リック加入 <挿絵あり>
「俺は、大河の旅についていきたい。」
食事も終わり、皆が水などを飲んで一服、という時に、それまで黙っていたリックが話を切り出した。
大河はかなり驚いたが、ついて行きたいとリックが言ってくれたことが心の底から嬉しく、その場でハッスルダンスを踊りそうになったほどだ。
「これからはもう盗みはしない。約束する。奪った金は……もう使っちゃったけど。
あとこれまで、人を殺したりはしていない。たまに殴ったりすることは、あったけど……その、反省してる。信じてもらえないかもしれないし、だからって許してもらえるとも思ってないけど……。」
罪悪感のためなのか、リックは怒られた子供のような顔をしていた。エルナは話を聞き、瞑目する。
「わかりました、一緒に行きましょう、リック君。」
「……え?」
リックはぽかんと口を開いていた。
「もう悪いことはしないんでしょ? なら付いて来てくれて嬉しいわ。ね、ウォード。」
「その通りでございます。」
「なんで、そんな簡単に信じられるんだ……?」
「私は占星術師ですから。」
エルナは花のような微笑みをリックに向ける。リックは思わず頰を紅潮させる。大河にはイマイチエルナの解答が満足いくものなのかよくわからなかったが、大河も平気だと思っていたしまあそれはいいやと意識から追い出した。
「あ……ありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」
「じゃあこれからはリック君も一緒ですね!やったー!!」
ライルがハイタッチを要求し、リックが少し驚いて時を止め、ふと小さく笑うとタッチを交わした。
「宴か!?」
「ルーニー、まだ朝だから。」
「ちぇっ。」
「それにリックは今日俺と冒険者登録しに行くからな!」
「あ、ボクも行きたーい!」
ライルが手を挙げる。エルナはそれに首肯すると、ライルはぱあっと満面の笑みを浮かべる。リックと大河、近い年の子らと行動できるのが相当嬉しいらしい。それにしても従者ってこんなフリーダムな感じでいいのかオイ。
「私は改めてお母様に連絡を取ってみるわ。商業ギルドのロッシェル盤を試してみようかと思ってるの。」
「では今日は私がお嬢様にお供致しましょう。」
ロッシェル盤は遠隔地との通信用魔道具である。魔術が施された特殊な鏡と羅針盤の様な道具が組み合わされたもので、特定方向のマナの波動を放出・感知する魔道具と声を鏡を通じて遠方へ届ける魔術を併用し、電話の様に使用されている。非常に高価であり、通信可能であるのはロッシェル盤同士でしかないため、商業ギルドの様に規模が大きく何処にでもある場所に設置されていることが多い。
冒険者ギルドにも置かれているケースが多いが、エルナの一族の協力者が商業ギルドにいるらしく、商業ギルドのものを借りるということだ。
「じゃあ俺とミリーがタイガたちの護衛っすね。」
「あ、じゃあさじゃあさグリス! 剣と槍の使い方教えてくれよ! エルナ、簡単なクエストなら行っていいか!? 難易度Gの常設クエストを昨日見繕ってみたんだ。」
そういってみんなに冒険者ギルドの羊皮紙を見せる。
冒険者ギルドのクエストには依頼の達成難易度の目安として、等級が設定してある。大河には頭の中で快適な生活を送る言葉の精霊のおかげでアルファベットで表されている様に読める。最も難しいのがS級、次いでA級、B級と続きG級まで。冒険者ギルドの受付嬢ナルの言うところでは、G級にもなると実質駆け出しためのおつかいクエストみたいなものらしい。
「リコリスの根の採取、ホーンラビットの角の納品、ゴブリンの討伐……。タイガ様は戦いのご経験は?」
「ない。」
「うーん、ではゴブリンはまだ危険ですね。武器を持っている場合がありますから。平気だとは思いますが戦い慣れしてからの方が良いかと。」
「ホーンラビットならまあ角の突進さえ気をつければ死ぬこたない……っすかねえ?」
「でもあいつら結構すばしっこいでしょ? 剣を握ったばかりの素人が捉えられるとは思えないけど。」
「そこはほら、パーティープレイでもあるし、なぁリック?」
「え!?」
突然話を振られるとリックはビックリするらしい。割とボーっとしてることが多いのか逆に話に夢中になりすぎるのか。
正直大河の中ではゴブリンあたりでも人型の魔物は「殺す」ことに忌避感を覚えそうだが、というか兎だって好んで殺すなんてことはしたくないという気もあるが、肝心な時にそれができないようではみんなを危険に晒す可能性もある。何せ大河が自ら殺した経験がある最も大きい生物は恐らくゴキブリだ。
大河は心の中の若干の焦りを打ち消すかの様に明るく努めた。
『星』を守る役目のエルナは大河を危険な目に合わせたくないのか、少し悩んでいるようだ。
「うーん、まあグリスとミリーが付いていれば平気だとは思いますけど……。」
「エルナ様! 僕もいます!」
「ボクももちろん付いてくよ〜。」
「ライルにルーニー様も……。わかりました。いずれにせよ力はつけておいた方が良いでしょう。ただし、くれぐれも油断しないでくださいね。」
エルナは観念したように許可をだす。ライルと大河、ルーニーは手を叩き合って喜んだ。
「よし、今日はうまくいけばウサギ肉っすね。」
「お、ホーンラビットは食える? うまい?」
「私は好きよ。あっさりしててこう、肉!って感じの歯ごたえがいいのよね。」
「ウサギは絞めてから少し日を置いた方がうまいけどな。」
ミリーが肉食系女子丸出し発言を繰り出す。リックは現実的な答えを返したが、肉の熟成なんてのもするものなのかということに大河は少し驚いた。魔物食なんていうと地球ではそれを題材にした漫画なんかも人気だったが、あれは割とその場で食べてたな、なんて思う。まあ肉塊を担いでわざわざダンジョン探索しないか。いや、あの漫画ではしてたかも。
「魔物も食えるんだな。普通の獣に比べて不味いとか臭いとかそういうことはないの?」
「魔物といっても体内に魔石を持つ様になりマナが強化されている以外、普通の動物とそんなに変わりありませんよ。基本凶暴で人を襲いますが、食生によっては普通に美味しいですよ。人を食らう魔物はやはりあまり食べられませんね。教義で禁じられている地域もあります。」
うーむ、魔物とか魔素って一体何なんだ。魔物は繁殖力が強化されるケースも多いらしく、魔物肉を美味しくいただく方法も色々研究されているらしい。
そもそも大河は魔物は獣なんかが魔素の影響で突然変異を起こしたものと聞いていたので、てっきり繁殖はしないのかと思っていたが、今うろついてるような魔物は殆どが繁殖行為で増えたものだと考えられているとのことだ。
(和牛が魔素で魔物に変化したらめっちゃ肉が柔らかい魔物になるんだろうか。)
最終的に大河の思考の行き着く先は果てしなくどうでもいい内容だった。
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