チキュウの話
エルナたちが部屋に戻ると大河は伸びをしながらカバの様な大欠伸をしてしまった。やはり気を張ってしまっていたようだ。折角の風呂でリラックスしたのに勿体ない気がするなと大河は思った。
「ふぁ〜、今日はなんか色々あったな。リックに襲われたりとかな。」
大河は笑いながら暖炉に薪を足し、火かき棒で位置を調整する。リックはベッドで変わらずルーニーをぐりぐりしている。憮然とした表情で大河に文句を言った。
「……なんで大河も、あの姉ちゃんたちも、俺を解放するんだよ。」
「え?」
「寝首をかくことだって、この護符と金目のものだけ持ち逃げして逃げることだってできちゃうじゃんか……。俺がそうするってなんで思わねーんだよ。」
「んー、リックはそうしたい?」
「……。」
リックは扉の入り口でうつむいて返事をしなかった。
たしかに昨日の今日どころではない。今日の今日だ。信用するのには早すぎるだろう。だが、大河はリックといると、何故か地球時代のように気が楽だった。
「……なあリック、俺が『星』だって聞いて、どう思った?」
「どうって……ビックリ、したよ……。」
「うん、俺も驚いた。」
苦笑いしながら大河は部屋にある水差しを木のコップに注ぐ。リックの分も注ぎ、リックに手渡す。ルーニー用の木の皿にも水を注ぐ。
「ありがとうタイガ!」
「……あり、がとう。」
「どういたしまして。」
2人して水をコクリと飲む。ルーニーはペロペロと。
「なぁ、俺の旅にさ、リックもついてこないか? 俺は弱いし、リックみたいに強くて頼れる奴が近くにいたら嬉しいんだ。それに、リックの言う通り俺はこっちじゃまだガキだからさ。近い年の友達が欲しいんだ。」
「……ライルがいるじゃんか。」
「ライルはエルナの従者だからなぁ。ちょっと違う気するし。嫌か?」
「嫌じゃ……ねえけど。」
「楽しいと思うんだけどな。冒険者にもなったからさ、遺跡やダンジョンなんかにも行ったり。リックは冒険者登録してるのか?」
「金がなかったから、してない。」
「そっか、じゃあ明日行くか。」
「俺は盗人だし……、ダメかもしれないよ。」
「顔隠してたじゃん、へーきだろ!」
「こっちの世界には探知魔術とか、過去視の魔術とか、色々あるんだ。……きっと、迷惑かけることになる。」
「そんときゃそんときさ。そういう魔術があるって知ってるってことは対策も立ててたんだろ? ウォードが褒めるくらいだし、へーきへーき。」
「それに俺はアカメだ。……大河たちまで石投げられるぞ。」
「堂々としてりゃいい。お前のその眼はカッコいいって、自信持て。ま、どうにかなるさ。明日は明日の風が吹くってさ。」
「……よくわかんねーよ。」
「なるようになるってことさ。さ、もう寝ようぜ、今日は疲れた。寝小便すんなよ。」
「だっ、誰がするかよ!!」
「よーしおやすみ、灯り消すぞー。」
「おやすみー!」
「おや、すみ……。」
灯りを消し、しばらく経っても大河の目は開かれていた。『星』というものの重責が大河にのしかかった気がした。元は気楽に世界を見て回るだけのつもりだったが、それだけで自分も他の『星』みたいに強く輝けるのだろうか。
エルナはああ言っていたが、大河は日本にいた頃、「何でもない自分」を悲しいほどに自覚していた。何をやらせてもそこそこ運動はできたし、勉強もそれなりにできた。歌だって下手ではない。でも、いつしか群衆に埋もれ、何十億か分の一でしかない自分に大した期待はしなくなった。期待すると辛いのだ、きっとそれは自分の心を挫く足元の石になる。
――器じゃないよ。
大河はやはりそう思った。
すると突然リックが話しかけてくる。
「……なあ大河、起きてるか?」
「ん、起きてるよ。どした?」
「……大河の、チキュウの、話、してよ。」
「お、いいぞ。そうだな、例えばな、漫画とかゲームとか遊ぶものが死ぬほどあったな。」
「マンガ? ゲーム?」
「おう、今度スマホのゲーム触らしてやるよ。充電切れたらできなくなるけどな。」
「???」
それから、大河はリックに地球の話を色々した。
会社の話、学校の話、部活の話、芸能人や歌手、プロスポーツの話、車や飛行機の話、漫画やスマホやゲームの話、ロボットの話、戦争の話……。
なかでも、人が宇宙に行った話は特に驚いていた。アポロ11号が月に降り立った話には特に目を輝かせていた。
俺の仕事の話も沢山したが、全然理解してもらえなかった。商業ギルドや個人の銀行家などの銀行業の先駆けは存在するようだが、金融経済の概念が活発になるのは金銀本位制から管理通貨制度に移行してからかな。株式会社はイギリスかオランダの東インド会社が最初で、大航海時代に保険の概念が固まったんだっけな。大河も色々と思い出しながら、話を続けた。
大河とリックの眠れない夜は続いた。
◇◇◇◇
「おはよーございまあああす! タイガ様!ルーニー様! リック君! 朝ですよ!」
ライルが元気よく部屋に入ってくる。大河たちは遅くまで地球の話をしていたので、寝不足気味だ。笑顔ビームが眩しい。
「うう……もうちょっと……キリのいいとこまで……。」
「ふあ……、もう、朝か。」
「リック君よく眠れましたか? お湯置いて置くので、顔洗うのに使って下さいね!」
「ベッドなんて久々だったから、すげぇ寝た気がする……。」
「ふぁ、リックも遅くまで話してたのに……なんでそんなスッキリしてんだよぉ。」
「えー2人で夜お話してたんですか!? ずるいずるい! ボクも入れて欲しかった!!」
そう言ってライルは少しぷーっとむくれる。板戸を外し、薪をくべてくれているようだ。
「おう、ライルとも近いうちな。」
「約束ですよ!! じゃ、もうすぐご飯だから食堂に来てくださいね!」
「おー顔洗って歯磨いたらいくー。」
大河は眼をこすりながらそう告げた。
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