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契約か死か



――訪れる静寂。



 深緑というには最早黒に近いその森に、虫の声か、瓏々とした古樹のざわめきか、そのようなものが響き渡る。夢オチならもうここで終わりになるところだ。「山内先生の作品を今までありがとうございました、冒険はまだまだこれからだ!」 そんなアナウンスメントと一緒に打ち切りになる。夢からは覚める。明日は部長に四半期報告がある。早く資料を完成させなきゃ。

 そう思ったのだが、一向に鳴り止まない頭痛はそこが現実だと脳に直接叩きつけているかのようだった。



「ちょっ……ええー……? えぇえーっ……!? すまん……、頭痛くてついていけない……。無理、無理無理、考えらんないもう死んじゃう……」



 そして大河は思考を放棄する。ばたんきゅ〜といった具合でまたも倒れこむ。猫はふよふよと大河の周りを泳ぎ、クンクンと鼻を鳴らす。



「ふーむ、どうやら魔素が存在しない世界から来たせいでマナの扱いに不慣れ。おまけにこの辺が魔素たんまりなおかげでマナが暴走気味だね。ボクにとっては居心地のいいトコなんだけどな」



 青い猫は大河の前に止まり、提案をしてきた。



「ボクは治癒系の魔術は詳しくないけど、その頭痛をコントロールする方法ならまあ、なくはないよ」



 大河はそれを聞くと開かれるのを拒むかのように閉ざされた目を無理やり拡げ、必死の思いで頭痛に耐え顔をあげた。上を向くと涙が溢れてしまう。下を向いて生きていこう。



「マジか…ならお願いします……。地獄……コレ」



 神に祈るようなポーズで猫に懇願する。頭が痛すぎて丸まってないと辛いのだ。

 何やってんだ俺は、という気持ちは頭痛も抑えられたおかげで大河を阻むものはない。夢でもなんでも構わないから、今すぐ頭痛(コレ)をどうにかしてほしい。



「ンー、いいけど、危ないかもよ? ボクと契約すればキミのマナをある程度コントロールできるってだけだし」


「け、契約…? そ、それって……」


「ボクと契約して、魔法少女になってよ!」



 きゅるん、とした笑顔で猫は言った。



◇◇◇◇



「それ……契約しちゃアカンやつって……。知ってる……」


「まあ、それは冗談さ。キミじゃあ魔法少女とは到底言えないもんね」


「だ、れが……魔法おじさんじゃい……」


「ふふ、キミの魂をどうこうしてエネルギーをどうこうするなんて概念はこちらにはないからね。想像してるような不利益はないと思うよ」



 不自然なほど猫が自分の見ていたアニメに詳しいことには思考が及ばず、大河と猫は会話を続ける。



「つか……、かわいいお前さん……。一体……なんなん……?」


「精霊だよ。精霊って概念は、キミの世界でもあったみたいだね」



 青い猫はニヤリと笑い、大河に答える。



「精霊たるボクと契約をすると副次的にボクのマナとキミのマナが同調する。それでボクが思春期の男子中学生の書いたブログみたいに暴走気味のキミのマナをコントロールできるってワケさ」



 エヘン、と得意げに猫が胸を張る。



「うう…デ、デメリットがないなら……このままじゃ死ぬ……」


「ウン、そうだね。このままなら魔素中毒死か、運が良くて廃人コースかなぁ、アハハ」


「マジで死ぬの!? 笑い事じゃ……。もう何でもいいから……頼む……」


「まあ、最初だけ乗り越えれば何の問題もないハズさ! それに、ボクにもメリットがないこともないからね。手荒にはしないヨ」



 頭痛で疲弊しきって最早考える余裕などない。

 過去の知識から、不当な状況で交わされる契約は、不当な内容の契約を結ばされるのでは――そんなことが頭をよぎるが、どうこう言っていられる状況ではなかった。



「疑い深いのはいいことだよ。まあ精霊契約だからね。キミから一方的にボクが搾取したりなんてことにはならないし、こっちで生きていく力にもなると思うよ。それでも心配なら仮契約にするかい? 細かいことは後で決めればいいし」



可愛らしい見た目から紡がれる言葉の裏は、わからない。ただハッキリしているのは頭痛薬を大量に飲んでも未だに効果は出ていない。大河は生理痛ではなかった。



「わかった……仮でオナシャス……。悪質な契約だったら……クーリングオフするからな……うぅ……」


「通販じゃないし、そもそもこっちには特定商取引法なんてないけどね。わかった、それじゃ仮契約だ」



そう言うと猫と大河を中心に、青白く光る魔法陣が現れる。

――何で特商法なんて異世界の猫が知ってるのか気になって仕方がなかったがそれはともかく――

猫は少し、ムニャムニャと呟き、大河の目の前まで降りてくる。



「ボクの名前はルーニー。えっとね、キミの名前と、ボクの名前、そして『仮契約をする。』と口に出してね。あと、血をちょっと借りるよ」



ルーニーが月面宙返りのようにくるりと身体を泳がせると、大河の人差し指の腹あたりが薄っすらと割れ、血が滲んだ。



「俺は……山内大河……。ルーニーと……悪辣な内容じゃなければ仮契約をする……」



大河の指から少量の血がびゅるっと飛び出し、魔法陣の輝きが一段階、いや三段階ほど増す。



「む、やはり血も異端か。 こんな強い反応は見たことないな。まあいい、これで仮契約は成立だ。しばらく寝ているといいよ。周囲は護っておくから」



 魔法陣は写真屋のフラッシュを四方八方から同時に焚いた様に強烈に光輝く。

 アメフト選手が監督の理不尽な指示でタックルをし続けるかのような鈍痛を未だに告げる脳、を含めた身体全体がガツンと振動し、一瞬自分のものではなくなったかのような浮遊感を大河は味わい――と同時に、ぷっつりと糸が切れたように意識を失い、世界は暗転した。



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