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練れば練るほど色が変わって



 気を取り直した大河はギルドカードを受付嬢に持っていき、契約が成立したことを告げた。



「悪く思わないでね? その……ああいう精霊(ヒト)なの」


「ああ……大丈夫」


「それでこれからクエストを受けることもできるけどどうする? まずは数人のパーティーを組んで簡単なものから始めた方がいいわよ。今も幾つかメンバーを募ってる所があるわ」



 受付嬢が目でクエストやパーティ募集の羊皮紙を貼り出す掲示板を見やる。


――治癒術師よ来たれ!待遇 ◎。 明るく楽しいパーティです!  『夕闇の朝焼け(ソルジェレデルソーレ)


――パーティを組める女の子大募集! 当方前衛を嗜みます。

   可愛ければ誰でもいいです。  『恋愛ハンター エース』


――Sランクパーティ本気で目指します。 

   吸血鬼、人狼(ウェアウルフ)、暗黒大陸人、超魔導師、 

   いたらあたしのところに来なさい!  『SQS団』


――カートル中心でクエストをやっていきたい系パーティです。

   リーダーは学生時代炎系魔術を学んでいました。 まったり楽しんでやれるかた!

   『シルバーキャンディ』



(タウ●ワークか一昔前のB●NDやろうぜみたいなノリだな……。ってかハ●ヒいるぞオ。)



 大河は汗を垂らし掲示板から目を外し受付嬢に告げる。



「んー今日はちょっとどんなもんかクエスト見て帰るよ。保護者が待ってるんでね」


「そう? 時間があるようなら戦闘訓練や採取素材の解説、魔物や野獣の解体なんかの講座もやってるから、受けてみてね」


「わざわざありがとうございます」


「冒険者なんだからもっと砕けた感じでいいのよ? ありがとうございますなんてこっちが恐縮しちゃう。私はこのカートル支部の職員、ナル。ご贔屓にどうぞ」



 ナルは小さくウインクする。大河は何故だかやたら頰を赤らめてしまった。そんなウブでも奥手でもないはずなのだが。



 ウォード、ミリー、グリスは冒険者ギルドに併設された食堂で軽食をとっていた。



「チラッとクエスト見たら宿に戻るから、戻ってていいよ。道はわかるからさ!」


「え? 何言ってんのよ別に一緒に帰ればいいじゃない」


「そーっすよ。護衛しろって言われてるのに放ってきたらエルナ様にどやされますよ」



 ぷんすかと怒るエルナを想像し、それはそれでかわいいかもと思う大河だが、すぐに首を振る。



「いやいやすまん。実はまだ魔道具屋に寄りたくて。さっき武具屋の店主に腕のいい人の店を聞いたんだ。その、できれば1人で行きたくて……」



 大河はポリポリと頰をかく。護衛をしなくてはいけないことは重々承知であったのだろう。ミリーとグリスは顔を見合わせる。



「何言ってんのよ、別に遠慮する必要……」


「ふむ、ミリー殿、ここはタイガ様のご意向に沿いましょう」


「ウォード様、しかし……」



 グリスの言葉をウォードは軽く目で制する。ミリーもそのやりとりを見て、止むなしといった風に目をつむる。



「……わかったわよ。いい? 寄り道しちゃダメだからね! 真っ直ぐ魔道具屋に向かって、すぐに宿に戻るのよ? 拾い食いなんてしちゃダメだからね!」


「俺は犬かよ。……ありがと」



 ウォードたちを見送り、大河は1人魔道具屋に向かった。



◇◇◇◇



 冒険者ギルドや宿が立ち並ぶ大通りから二本ほど路地に入ると、数軒奥に杖と壺のマークを発見した。



「……アレか。何かいかにもって感じだな」



 煉瓦で作られた店の門には樽や壺、杖などが雑然と置いてある。看板には蔦が絡み、煙突からはもうもうと虹色の妖しい煙が上がっていた。魔石灯のランプがかかる木の扉を開けると、怪しげな香りがもやっと立ち込めた。



「すげぇ匂いだな……」


「なんだい人様の店に入るなり、生意気な小僧だね。お使いかい。アンタが来るにゃまだ早い場所だよここは」



 店の中には所狭しと深紅や群青、ライトグリーンの薬や怪しげな魔道具が置いてある。ヘビやイモリの標本のようなものまで置いてあった。暗がりには眼を光らせたフクロウがこちらへ首をグルリと向け、大河の心臓は破裂寸前だった。

 少し暗いカウンターの向こうからは鋭い眼光の老女がこちらを見据えている。



(イーッヒッヒとか言いそうだな……)



