶をチラッと見るくらいなら全然へーき! 漫画も結構読んでるしな!」
「まあ、契約の時にボクの存在を受け容れるだけのキャパシティが大河になかったら、頭と内臓が破裂して死んでたかもしれないけどね。無事でよか」
「オイいいい!! そんな危険あったのかよ!!!!
先言えよ!!!! 言って!?!? 頼むから!!!!」
恐ろしいことを聞かされ、泣きながら叫ぶ大河の声が、真夜中の樹海に響き渡った。
◇◇◇◇
「ルーニーと契約してその力を使えるってことはさ、俺も魔法使えたり、『次元』をこう、操ったりできるの?」
多少ワクワクしながら、いや、むしろ心の中では小躍りする寸前であったかもしれない。大河は期待を込めてそう言った。
「まず魔法に関しては、きちんと勉強すれば使えると思うよ。 曲がりなりにもボクを受け容れるだけのキャパシティがあるってことだし」
「それ、普通は受け容れられないって言う風に聞こえるんですけど……」
「まあ普通は身体中の穴という穴から血が噴き出るだろうね」
「軽く言うけどそれヤバいからね!?」
「いやいや、キミなら平気だと思ったからボクも持ちかけたんだよ? 『次元』の力に関しては……ウーン少なくとも仮契約のままじゃまともに行使できないかな。アレ、ボクが使ってもかなりマナ効率悪いし、扱いも難しい。使い勝手が悪いんだよね」
「なんかラスボスの使う能力チックだもんな。 次元って」
大河の寒々しいイメージはF●5のラスボスが宇宙の法則を乱したアレや、幽遊●書で桑原が出したあの剣だったりするが、どれも物語の佳境以降であったように思われた。
「例えば君のイメージにあわせて『次元刀!』とか言ってやろうとしたとしよう。ショートソードくらいの長さの異次元を1秒顕現させたら、まあ大河は歯磨き粉のチューブみたいな勢いで内臓をお尻の穴と口から噴出することになる」
「なんでそうなるの!?」
スプラッタの中でも微妙にコミカルな表現を交えてくるためわかりにくいが、想像するに悲惨すぎる。
涙目の大河を尻目に、ルーニーは講義を続けた。
「そもそも『次元』の権能って言ってもボクが行使できるのはほんのささやかなものだしね。いくつかのレイヤーのウォッチャー、ってとこかな。キミたちには知覚できないような空間を見守る、その程度だよ」
「よくわからんが……その、漫画を出してるのは『次元』の力なのか?」
「そうだよ! 大河の純粋記憶領域にある漫画そのものを取り出そうとしたら大河が100人破裂しても足りないけど、その中にあるイメージを大河の領域から僕の領域に渡してもらって仮想的にこちらに再現するくらいなら、ね」
なんかまた怖いこと言ってるこの精霊……。
多少げんなりしながら大河の最大の関心について、訊いてみる。
「えっとさ、今更なんだけど、ここって魔法がある世界なんだよな? 魔法の勉強って何をすればいいんだ? 俺も使いたいんだが」
「ヒトがどう勉強してるかはボクも知らない。けど、結構優秀な魔術師もいるみたいだよ? 魔術が使えるヒトに教えてもらうのが早いかな。ボクはそもそも生まれた時から魔法使えるし」
ルーニーはそういってふよっと大河の膝に降りた。撫でさせてやんよ、ということだろうか。
「知らないのか……」
「権能を行使しない魔術は、あまり得意ではないけどね。というより、使おうと思うこともそんなにないけど。 ヒトと話すことも滅多にあるもんじゃないし」
耳の付け根を強めにかいてあげるとルーニーは気持ちよさそうに目を細めた。猫やんけ。
「ふむふむ。空中にぷかぷか浮いてるのは魔法?」
「ウーン、大河からしてみれば魔法といえば魔法、かな。ボクの場合は詠唱なんかも必要としないし、マナ消費もほぼないから特性みたいなもんだけど。同じことを大河がやろうとしたら」
「破裂は嫌だ破裂は嫌だ破裂は嫌だ」
大河はまたも泣き、ルーニーは『ちょーうけるー』とか言っている。
「イヤイヤ、破裂はしないよー。こっちの世界では空中浮遊はある程度の魔術士なら使えるし」
「空、飛べるのか…!」
大河の目が輝いた。空を飛ぶのにはやっぱり箒とか使うのだろうか。思わずテンションが上がってしまう。
ルーニー曰く、魔術を使うにはその現象が起きるための原理と、マナを現象に変換するための『鍵』、ふたつへの理解が必要らしい。
この世界における魔術とは、自然現象そのものや超常的な力、現象をマナを使用して世界に強制的に顕現させる、という類のものだ。
普通は詠唱や儀式、特定の所作や道具などを『鍵』にし、マナをエネルギーに変換し一定の指向性を持った現象をそれが存在する世界から『取り出す』のだそうだ。
ちなみに魔法と魔術はある程度区別されており、ルーニーのような「特性に近い超常的な能力の行使」が魔法的なもののようだ。
「簡単な魔術くらいなら、ボクが代替詠唱してマナコントロールの手助けすれば使えると思うよ」
「使いたい!!! です!!!」
食い気味に大河がルーニーに詰め寄る。
ルーニーは苦笑いしながら、
「じゃあ……そうだなあ、ボクが合図したら『灯りよ!』って唱えてみて。指先に小さい光る球が辺りを少し照らす、くらいのイメージをしておいて」
「おっけー!」
ふんすふんすと張り切る大河。
おっしゃ!と気合を入れ、人差し指を前に突き出し、ムムムとイメージを固めながらルーニーの合図を待つ。
(なんかこう、あれだろ深呼吸しながら……血流がこう、指先に集まる感じだろ、きっと!)
途端、身体の中の血が全部逆に回ったような感覚に陥る。
エレベーターが50階から1階まで一気に下ったらこんな感覚になるかもしれない。
(うおお、なんか、なんか気持ち悪い!)
何となく血とは違う何かが指先に集まってる気がする。
すると、足元に白く光る魔法陣が現れた。うお、と大河が驚くと、ルーニーが目配せと可愛らしい肉球で合図を送る。
大河はすっと息を吸い、呪文を唱える。
『灯りよ!』
その『鍵』となる言葉と共に、大河の人差し指の先に光球が生まれる。
「うおっ、まぶしっ!」
光球は辺りを数秒ほど照らし、フッと消えた。
大河は呆然としていたが、やがて沸々と内側から喜びの感情が芽生えてきた。
「魔法……できた……!
すげえ……すっげえ! うわあ俺……、生きてて良かった……」
感涙、というものだろうか。
『マナ』なるものの存在も感じたし、かつて少年時代妄想していたような魔法を、
ルーニーの手助けがあってこそとはいえ、自身が行使できたことに大河はいたく感動していた。
感涙に咽ぶ大河の言葉にルーニーは首を傾げ、かわいらしい声を紡ぐ。
「あ、ゴメン言い忘れてたけど、多分大河元の世界で死んでるよ?」
その言葉で時が止まったように感じたのは、どうやら魔法ではなかったらしい。
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