A級冒険者
「うええ……クッソ疲れた……ミリー、疲労を癒す魔術とかないの……」
ホーンラビットの肉を革袋に入れたものを担ぎながら大河がヒィヒィ声をあげた。グリスのスパルタ訓練から解放され、やっと街の門を抜け、大通りに入ったところだ。
「せっかく訓練したのに治癒魔術かけたら身につかないわよ? 強くなりたきゃ我慢しなさい!」
「ぐっはマジか……」
治癒魔術で回復すると筋肉の超回復が起きないのだろうか。便利だけどそうだとしたら確かに訓練の後は自然に任せるほうがいいのかもしれない。ポーションなんかだとどうなんだろうか。
「サ●ヤ人も治癒魔術で回復させたら強くならないのかなルーニー」
「サ●ヤ人の強くなるメカニズムが超回復の極端なものと仮定してだけど、細胞分裂の活性化のような形の治癒なら平気なんじゃないかな。どちらかというと今の治癒魔術の本流はマナで置き換えて魂の記憶を再現する力だから」
「あら、さすが大精霊ね。自然治癒力を強める魔術もなくはないけど身体のバランスを崩しやすくて難しいのよ。気や血が増えすぎて熱を出しちゃったり褥瘡ができちゃったりね」
「ふーん、魔術で物質を置き換えるってことか?」
「まあ大まかにいうとそうね。特に痛みを取り除いたり炎症を和らげたりするときには効果的ね。痛みや炎症のもとになる物質を魔素で置き換えて無害化したうえで、もう治癒したよ~ってサインを身体に送ってあげるとかね。
部位欠損みたいなレベルになるとそれはもう魔術でも置き換え不可能だけど、切り傷くらいなら元の体組織と魔素を疑似的に結合させて置き換えたあと再現することで傷口を治療するわ。
自然治癒力を高める治癒魔術のほうが魔術的には難易度が低いんだけど、使いすぎると治癒魔術が効きにくくなるなんて研究もあるから今はあまり使わないの」
「ほー。なんかわからんけどすげえな」
ルーニーとミリーの解説に大河は素直に感心した。神経系に痛みを伝える物質や信号まで魔術で再現しているということだろうか。細胞分裂の回数は生物によりある程度上限があるという話も聞いたことがある。そうすると部分的には現代の医療概念をも凌駕している。益々自分の活躍なんてできるのか不安になってくる。
横ではリックとライルが串焼きの匂いにつられている。グリスが大人らしくそれを窘めた。
「ほれほれ、今串焼きなんか食ったら夜食えなくなっちゃうっすよ! 今日はホーンラビットの肉でお祝いっすから!」
「お祝い? なんの?」
グリスの言葉にリックがきょとんとする。グリスは不敵な笑みを浮かべた。
「ふふ、それは帰ったらわかるっすよ。さ、早くギルドでクエスト達成の報告するっす! クエストは報告するまでがクエストっすよ!!」
「もう疲れたよー明日にしようよー」
「ダメっす! 『明日やろうは馬鹿野郎』って言うんすから!」
「たはー」
日本で聞いたことある標語だな、なんて苦笑いしながら大河たちは冒険者ギルドに向かった。
◇◇◇◇
冒険者ギルドの前に着くと、何やら人集りが出来ていた。
「ん?なんだこの人集り」
「なんか位の高い人が来てるみてーだな。ホラ、あの紋章」
リックは目で馬車を示す。黒いキャリッジには鷹のような生き物の紋章が拵えられている。
「鳥か? アレ」
「あれは鷲獅子よ。西海岸の小国、キロフの……王族かしら」
「王族? そんな人らがウロウロするようなとこなのか?」
「どこかに行く途中なのかしらね。と言ってもここから先何処かに行くとしたらアリファルド王国か帝国くらいだけど」
「とりあえず中入ってみるっすか」
人混みをかき分け、大河たちは冒険者ギルドの中に入っていった。
◇◇◇◇
ギルドの中は独特の雰囲気に包まれていた。一般人はさすがに立ち入ってこないが、冒険者たちは物見遊山でカウンターのほうを眺めている。
大河は見物していた冒険者に話しかけてみた。
「なんかあったのかい?」
「ん? いやな、今A級パーティとキロフの第3王女が来てるんだ。クエストの経過報告らしいぜ」
「A級パーティに、王女!」
A級以上のパーティは基本的に大都市を拠点としている。カートルは規模的には中程度の街であるため、A級以上のパーティは常駐していない。
初のA級パーティとの遭遇に大河の野次馬魂が目覚めた。ファンタジーの匂いがする!
どうやら今白亜のカウンターで何やら書類に目を通している人々が件のパーティらしい。剣士風の女性が受付嬢と共に書類の説明をしているらしく、法衣の様なものを着ている青い髪の女性がこくこくと頷いている。あれが王女だろうか。
その後ろでは獣人らしく猫のような耳の小さな女の子が暇そうにあくびをしており、その横には兎の耳を帽子から覗かせる少女が座布団のようなものの上でぷかぷかと浮かんでいた。
大河はいかにもクエスト達成報告だけが目的であるような雰囲気でしれーっと人垣の前に出た。兎の耳をした女の子はとろんと眠そうな目をしていたが、こちらに気が付くと急に目をらんらんと光らせ、魔法のじゅうたんよろしく座布団に乗って文字通り飛んできた。
「かわいいにゃんこーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「んがぁ!」
ウサミミの女の子はそのまま大河をぶっ飛ばし、頭の上に乗っていたルーニーを抱きしめた。大河には構わず愛で始める。
「にゃんこ♪ にゃんこ♪」
「あのー、ボク猫じゃないんだケド……」
幸せそうにほくほくと頬ずりをするウサミミの女の子に向かってルーニーは申し訳なさそうにそういった。ルーニーの言葉を聞き、ウサミミの女の子はより目を輝かせる。
「あなたお喋りできるの!? すっごーーーい!!」
「ちょいとお嬢さん……ボクに何か言うことはないかね……?」
さらにルーニーに頬ずりをする兎の少女に、吹っ飛ばされた大河がよろよろと近づいた。ルーニーは遠い目をしている。
「あ、キミがこのにゃんこの元飼い主? こんなかわいい子くれてありがとう!!」
「んー? この世界の所有権は相手方をぶっ飛ばすと移転するのかな」
いつの間にかルーニーを自分のものにしている。全く話の通じない少女相手に大河はうろたえた。リックたちは少女のあまりの勢いにぽかんと口を開けてしまっている。
「なあグリス。A級パーティって……アホさがA級ってことじゃねえよな」
「たぶん違うと思うっす……たぶん」
そこへ、先ほど書類について話をしていた髪の長い剣士風の女性が近寄ってくる。今度は大河の目が光る!
(あの耳……! まさか……!!)
「こらこらネクト。人の飼い猫を勝手に自分のものにしちゃダメだろう」
青い眼に金色の長い髪を棚引かせ、緑色のマントを羽織った細身の身体にはレイピアらしき細身の剣が履かれている。女性はウサミミの少女の頭をポンと撫で大河のほうをみた。
そして大河のテンションはナイアガラの滝を逆さまにしたかのように噴き上げた。
(え、え、え、え、え)
「すまないね、連れが迷惑をかけた。この子はかわいい生き物に目がなくてね」
涼やかな目元に高い鼻。優しい笑みを浮かべ、白い肌とブロンドヘアーの間から尖った耳を覗かせる。森の風が吹いたように爽やかなオーラを纏うこの美しい女性は。
これは、あのファンタジーの代名詞。
(エルフキターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
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