クスリダメ、ゼッタイ
感想などありましたら……うれしいでし(´;ω;`)
「あの、大丈夫か? 少年。なぜ泣いているんだ?」
見目麗しいエルフがガッツポーズのまま泣いている大河に問いかけた。微妙にオロオロしている。
だが大河の反応はない。ただのしかばねのようだ!
目の前にはあのエルフがいるのだ。特徴的な耳と美貌は、こうなると有名なブランドのロゴマークの様なものだった。
(あ、握手とか求めたら変だろうか! あれだよな、エルフってこう、人間と皮膚で接触するの嫌うみたいなのあるかも!? サインしてもらうか!?
うわー写メ撮ってインスタあげてええええええ! 『エルフマジインスタ映え〜』みたいな感じでバズること間違いない!)
妄想中の大河の頭をリックがぺしんと叩いた。
「何やってんだお前は」
「ハッ! 俺は今何を。ココハドコワタシハダレ?」
「うっせー。さっさとクエスト達成報告してこい馬鹿!」
「何怒ってんだよリック! いてっ蹴るな! すみませんエルフのおねーさん!」
リックにお尻を蹴られながら大河は前に出る。眼前には先程まで書類にサインをしていた法衣の女性が大河たちの元へ来ていた。
ウサミミ少女の横でエルフの美女は半分呆れながら法衣の女性に謝罪した。
「にゃんこ~~♪」
「すまないターニア様。また騒ぎを起こしてしまった」
「問題ないわ。私たちどうしたって目立つみたいだし。でもネクト、猫はそこの冒険者さんに返してあげなきゃ」
エルフの剣士とウサミミの少女にターニア様と呼ばれた青髪の女性がくすりと笑った。どうやらこの人が王女様らしい。
エルフのお姉様に気を取られていたが、この人はどちらかというと可愛らしい。王女と言う割には修道女の様な質素な身なりをしていたが、エルナと同様高貴な人のオーラが出ている気がした。
「かわいい冒険者さん、申し訳ありません。すぐに猫ちゃんはお返ししますから」
「え~~やだやだ私このにゃんこ飼うもん!」
「だから猫じゃないってば!」
ルーニーはそう言うとウサミミ少女ネクトの手をスルッと抜け、ターニアの肩に飛び乗った。
「あーんにゃんこ~~」
「あら、精霊様でしたのね。……たしかに凄い力を感じます。これは大変失礼なことを。」
「おいおいこらこらルーニー! お姫様の肩に乗るなんておまっ! なんてことを!」
「王女様! 申し訳ございません!」
焦る大河の横にミリーとグリス、ライルが出て膝をつき頭を下げた。つられて大河も同じ様にする。
「あら、やめてこんな所で。ホラ、立って立って。私はまだ神の元で修行している身ですので儀礼など構わないのですよ。ねえ、ランジェ?」
「そう……姫様とても気さく。堅苦しいのキライな人。楽にすればいい。こうやって寝てても平気。ご飯の時間になったら起こぐー」
先程から眠そうにあくびをしていた猫のような獣人の女の子はそう言うと目を閉じていびきをかき始めた。エルフの女性が全く、と言う様に顔を振る。ターニアは笑顔で大河たちに告げる。
「まあそういうこと。気にしないでくださいね! 私はターニア・オルティス。キロフから来ています。この方たちは護衛をお願いしているパーティ『蒼き風』のみんなです」
「私はリーダーのガリア。迷惑をかけたな。あっちの寝坊助がランジュ、虎人だ。で、この子はネクト」
「にゃんこ~~、こっちおいで」
「だから猫じゃないってば! ボクはルーニー! 大精霊だいっ!」
ルーニーはシュタッと空を駆け、大河の頭の後ろに回り込んだ。あはは、と大河は愛想笑いを浮かべる。ルーニーは珍しくシャー!気味だ。
「あ、俺……じゃなくて私はタイガ・ヤマウチと申します。駆け出しの冒険者で、ルーニーの契約者です」
