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星の軌跡

「勘違い?」



 大河がエルナに聞き返す。



「ええ、『星』と呼ばれる者はみな確かに傑物揃いです。しかし、みな生まれた時から特別な力を備えて生まれてくる訳ではありません。みな、その力は自ら選び身につけてきたのです。」



 エルナは窓の外を眺めながら歌い上げるように言葉を紡いでいく。大河はその甘美な声が染み込むように聞こえてくる。



「『星』は、どの様に振る舞うか、それによって周りにも影響を与えます。輝きという成果だけではなく、その輝きを生むための考え方ができる、振る舞い美しい人が『星』に選ばれると私たちには伝えられています。」


「……。」



 エルナの翡翠の眼は、真っ直ぐに大河を見つめる。



「今英雄である人が『星』とされる訳ではないのです。後に英雄と呼ばれる人が『星』になるのです。」


「英雄なんて、俺は……そんな大した奴じゃ……。」



 地球では紛れもなく凡人の類であり、歯車としてしか生きる道を見出せなかった。特別な人間だと思い込んだ少年期の万能感は塵芥となり社会という風に散らされた。

 自信のなさから下を向き項垂れる大河を見て、エルナは優しい声で告げる。



「タイガ様はご存知ですか? 光輝こそが星の本質ではありません。白く輝く星よりも、多くの星は目に見えず、その輝きは黒いものもあるのではないかと考えられていますいるのです。」


「ブラックホールとかそういうことか?」


「ふふ、タイガ様が仰るそれと、私の言うことが同じかはわかりません。でも、私が言いたいことは、黒くても、目に見えなくても星はきっとそこにあるということです。」



 エルナが言わんとすることはなんとなくわかる。大河は胸のあたりが少しキュッと締まった気がした。



「私の一族は『星の守り手』と呼ばれます。『星』の決断を支え、必要な知識を集め、『星』が輝きを得るために心血を注ぐことで、世界が良い方向へ進むための手助けをして参りました。もし、今のタイガ様に1人で輝く力がないと仰るなら、私たちがその力となりましょう。

私は、タイガ様なら、きっと素敵な方向に我らを導いてくれると思います。タイガ様の運命は祝福されています。」


「運命……?」



 エルナは大河のそっと手を取り、ニコリと笑う。大河はつい、頰を赤らめてしまう。



「いきなりこんな事を言われても困りますよね。実は私たちにとっても、こういう形で『星』と(まみ)えるのは初めてです。通常は母親の胎内から産まれた7日後、新生児として精霊の祝福を受ける時に『星』は誕生します。その後は守り手をはじめとする者たちの教育を受けて育ちますから。使命に苦しむ人はいても、こういう形で悩むことはあまりないんです。

だから、タイガ様も少し想像してみてください。時間がかかっても構いません。もし、この世界で成したいことがあればきっとそれがあなたの輝く軌跡(みち)です。」


「この世界で……成したいこと……。」


「タイガ様はこの世界で何かしたいことはありますか?」


「そんなの、わからないよ。……強いて言えば観光というか、色んな所を見て回りたい。」


「では、色んな国に行きましょう。それがきっとタイガ様の輝きの元になると思います。」


「……。」



 重い表情をする大河を見て、もう夜も遅いですからまた後日話しましょう、とエルナは微笑んだ。

 リックについても、もう平気でしょうからとエルナが大河と同じ部屋で寝ていいと言って拘束魔法も解除してくれた。リック自身も驚いていたし、流石の大河も驚いていたが、ウォードもエルナの人を見る目は確かだからと完全に警戒を解いた。占星術師だから、何か見えるものがあるのかもしれないと、大河は心の中で思った。

 みんなが部屋から出て行こうとした時、そういえばと大河が思い出す。



「あ、みんな。部屋に戻る前に、渡したいものがあるんだ。ちょっと、そんな雰囲気じゃなくなっちゃったかもだけど。」



 そう言って大河は鞄から人数分の宝石がはめ込んである銀色のコインの様な物を取り出した。エルナが不思議そうな顔をする。



「タイガ様、これは?」

「ルーニーと相談してさ、今日魔道具屋のばあさんに作ってもらったんだ。もっと時間がかかるかと思ってたけど、こっちの人は凄えな。素材を渡したら魔術でサクッと加工して、加護もすぐに付与してくれた。妖精銀は魔術での加工が簡単なんだって。流石に凝った装飾は時間がかかるから無理だったんで、コイン状(メダリオン)にしてみた。」



グリスが手に取り、灯りにかざすようにそれを掲げた。



「これは……護符(アミュレット)っすか?妖精銀に、魔宝石が埋め込んで……。それに、これは、星と月っすか?」


「うん、こっちの人はよく『星月の加護を』とか口にするなと思って、シンボルを考えてみたんだ。……ダサくてごめんだけど。」


「ダサくないです! カッコいいです!!」



 ライルが嬉しそうに言う。今にも尻尾を振り出しそうだ。



(なんか忠犬って感じなんだよな、ライルは。)



 そんなリアクションが嬉しいんだけども。



「はい、これはリックの分な。売り捌くんじゃねーぞ!」


「なんで……俺の分まであるん、だよ。」


「いや、元は俺の分を自分で用意してたんだけどさ。丁度いいから、リックにやるよ。」



 リックはそれを黙って受け取り、見つめていた。ミリーがメダリオンの護符(アミュレット)を見ながら言う。



「ニクいことするなぁタイガ!! ありがと!! さては1人で魔道具屋に行きたいなんて言ってたの、コレのせいね?」


「いやあ、みんなには世話になったし、お礼がしたいってルーニーと話しててさ。どうせならサプライズでって。」


「素材のお代はたんまり貰ったからね。」



 ルーニーがニヤリと微笑む。漫画やアニメ、小説なんかを沢山読んどいてよかったと心から大河は思った。ちなみにルーニーは最近はドラマや漫才にも手を出しているらしい。

 じっと護符(アミュレット)を見つめていたエルナが破顔し、大河の手を握り喜びの声をあげる。



「タイガ様!! 本当にありがとうございます。こんな……、こんな素敵な贈り物を頂けるなんて……!! これにはどんな加護が付与されているのですか?」


「あ、ああ……、『一命の加護』だって魔道具屋の婆さんが言ってた。」



 ドギマギしてエルナの手をはなしてしまう大河に、今度は興奮したミリーが歓喜の叫びをあげる。



「スゴイ!! 『一命の加護』なんて帝国の大貴族だって持ってないわ!! タイガ、大事にするね!!」


「うう……俺感激っす。」


「タイガ様、こんな老骨に身に余るご加護を……。」



 『一命の加護』は、その名の通り致命傷を受けた時に一度だけ身代わりになってくれる加護らしい。魔宝石の質がよく、かなりいい加護を付与できたと婆さんも嬉しそうだった。

 本当はピンみたいなものをつけて簡単に服とかに付けれるようにしたかったが、早く渡したくて簡単なデザインにした。みんな気に入ってくれたようで何よりだ。ルーニーと顔を見合わせてガッツポーズを作ってみせる。

 ちなみにルーニーにも同じメダルを革の首輪にして渡した。付けてあげたら最初は苦しくて後ろ足でてしてし蹴っていたが。



(こんなに喜んでくれるならもっとちゃんと時間かければよかったな。)



「それじゃあお休み、また明日。」



 ほんの少し後悔を心に残して、大河はみんなを見送った。


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