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黒き行軍と冒険の始まり

レビューありがとうございます。本当に嬉しく、天にも昇る気持ちでした。


大河「俺たちのやりとりを褒めてもらえたらしいぞルーニー。」

ルーニー「やったぜ。」


しかしながら病み上がりでまだ体調がよくないので、しばらくは3日に1度程度の更新頻度になりそうです。よろしくお願いいたします。

 カラシア=ヨーク諸国連合は元々商業で栄えた複数の国が、南のアレーナ女王国、北のユグドラシル、そして東のサーグヴァルト帝国への軍事的脅威に対抗するために徒党を組む形で成立した。

今その連合の、交易の馬車が通るためによく整備された石の道を、東からやってきた軍馬と鳥竜が闊歩する。輜重兵を含めその数は凡そ2000。黒い鎧を着込んだ軍人の群れが東から西へと歩みを進めていた。

 行軍における足並みは一糸たりとも乱れる様子はなく、軍馬も落ち着き払い疲れを一切感じさせない。全体から発せられる物々しい雰囲気は精鋭兵の出で立ちを感じさせる。その物々しい――刺々しいと言ってもいい空気の最も濃い場所に男はいた。



「殿下、夜には目的地に到着致します。遣いをやり、重要人物は退避させるよう告げましょうか?」


「いい、殺せ。」


「しかし……。」



 殿下と呼ばれた黒い髪の男は飢えた黒豹の様な眼で軍師を睨みつけた。軍師の男はこの黒髪の男の味方であるはずだったのだが、獰猛な野獣が目の前で我を襲わんとしているような錯覚に陥る。黒髪の男が怒気を交え軍師に答えた。



「邪魔をする奴は殺せ。二度言わせるな。」


「……承知致しました。」



 この男の前では、それを受け入れるしかないことを軍師ははっきり理解していた。この男は何よりも死を好む。野獣が追い詰めた獲物を喰わずに踵を返し寝床に帰ることがないように、この男が今国へ戻ることはない。この先に居る人々は泣き叫び、逃げ惑うしかないのだ。



「評議会の狸共には顔立てしてやったんだ。許可証がある。奴らの飼う家畜ごとき、どうとでもすればいい。」


「評議員どもは街が襲われるとは毛ほども考えていないかと。」



 評議会が男に出した許可証は、指名手配犯を連合内で彼の持つ軍隊が捜索・逮捕(場合によっては殺害)することを許可するものであった。連合は初め契約の精霊を介して互いが約束の履行に責務を負う――つまり、男の軍が現地での破壊行為や略奪を禁止する双務契約を求めたが、男はそれを拒んだ。

 評議会の一部は賄賂で簡単に立場を翻した。元より連合は寄せ集めであり、一枚岩ではない。行軍予定の地の関係者以外は己の利を優先させる者がいてもさして不自然ではなかった。

 そのことを連合側は後に強く後悔することになるのだが。

 男は軍師に対して強い口調で曲解を押し付ける。



「犯罪者を匿う奴は犯罪者だ、そうだな?」


「相違ございません。」


「街ぐるみで仲良く帝国への反乱を企てる犯罪者を匿っていたとしたら、そいつらも裁かれるべきだ。」


「連合とも事を構えるおつもりですか?」



 軍師の顔に焦りの色が広がる。



「あの商人共が我らと戦争する決断ができる訳がなかろう。カートルは所詮交易都市。それが潰されたとて奴らが飯より好む金が湯水の如く流れゆく戦は許容できまい。」


「此度の行軍は攻城兵器は用意しておりませんが。」


禍ツ星(アリゴール)に先に入らせる。お前は攻城兵器(それ)が必要無いことを知っている。違うか?」



 黒髪の男が言葉に込めた感情は、最早怒気とは言えないモノに変容していた。元より場を支配していた剣呑な雰囲気は、天災が訪れる直前の様な暗澹とした重圧となり、一糸乱れぬ行軍には冷や汗が突き刺さる。



