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初バトル<挿絵あり>

大河&ルーニー


挿絵(By みてみん)


挿絵: 四足様 @yotuasipiyo


「のわぁ!!」


「相手が突っ込んで来た時が反撃のチャンスっすよ! ホラ!」


「わぁってるよ!!」



 太陽が頂点から下がり始めたその頃、大河は草原でホーンラビットと死闘を繰り広げていた。グリスに剣の扱いを習っていた時にリックが発見してくれたのだ。

 ウサギといえば臆病ですぐ逃げるのではと思っていた大河だったが、ホーンラビットは大河の姿を視認すると積極的に排除しようと向かって来た。獰猛な獣の眼を向けられ大河はすっかり怯えてしまっていたが、何度か攻撃を避けているうちに恐怖心は薄れていた。

 ルーニーは少し離れたところでライルと肩を組み、ラインダンスの様なものを踊っていた。



「頑張れ〜、そ〜れハッスルハッスル! さぁ、リックも!」


「えぇ!? 俺もか!?」


「ハッスルですタイガ様ー!!」


「何してんだテメーらは!!」



 少し離れた丘から声援を飛ばすルーニーたちに思わず大河はツッコミを入れた。リックも恥ずかしげにダンスを踊る寸前だった。断れない男かおまいは。

 グリスが叫ぶ。



「よそ見しちゃダメっす!」


「わかって……るよ!!」



 よそ見していた大河を見て、好機とみたホーンラビットが角を向け突進して来る。それを大河は呼び込み、かわし際に斬り伏せた。



「でやっ!!」



 大河は剣でホーンラビットを薙ぎ払う。大河を通り越した振り向きざまにホーンラビットに斬撃をくらわせる。

 ホーンラビットは小さくキィッ、と鳴き、そのまま動かなくなった。ホーンラビットの下に血が広がっていくのが見える。



「やった……、のか?」



 丸っきりまだ終わってない様な、あと二段階くらい変身を残しているかのようなフラグ台詞を吐き、ゼェゼェと肩で息をする大河のもとへみんなが駆け寄ってきた。



「やるじゃないタイガ!」


「うむ、よそ見したときはバカかと思ったっすけど、ワザとだったんすね!」



バカとはなんだ、と返してやりたい大河だったが、戦いの疲れでそれに及ばない。大河はそのまま座り込んでしまう。



「ひぃ〜〜これ……きつい! つか体当たりされたとこ痛ってえ!」


「どうだった、ボクたちのハッスルダンスは。回復したかい?」


「するかい!!」


「おかしいな。全体で70前後回復する筈なんだケド……」


「まず70ってなんだ。何がどうなると70回復ってことになるんだ」



 ミリー、グリスは褒めてくれたが避けるのに必死でかなり疲れてしまった。ホーンラビットは成犬ほどの大きさの割にかなり素早く、ちょっとした大砲が迫って来るかの様な迫力があった。幸い角での攻撃は紙一重で回避できたため深手は負わなかったが、体当たりを一度まともに受け、今も足が痛む。その上かなりの体力を消耗していた。

 ミリーが大河の打撲した部分に手を当て、トントンと軽く叩いた。大河がいぎっとうめき声をあげる。



「イッテテ……!」


「ん、単なる打身ね。骨に異常なし。一応治癒魔術かけてあげるけど、これくらいなら戦い続けるんだからね普通!」



 そう言ってミリーは治癒魔術を足にかけてくれる。ほわっと暖かい光が痛んだ箇所を包み、それまでズキズキと痛みを訴えていたものは、少し経つと砂糖に湯をかけたかのように溶けて消えた。

 ミリーが微笑みながらパン、と患部を叩く。



「ハイ、これでオッケー。油断しちゃダメよ!」


「おお……すっげえな治癒魔術。でもあれだな、ヒール!とかそういうのないんだな」


「ん、『鍵』となる言葉のこと? 一応詠唱の時に指定してるんだけど、治癒魔術は種類が多いから大体数字で使う魔術を指定するのよ。『患部に3番、終わったら大動脈に5番』とかね。それぞれで例えば皮下組織の炎症を抑えたり、血流を少し通りやすくしたり抑えたりとか、色々ね」


