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冒険者ギルドに登録するぜ!



「じゃあこれで一通りだな。武器は剣と槍か。合計で……93万(ゼッカ)だ。多少まけといてやったぞ」


「へへ、おっちゃんあんがと!」



 大河が購入したのは鋼と魔導青銀(ミスリル)を合金の素材とする、青白く輝く軽鎧(ライトアーマー)だ。ガードする部分は最低限だが、軽量化・対衝撃・対魔術の"加護"が施された、紛れもない高級鎧だ。ちなみに子供用のものはなかったので、小人族(ハーフリング)用に作られたものを調整した。小手や膝などの部分を守るプレート付きだ。

 それに加えて防水防風はもちろん、対寒・対暑・対魔術の加護を持つ護符(アミュレット)を留め具に使用したマントも購入。エルフだけが育て方を知るという植物から作られた糸で編まれた魔術布に妖精銀アールヴ・アルゲントゥムを用いた銀糸を編み込んだ高価なマントだ。



(か、かっこいいやんけ!!)



 姿見の前で色んなポーズをとる。鎧姿に大河はご満悦だ。軽量化の加護のおかげで、嵩張る感じは強いものの重さはあまり感じない。



(でも慣れないとすぐ疲れちゃいそうだな)



「おっちゃんありがとう! またなんかあったらよろしくな!」


「あいよ、これからもご贔屓に!」



 剣を受け取り鞘を革のベルトから下げると一端の剣士になったようだ。



「じゃーこの調子で冒険者ギルドに行くぞー!」


「はいはい」



 ミリーやグリスは苦笑いしながら大河の後に続く。



◇◇◇◇



 カートルの街は古くから交易で栄えた街だ。大通りには屋台を始め沢山の店が立ち並ぶ。大河たちが泊まっている宿も大通りに面している。石で舗装された道路は次々と馬車が往来し、屋台の呼び込みの声で一層賑やかだ。

 その中でも特に際立って大きな白亜の建物、冒険者ギルドに大河たちは来ていた。大理石の床には赤や紫の絨毯が敷かれ、よく清掃されているためか年季を感じさせない。柱も太く立派で、この世界の建築レベルの高さを伺い知れる。

 大河はその荘厳さに驚愕する。というかビビる。神殿のように立派な建築物だ。



「では、冒険者として新規ご登録ということでよろしいですね?」


「は、はいそうです」



 石造りのカウンターでキョロキョロと周囲を見回す。完全に田舎のおのぼりさんだ。美しい白の建物の中はむさいおっさんや怪しげな魔術師らしき女の子をはじめ、獣人や調教(テイム)された魔物がいたりとかなりカオスな感じになっている。ある一団は大型のカオス・グリズリーを仕留めたから裏の解体小屋に持ち込めと大号令がかけられている。

 そんなことはまるで日常と言ったように――というか日常なのだろうが、受付のお姉さんは手慣れた様子で手続きを進めて行く。



「文字は書けますか?」



(文字、そういやどうなんだ? 看板なんかはアイコン化されたものを併記しているとこが殆どだから何となくわかるし、文字を読むのも言葉の精霊(ジェバンニ)がうまいことやってくれてるみたいだけど)



 試しに羊皮紙の切れ端と羽ペンを借りて、日本語で自分の名前を書いてみる。



「これ読めます?」


「……これは、どこの国の文字ですか? 記入は共通語(コイネー)でお願いしますよ」



 さすがの言葉の精霊(ジェバンニ)も万能ではない。大河は諦め、ウォードに代筆を頼むことにした。



「名前はヤマウチ・タイガ……いや、タイガ・ヤマウチか?」



 確かエルナはエルナ・ヴァン・ノバーナだっけ。じゃあやっぱ下の名が先に来る感じで行こう、と決める。



「タイガ・ヤマウチで出身はニッポン。 ニッポンってめっちゃ外れの小国だけど問題あるかな?」


「ふーむ……。どうやら冒険者ギルドに加盟していない様ですな。 我々の国の出身ということにしますか?」


「あ、それでいいなら、それで」


「職ですが、精霊使いで登録して宜しいですかな?」


「おっけー!」



 滞りなく冒険者登録は進む。ちなみにウォードも冒険者ギルドに籍はあるらしい。高ランクの冒険者になると、国境を通過する際なども通行税の免除など恩恵があるらしい。魔物や古代遺跡、未開の地の開拓は大国を除きどこの国でも自国の軍を動員する負担を避ける為、冒険者を優遇することも多いそうだ。



「まあ優遇ってのもサーグヴァルト帝国や南のアレーナ女王国のような軍の規模が大きい国は別ですがね」



 グリスが欠伸をしながら冒険者について解説すると、ミリーが更に続ける。



「アレーナの女王は冒険者嫌いで有名よね。ギルドもあそこは肩身狭いらしいわね」


「ふーん、まあ話聞いてる限り、冒険者ギルドってかなりでかい組織だもんなぁ」



 野生の獣や虫のような小動物などが、魔素の影響を受けて変質し、力を得た存在をこの世界では魔物と呼んでいる。魔物は通常の獣よりも大きく、強力であることから、対人戦を専門とする軍の兵士とは別に、古くから冒険者と呼ばれる存在が魔物退治を行い、素材や魔物の持つ魔石、時には魔物の骸そのものを街に持ち帰り換金する。