「あら、精霊術師なのね。こんな格の高い精霊と契約なんてすごい! あと、そんな堅苦しい言葉遣いやめてほしいな。こう見えて私も冒険者登録してるのよ?」
「おっお姫様が冒険者!?」
「A級パーティってのはターニア様も含めてなのですか?」
驚く大河を横目にミリーがターニアに尋ねた。
「残念ながら私は父にパーティを組むのを禁じられてるの。A級パーティはこの3人よ。すっごく強いんだから!」
「ターニア様もかなりお強いんですよ」
ほえー、と間抜けな顔をする大河。実際王女の移動という割にこれだけで大丈夫なのだろうかとも思うが、余程なのだろうか。
「ルーニー……名前もかわいい……喋るにゃんこ……欲しい」
「ネクト、ルーニー様は大河様と契約している精霊様よ」
ターニアが諌めてもネクトは子供のように駄々を捏ねた。こんな感じでええんか王族との絡みって……。
「じゃあもっとルーニーと遊びたい〜! ほらルーニー! こっちきたらコレあげるよ?」
そういってネクトは小さなバッグから、茶色の小瓶を取り出し、不敵な笑みを浮かべる。
ルーニーが驚愕の表情を浮かべた。
「そ、それはまさか……! あの伝説の……!!」
「な、なんだ……!?」
ルーニーはわなわなと震えていた。こんなルーニーは見たことがない。A級冒険者の持つ秘宝か何かだろうか。大河はゴクリと息を飲む。
ネクトは小さく嗤い、コルクを取ると、中の粉末を少量、空中に散布した。するとルーニーが風のようなスピードでその粉末の元へと駆けていく。
「ルーニー!?」
「ふふ、ふふふふ……」
ネクトは不敵に笑い続けた。ルーニーは何やら粉末を搔き集める様な仕草を見せた。
尋常ではないルーニーの様子にリックは狼狽し、声を上げた。
「ルーニー! その粉はなんだ!? 大事なものなのか!?」
しかしルーニーは耳を貸さない。まるでリックの声が聞こえていないかの様だった。ミリーやライルもルーニーの様子を見て、動揺を隠せない。
「こんな……こんなのルーニーらしくない。きっといつものルーニーならここは粉を肉球で少量取ったあと 『ペロリ。これは青酸カリ!?』 とか 『おれは精霊をやめるぞ!大河ーーッ!!』 とかやってくれた筈なんだ……! そうだろ、ルーニー……!? なあ、返事しろよ……ルーニーィッッ!!」
ルーニーは大河の悲痛な叫びも気に留めず、一心不乱に粉が落ちた床を舐め、そこに匂いを擦り付ける様にゴロンゴロンと転がりだした。涎を垂らし、必死の形相で舐めては床が親の仇かのようにごろりんごろりんと転がっている。
大河はその光景をかつて見たことがあった。
まさか、これは。この光景は――
ネクトが恍惚の表情で呟いた。
「マタタビとにゃんこはやっぱり相性抜群なの〜」
(ですよねー)
ルーニーが大河たちのほうを振り向く。完全に目が回り盛大にご機嫌な顔になっていた。
完全に大河が野良猫を手懐けるために駆使していた魔法のアイテム、マタタビの粉だ。まさか精霊にも効くとは。
「に"ゃに"ゃに"ゃっ!? 大河がいっぱいいるにゃ〜〜?? なんでかにゃ〜〜?? で〜も楽しいのら〜〜。ぐーるぐーる回るにゃ〜〜」
神格の大精霊は完全に酔っ払っていた。
床を舐めては突然虚空の何かにシャーをする。何と戦っているのだ、ルーニー。その場にいた者はルーニーとネクトを除き、大精霊の隠された一面を見て、何故か非常に虚しい気持ちになったそうな。
「クスリ、ダメ。絶対。」
大河は親友の新たな一面を発見してしまったのだった。
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