「うおお……めちゃくちゃ難しそう……」


「ふふ、でしょ? もっと褒めなさい!」


「よっ! 天才美少女治癒術師! 白衣の天使! 異世界のナイチンゲール!」


「うふふ、もうもう!」



 適当にミリーを煽てているとリックとライルが大河を呼んでいるようだった。



「おーい、これ早く血抜きしねーと臭くなるぞ!」


「タイガ様! 解体しないんですかー?」



 大河は日本にいたころ屠殺すら見たことがなかったが、命を奪うということはこういうことだと、きちんと理解しておく必要があると考えていた。解体は自分でやると予め伝えておいたのだ。



「ああ今行く。リック、解体のやり方教えてくれー」



◇◇◇◇



 リックにやり方を教えて貰い、ホーンラビットを解体した大河は、今は近くの小川で手を洗っていた。



「はぁ〜しんど……。解体っても体力使うなぁ。でもあのまま持って帰るのも大変だしなぁ。ウサギならまだしもだけど」



 リックは金がないときは自分で獲物を狩って食べることもあったそうで、的確に捌き方を教えてくれたが、慣れない内臓と血の感触と臭いに大河はかなり苦戦をした。ちなみに魔石は赤紫といった色だった。綺麗だったが、少し不気味な気がしたのは死体自体に対するある種のネガティブなイメージがあるかもしれない、と大河は結論付けた。

 ただ、思っていた程の忌避感はなく、少しばかり心の中で安堵した。流石に血抜きで首を落とす時や腸を引きずり出す事には強い抵抗を覚えたが、それが自然の理だ。地球にいた頃は好き好んで見ようとは思わなかったし、興味さえ持たなければ一生見なくて済む様なことだったのに。

 解体せずに冒険者ギルドに引き渡してもいいらしいが、肉の味が悪くなることと、あとは一種の義務感のようなものが大河の中にあったため、その場で捌いていくことを決心した。



(まあ、あとはゴブリンみたいな亜人とか……対人がどうか、だよなぁ)



 血だらけの手はもう真っさらで綺麗なものであったが、ボーッと手を洗い続けながら思案に耽っていた。思ったほど忌避感は覚えなかったと感じた大河だったが、もしかしたら心のどこかでそういったものを無意識にシャットダウンしているのかもしれない。

 ホーンラビットは瞳孔をまん丸にして、内臓もまだ温かかったが、大河は既にそれを忘れていた。正確には思い出さないようにしていた。人にも動物にもシンパシーを感じ易い性質だった大河にとっては、魔物といえど、肉も頂く前提でも、生命を終わらせるという行為は見えない精神の骨の様なものの、弱い方向へ圧力をかけ続けていた。



「大河ーまだ血落ちないのー?」


「おおうビックリした……! ルーニーか」



 突如頭の上に現れた青い猫に大河は心臓を跳ね上げた。



「ん? どうしたの? ボーッとしてる?」


「んなことないと、思う。……多分」



 大河自身はルーニーに気を遣った訳でも嘘をついた訳でもなかった。ただ、ボーッとしていたことに気づいていなかった。



「大丈夫? ぱふぱふする?」


「しねーよ。それよりモフモフさせろ」


「あ! 今手拭いた!! ボクはハンカチじゃないんだぞ!!」



 へへ、と大河は笑いみんなの待つ場所へ戻ろうとした。もしかしたらルーニーは元気付けに来てくれたのかもしれない。ついでにアイツゲームにも手を出し始めているのかもしれない。



「そういえばルーニーさ、ほら、お決まりのマジックバッグ的なのってないの? アイテムボックス的な。何でも幾らでも入っちゃう様な魔法のバッグ。ルーニー物出すとき変なとこから出すじゃん」