「……申し訳ありません。」


「好い。お前は殺しを嫌う割に、多くを屠る術に長けている。その様な歪つさ(・・・)が俺は嫌いではない。」


「……野営は必要ないでしょうか。」



 黒髪の男は、歪な笑みを浮かべた。軍師が己の言わんとしていることを理解していることを理解していたのだ。



「察知される前に事を済ませる。」


「では、その様に部隊へ伝えます。」


禍ツ星(アリゴール)に先行させろ。逃げて来た奴は全員殺せ。」


「……承知致しました。」



 軍師は恭しく敬礼すると、伝令兵に策を伝え、各部隊長へと伝えさせた。



「さて、『星』とその守護者が少しでも骨のある奴なら好いが。」



 これから訪れるであろう血と涙の泉のことを想い、黒髪の男は口角を吊り上げた。



◇◇◇◇



「な? 赤い目だろうが何も言われなかったろ?」



 冒険者ギルドでリックの登録を済ませ、大通りから街の外へ向かう道で大河は得意げにそう言った。

 事前に受付嬢のナルに赤い眼の少年が来るが変な目で見ないでやって欲しいと密かに伝えておいたのだが、ナルは慣れているとのことで全くの通常営業だった。

 『アカメ』は通常の職に就くのが難しいためか、危険な冒険者などの職に身をやつすことも多いらしく、目にする機会も多いのだとか。大人らしく「根回し」のために先んじて訪れた大河はすっかり肩透かしを食らったが、まあ変な扱いされないのだし問題ないかと気持ちを切り替えた。

 一方、リックは幾分げっそりしている。



「んなことより俺はあの精霊で疲れたよ……。」


「ああ、契約の精霊(ニュルス)か……。」



 リックの言葉に大河はやたらハイテンションだった精霊を思い起こす。たしかにアレの相手は疲れる。



「それにしてもリックは文字も読み書きできるんすね。職も斥候だなんて、やっぱかなりの教育受けてるんすよね〜、あ、別に言いたくなければ深く話さなくていいっすからね?」


「斥候用の魔術は中々習えるものじゃないものね。普通は軍に秘匿されてるし。冒険者も金ヅルだから中々他人に術式を開示しないのよねぇ。」



 グリスとミリーもそれぞれ感想を口にする。

 リックの冒険者登録の職は斥候だ。魔物相手が中心になるため、偵察や諜報に加え、罠の設置・解除や遊撃・撹乱なども担当とする。攻撃用の魔術も幾つか使えるらしい。



「……別に興味あるなら教えてやってもいいけど。」


「えっホント!? 教えて教えて!! アンタなかなかいい男じゃない!!」


「いい男て。」



 ミリーの現金さに苦笑いしつつ、先日買い物をした武具屋へと向かう。



 今は年の瀬にあたるため、至る所にヤドリギが吊るされている。クリスマスのリース飾りのようでなんとなくワクワクしてしまう。屋台でシカの串焼きなどを買って食べあるくと、海外旅行気分だ。そうこうしてるうちに武具屋に到着する。

 リックは遠慮したが、大河が半ば強引に装備を買い揃えた。魔術が付与されているショート・ソードやリックが狩りで使用していた手製の弓も、環境の変化に強くかつ非常に強力な魔導青銀(ミスリル)とドラゴンの髭が使われた物に新調された。リックは大河の金遣いの荒さに若干引いていた。

 買い物を済ませた一行は街をぐるりと囲む外壁へと到着した。ある程度大きな街になると、石造りの大きな壁には破壊槌、投石機や大規模魔術などの対策として魔術による防御が付与されているらしく、このカートルの外壁も交易で栄えただけあってかなり立派だ。

 街の門番をしていた衛兵のおっさんにギルドカードを見せ、大河は初めて街の外に出た。



「うおおすっげえ!! ゲームの平原みてえだ!!」



 これから訪れるであろう冒険の始まりに、大河の胸は高まった。



もし「続きも読みたい」「ここをこうすればいいのに」「とりあえず頑張れ」と思っていただけたら、下の項目からブクマ登録やレビュー、評価、感想を頂けるとモチベーションガンガンあがります。



次への活力になります!



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