 黒いローブに身を包んだ店主らしき老女に、ここを知った経緯を大河は告げた。



「そこの大通りの武具屋の店主に腕のいい魔道技師を紹介してもらったんだ。ここへ行けって」


「大通りの武具屋? ハァ、ボンクラ親父の倅かい。あいつはちゃんと商売できてんのかい」


「ああ、この武器防具も揃えて貰った」



 そういって買ったばかりの軽鎧を見せる。老婆は目を光らせる。



「あぁ? ガキのくせに上等な魔術のかかった鎧着てるじゃないか。アンタ何処ぞの貴族の倅かい? 見かけん顔だ」


「いや、冒険者だ。実は2つ相談がある」


「……聞くだけ聞いてやるよ」



 とりあえず身分を証明するのに冒険者という肩書きは便利だと大河は感じた。変な奴でもまあ冒険者だし、で済む気がした。

 大河はここへ来た用件について話をしだした。



◇◇◇◇



「……という訳で」


「まずはその売りたいってモン見せてみな。話はそれからだ」


「これなんだけど」



 大河はヒッコリーで作られたカウンターに、腕時計とスマホを置いた。

 店主が訝し気に品物を見る。



「……なんだいこりゃ」


「腕時計と……スマホって言う、俺の国の通信機器なんだけど。通信っても……通じるか?要は遠くの人と話したりできる道具なんだが……」



 それだけじゃないけど、と思うがいざスマートフォンを説明せよと言われても難しい。



「時計? ……あんた、これが時計だって言うのかい?」



 そう言って老女は布の手袋をはめ、大河の腕時計を手に取る。チラリと文字盤を見ると、顔を驚愕の色に染める。慌てて店の奥にある片眼鏡を取り出し、今度はじっくりとその時計を眺める。裏側は機械式時計の中を覗けるようシースルーの意匠となっているが、それらをも舐めるように見回し。



「……アンタ何者だ? これを何処で手に入れた?」


「いや、昔記念に買って……」


「記念!? 何の記念だい、どっかで古の神が復活した記念祭でも開かれてんのかい!?」


「え、いやそんな……」


「アンタね、こりゃ神の遺物(アーティファクト)だ。こんなモンうちに持ち込んで何しようってんだね!」


神の遺物(アーティファクト)!? ンなまさか!! これは極々ふつーの」


「普通の時計な訳があるかね!! こんな小さくて精密に動く時計なんて神聖国の教皇やサーグヴァルトの皇帝だって持っちゃいないよ! アンタさては盗賊だね!?」


「いやいやいやいや違う!! それは間違いなく俺の!! マジで!!俺の血と汗と涙の結晶でそれを買ったの!!」


「ハァ、ふざけんのも大概にするんだね! 老いぼれと思って盗品捌きに来たってのかい! こんなババァに危ない橋渡らせる気かい!」


「だから落ち着いてくれよ!! 本当なんだって!!」


「フンッ……!待ちな!!」



 老女は鼻息を荒くしながら苛立たしげにバタバタと走り、店の奥から黒い宝石のようなものを持ち出して来た。老女はそれを大河の手に握らせる。



「いいかい、これを握って、私の問いに答えな。これは盗品、アンタは盗賊だね?」


「違うって。これは俺が貯めた金で普通に買ったものだ」



 すると大河のこぶしから青い光が漏れ出した。老女の目がこれでもかとばかりに見開かれた。



「……まさか」


「これは嘘を見抜く魔道具か何かか? 丁度良かった、これで証明できたか?」


「もう一度聞かせな。コレは本当に元々アンタのモノなんだね?」


「そうだってば」



 手のひらの黒い宝石に再び青い光が灯った。



「……信じられん。あんたはどっかの王族でもないんだね?」


「違う」



 やはり大河の思った通りの道具のようで、今も大河の答えに反応して青く光っている。



「……疑って悪かった。これは『クスクスの瞳』って魔道具だ。真実には青く、偽りには赤く反応する。しかし、未だに信じられんよ。こんなに滑らかに時を刻む時計……こんな小さいのに……。小人族(ハーフリング)でもこんな極上の細工作りゃしないよ」



 そう言って老婆は具にルーペで腕時計を眺める。



「えっとその、さっきの神の遺物(アーティファクト)ってのは、本当なのか? 俺が買った時には普通の時計だったんだ」


「生憎そこまで老いぼれちゃいないさ。これは間違いなく神の遺物(アーティファクト)、魔道具さね」



 今度は惚れ惚れとした様子で老婆は語る。



「それはなんかの魔術が付与されてるってことか?」


「間違いなく何某かの魔術が付与されちゃいるがね。これだけのマナだ、"加護"かそれ以上のものか……」


「どんな魔術かはわからないのか?」


「……こんな魔術見ただけで分かる奴がいたらそいつは神そのものだよ! 解析しても……アタシにゃ読み解けないだろうね」


「マジか。……ちなみに売ろうとしたらいくら?」


「……アンタこの店の売り上げを何百年も回収し続ける気かい?」



(マジか。そんなか)



「……ちなみにこっちは?」



 大河はスマホを差し出す。

 老婆は眉を顰めながらそれに触れる。いくつかボタンを押したりすると文字が出たり絵が動いたりすることに驚愕する。一応こんなこともできるんだけど、と動画を撮って見せてみたり音楽を聴かせてみたりする。ちなみに大河は80ギガほど音楽を入れていた。

 老女は深く溜息をつき、瞑目する。



「……いいかい、アタシはアンタから何も見せられてない。アタシは何も見てない。オシメが取れる前に教えてやろう。"触らぬ神に祟りなし"って言葉がこの世にはある。どうしても売りたきゃウェールバートの研究馬鹿どものとこに持ち込みな。きっと綺麗に解体してくれるだろうさ」


「……値段はつけられないってことね」



 フン、と鼻を鳴らす老女店主。参ったな、とポリポリ頭をかく大河。



「……その時計にかかってる魔術が知りたきゃエルフにでも聞きな。 奴らは古代の魔道具にも詳しい」



 長命種だけあってね、とぶっきらぼうに付け加える。

 適当な値段つけてもわからないのに律儀な婆さんだ、と大河は苦笑いしながら彼女への信頼度を心の中で上げる。



「ありがとう。じゃあもう一つの相談だ」




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