「ああ、四次元ポケットみたいな?」


「言うなソレを」


「いやぁアレ結構謎な造りなんだよね。映画版とかではさ、四次元ポケットに手を突っ込んでアレじゃないコレじゃないとかやるじゃない? 四次元空間に道具を収納するのはいいんだけど、魔法的な目印もなくてどうやって違う位相に存在する物質を探してるんだろ」


「う、そりゃあ不思議道具だからいいんだよ。科学力だ科学力」


「それにさ、の●太がポケットの中に入ったりすることがあるじゃない。四次元空間に人がなんの魔術的補助もなく入ったら人としての形保ってられないよ。もし大河だったら量子重力の影響を受けてパスタみたいにぐにゃぐちゃになってミートソーススパゲッティの出来損ないみたいになるよ?」


「勝手に俺でシュミレートすな。ってかグロいわ」


「あの中に入れてると時間が止まってる設定の物語もあるよね。ヒジョーに興味深いところだ。どうやって魔術的に成立させてるんだろうね?」


「ええいうるさい。精神と時の部屋的なアレなんだよきっと!」



 ふーむ、とルーニーは考え込む。面倒な話になりそうだったので、大河はそそくさとみんなの場所へ戻った。

 小高い丘――というほど盛り上がってもいないが――を越えたところに、皆が集まり何か相談をしている様だった。大河は小走りで駆け寄ってみる。



「あ、タイガ様! 遅かったですね!」


「んールーニーと話してた! で、みんなは集まって何話してんだ?」


「いや、これからどうするかって話っすよ」



 グリスの答えに大河はチラと時計を確認した。もう2時を回っている。季節は冬、もうしばらくすれば陽も傾いてくるだろう。

 ミリーが大河の仕草をみて疑問を浮かべる。



「タイガ、それは?」


「ん、時計だよ。地球にいたころの持ち物なんだ」


「え、それが時計!? ブレスレットかと思ってたわ。見せて見せて!」



 ミリーを始め皆が興味津々で大河の周りに寄って来る。



「うええ……こんな小さい時計あるんすか……!」


「しかもすっごい滑らかに動くわ。それに強いマナを感じる……」


「魔道具屋のばあさんは神の遺物(アーティファクト)になってるって言ってた。元は普通の腕時計なんだけどな」


神の遺物(アーティファクト)!! ンなもん初めて見た……」



 リックが目を丸くして驚いている。ライルは歯車の動きで目をキラキラ輝かせた。うんうん、男はこういうの好きだよな。

 そこへルーニーがふわっと割って入ってきた。



「強いマナを感じてはいたけど神の遺物(アーティファクト)化したのか。やっぱり神様が持ち物を再構築したんだね。

 なんの"加護"だったんだい? それとも神の遺物(アーティファクト)だし、"祝福"レベルだった?」


「いや、魔道具やのばあさんには解読できないっていってた。エルフにでも見てもらえってさ」


「まあ神の遺物(アーティファクト)に付与された魔術なんか簡単に解読できないからね。ボクもそういうのは得意じゃない」



 大河は腕時計を太陽に透かすようにしてみた。大河の眼には地球時代と変わっている様には見えなかった。大体なんでスマホと時計は神の遺物(アーティファクト)になってスーツや鞄はならないんだろうか。



(そういうもんなのか。よくわかんねえな)



 みながざわざわと時計を見ていると、グリスが手を叩き、大きな声をあげる。



「よーし、じゃああとちょっと剣の練習したら街に戻るっすよ! タイガ、今度は対人の型を教えるっす!」


「うえっ、グリス結構スパルタなんだよなあ」


「これでも軍人っすからね! ほれとっとと用意!」


「ううう……」



 大河は若干の疲労感に耐えながら、グリスとの剣の練習を再開した。

 それからしばらく草原に剣戟の音とグリスの指導、そして大河の情けない声が響き渡ったのであった。




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