 しかしながら今のこの時代においては軍が対人、冒険者が対魔物といった区別は特になく、単純に誰に剣を捧げるか、ということが軍人と冒険者を切り分けていると言えるだろう。人は国や主人に、そして冒険者は浪漫に――、というのは大河の解釈だが。

 もちろんパーティーやクランというものも一般的であるが、これは想像以上に特定のパーティーに属さない冒険者が多いことに大河は驚いた。パーティーを組まない、いわゆるフリーの冒険者は全体の約4割。かなりの数の冒険者が特定のパーティーを組んでいないのが現状である。



「腕のいい戦士とか、治癒術師や解毒術師といった専門性が高くて希少な技能を持つ人は、特定のパーティーに属するよりもフリーの方が高く買ってもらえるのよ」



 こう見えて治癒術師であるミリーが少し誇らしげに言う。斥候職や鑑定の技能を持つ者も同様に、どこに行っても重宝されるが一定の修練を積んだもの以外では不十分であるような職は、都度交渉の方が実入りがいい――そういうことらしい。

 治癒術師は現代日本でいうところの医者のような存在らしく、かなり数自体が少ない。多くの冒険者はポーションなどの回復薬で負傷の治療をしているようだ。



「無慈悲なもんだな。まあ確かに日本でも弁護士やら医者やらは個人で開業したほうが儲かるもんなぁ」



 あとは書類には簡単な注意事項がつらつらと並び、それらを同意するというサイン欄だ。

 例えば「冒険者は活動する国の法を遵守する」、とか「ギルドは戦争行為に加担しない」、とか「ギルドから指名依頼があった場合、冒険者は特段の事情がない限りこれを拒むことができない」、とか「クエストで得た収入はギルドとその活動する国によって課税される」とかそういうことだ。

 サインは別にどこの言葉でも構わないとのことなのでサイン欄には大河本人が記入する。



「書類を確認いたしました。えー、タイガ・ヤマウチ様ご本人でお間違いありませんね? 年齢不明とのことですが……そうですね、12歳としておきます」



 受付嬢が見定めるように大河を眺め、年齢を記入する。

 この世界では戦争や魔物に親を殺された孤児など、自分の年齢がわからない人は一定いるらしい。ちなみに嘘を吐くのが嫌で正直に34歳と行ったらグリスは呆れ、ミリーは怒り、ウォードはにこやかに微笑んだ。ミリーよりウォードのほうが怖かった。



「では、登録料として3万(ゼッカ)いただきます。これは、ギルドカード発行などの冒険者登録による費用や契約の儀式、各支部への連絡などにかかる料金です」


「はい、じゃあこれ」



 そう言って金貨を3枚支払う。これは事前に聞いていたことだ。ちなみにミリーやグリスはこの費用をケチって冒険者登録はしていないらしい。3万(ゼッカ)というと恐らく日本でいえば自動車免許取得にかかる教習所費用くらいの価値だろうか。



「たしかにお預かりいたします。それではギルドカードを発行いたします。契約書とアイアンのカードを持ってあちらの扉へどうぞ」



 受付嬢はそういうと、鉄製のカードを手渡しギルド支部の奥の扉を指し示した。大河は軽く会釈をしながら扉に向かう。他の冒険者がジロジロ見てくるので少し居心地が悪い。



「私たちはここで待っています」


「え、ウォードたちはついてこないの?」


「ええ、あとは契約の精霊を通してギルドカードにタイガ様の(ソウル)の情報を刻むだけですから」



 契約の精霊? (ソウル)? と大河は理解できず不安そうにしていたが、ウォードは行けばわかります、とだけ告げた。大河はええいと覚悟を決め、物々しい模様が刻まれた扉を開ける。

 薄暗い部屋は魔石灯ではなく蝋燭の灯りで照らされているらしかった。恐る恐る中へ入り扉を閉める。なんかこう、如何にも儀式しまーす、といったような雰囲気だ。



『パァン!!』



 すると突然薄暗い部屋の中に爆発音の様なものが鳴り響く。運動会の徒競走のスタートの時に鳴るような音だ。



「ほんぎゃあああああ!!!!」



「ヘェ~~~~イブラザー!! この度は冒険者新規登録おめっとさんだゼェ~~~~?」



 クラッカーを持った謎のハイテンションな赤黒いオッサンがそこにはいた。


もし「続きも読みたい」「ここをこうすればいいのに」「とりあえず頑張れ」と思っていただけたら、下の項目からブクマ登録やレビュー、評価、感想を頂けるとモチベーションガンガンあがります。


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