大河、お婿に行けなくなるの巻
公衆浴場から宿に戻った大河達は、今は大河の部屋に集合していた。
めそめそ泣く大河の前でエルナがうつ伏せのようになって地に手をついている。所謂ジャパニーズ土下座である。
「本当に失礼いたしましたァァァ!!」
「ぐすん、もうお婿にいけない……。」
「タイガ様、お嬢様を揶揄うのはその程度にしてあげてください……。」
「む。」
そうウォードに言われると大河はピタッと泣き真似をやめ、みんなの方向に向き直る。
「な、泣き真似だったのですか!?」
「ご、ゴメン信じると思ってなくて……。」
「ひ、ひどい!」
「いや、少年の腰布を剥がし取ってすっぽんぽんにするほうが酷いと俺は」
「スミマセンシタァァァ!!」
「あ、いや、もういいから……。」
エルナが体育会系の土下座を見せる。指先までビシッと腕ごと伸ばし、額を地に擦り付けている。
大河は勢いに負け、思わず仰け反ってしまう。
「で、俺の尻にあったのは本当に『星紋』だったのか? 蒙古斑じゃないのか?」
「はい、触って確かめたのですが、『星』のマナに溢れていました。間違いありません。」
エルナは至極真面目な顔をしてそう言った。大河は眉をひそめる。
(俺のお尻触ってたのお前か。)
「俺が……、『星』……。」
大河は手のひらを眺め、記憶を探る。世界一の鍛治師に、世界一の教育研究機関を作ったり、ペストを治したりするような偉人が『星』と呼ばれていた。大河は一般人だ。異世界の知識があるとはいえ、ネットで検索も文献を探ることもできなければ大したことなんてできない。
困惑する大河に、様子を見ていたエルナが再度口を開く。
「森から帰って落ち着いてから、改めて再び『星』の居場所を探っていたのです。すると、このカートルにいると視えました。何かの間違いだと思ったのですが……。星月の水晶が壊れてしまったのかとお母様に連絡を取ろうとしてもお出にならないし……。」
「「「「え?」」」」
「え?」
エルナの言葉に、ウォード、ミリー、グリス、そしてライルまでもが疑問の声をあげる。大河とリック、ルーニーは不思議顔だ。
「お嬢様、タイガ様を『星』だとわかっていてお連れしたのでは?」
「ウォード、どういうこと?」
「私も、てっきりタイガが『星』なのだとばかり……。」
「お、俺もそう思ってたっす。」
「ボクもです。事前にわかってた情報とも一致してましたし……。星紋はどこにあるのかなって思ってましたけど。」
「ミ、ミリーとグリスに、ライルまで? 事前の情報とは何のことかしら。」
戸惑うエルナ一行に、ルーニーが口を挟む。
「それアレでしょ、髪と目が黒くて、11、12歳くらいの見た目で、エルナ達にない知識があるってやつ。エルナが視た内容じゃないの?」
ルーニーの発言を頭で反芻し、エルナが大河をじっくり観察したあと、ポン、と手を叩く。
「みんな、紹介が遅れたわね。こちらが今代の『変化を告げる星』、タイガ様よ!!」
「な、なんだってーーーーー!!」
「「「「……。」」」」
「こ、この姉ちゃん、アホなのか……?」
「やめろリック、やめて差し上げろ。」
何故かドヤ顔気味のエルナに、悪ノリしたルーニー以外、非常に寒々しい視線が向けられたのだった。
せめてズッコケたかった、そう大河は思ったのだった。
◇◇◇◇
「コ、コホン。さて、これからの話をしましょう。」
「そうだな、エルナの部下からの信頼がなくなる前に。」
「タイガ様!?」
涙目で必死にツッコむエルナ。あまりの必死さに大河もギョッとしてしまう。
するとリックがあのよー、と手を挙げる。手を挙げてから発言するとは意外とかわいいやつ。ちなみに、もう縄で縛られてはおらず、ミリーの『拘束』の魔術が足にかけられているだけだ。今はベッドに座ってルーニーをぐりぐり撫でていた。
「何でしょう、リック君。」
「このアホそうなガキんちょが本当に『星』なのか? 俺でも知ってるぞ。『星』なんてお伽話になるくらいのバケモノ揃いじゃんか。」
「おい、アホそうとはなんだ。あと俺はお前より全然年上だからな。」
「は?んなわきゃないじゃん。俺14だぜ?」
「あ、ボクのひとつ上だ!」
「お、おうそうかよ……。」
裸の付き合いを通してリックとライルも打ち解けた様である。グリスやウォードからもずっと感じていたピリピリした感じはもうしない。大河は微笑ましげに頷きながら、次の言葉を紡ぐ。
「いや、俺の年は実際は34歳。だからリックより全然上。ってもこの世界では知識もないし子供未満だから、別に変に気を遣う必要ないけど。」
「はぁ?」
言った。言ってやった。
リックが何言ってんだコイツみたいな顔をしている。他の面子はまた言ってるよ……みたいなリアクションだ。くそう。
「何言ってんだコイツ。」
あ、言いやがったコイツ。このやろ!
「本当なんだよ。俺はこの母なる大地だっけ? とは違う星からどうやら転生してきてるみたいなんだ。な、ルーニー?」
「うん、それは事実だね。他の精霊でもわかると思うよ。魂を見ればこの星じゃないって一目瞭然。」
いつ打ち明けるか悩んだが、ここを逃すと言う機会を逸すると思ったのだ。これからどう生きていくにせよ、この人たちには話しておいたほうがいい、そう判断した。もちろんルーニーにも事前に相談して意見を聞いている。ルーニーもエルナたちのことはいい子たちだと思うと言っていた。
エルナたちに驚きが広がる。リックなんか目が飛び出そうなほど見開いて大河を見ている。精霊ならわかるというのも、契約の精霊の実際の例がある。あれは誰も見ていなかったが。
それにしても驚きすぎだろう。グリスなんか顎が外れそうじゃねーか。
「お前ら、俺の言うことは完全嘘扱いだったのに……。」
わかってはいたし、そのためにルーニーに話を振ったのだが、なんか悔しい。
ミリーは罰が悪そうにみんなと顔を合わせ、呟く。
「だって……ねえ。」
「それよりも違う星というのはどういうことでしょうタイガ様。」
「あ!ウォード今話逸らしやがったなこんにゃろ!
……まあいいや、俺がいた星は地球って呼ばれてた。魔法がなく、代わりに科学が発達した星だった。あ、星って言っても空にある星じゃなくて、ルーニー曰く全く別の世界にあるらしいんだけどな。」
そうして、大河は地球について話し始めた。懐かしさと、ほんの少しの寂しさを感じながら。
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