武器や防具はきちんと装備しないと効果がないんじゃよって本当に持ってるだけの人を実際見てみたい
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涙が出ました。
(あのガキ、何者だ?)
任意の場所に視点を移動できる魔術『鷹の目』で、大河が商業ギルドに宝石を持ち込んだのを目にした少年は驚愕した。あんな宝石は貴族でもおいそれと身につけることはできないだろう。この少年の審美眼はその後大河に手渡される金貨の山を見て確かであることが証明される。
(護衛……2人に執事、か? 貴族の息子、いや違うな)
少年は大河の立ち振る舞いを観察し、貴族ではないと踏んだ。金貨の山を見て呆けた様な顔、コソコソと金貨袋を鞄にしまいこむ姿。そして歩き方や視線の動かし方。貴族教育を受けたものの所作は含まれなかった。
(宝でひと山当てたあぶく銭ってとこかあれは 商業ギルドへの持ち込みってことは後ろめたい金でもない)
今も見張りを続けているが、今度は服をアレコレとみては驚いている。貴族というよりは田舎者という印象が強い。戦い慣れしている様子もない。
商人の使い走りといったところだろう。
(よし、ターゲットはこいつだな)
今夜はまともな食事にありつけそうだと、少年は笑みをこぼした。
◇◇◇◇
「やっぱ槍かなあ。色んな読み物で剣が槍に敵う道理なんてないって言うもんな。でも双剣とか、かっけーんだよなぁ……」
服や下着、バックパック、革袋や腰につける道具入れなどを買い揃え武具店へ来た大河。人やモンスターと戦うなんてことはすっかり頭から抜け、イメージだけで双剣になびいていた。イメージはあれだ、立体起動装置をバシューンってやりながらなんかくるくる回るアレだ。
「得物は長物が良いなんて言う人が多いのは確かっすけど、昔の集団戦中心の戦いとは今は事情が違うっす。陣形を整えて槍衾を作ってるうちに魔術でドカーン!っすよ。基本的には色んな武器を扱える様になっといた方がいいす。戦闘の場面では選ぶ余地がないこともあるっすから」
グリスの言葉にふむ、と大河は頷く。たしかに相手によって武器を変えるようなゲームもよく存在する。魔術の概念がある分戦闘の概念も地球通りにはいかないということかと納得する。
「武器を使うことによって戦い方を理解することは、その武器を持つ相手への理解にも繋がりますからね。そういう意味では剣や槍は押さえておくべきかと」
反対側からウォードも会話を繋ぐ。対人戦はあまり想定してなかったが、可能性がない訳ではない。ミリーは暇そうに魔術の付与された剣を眺めている。
大河はエルナたちと魔族との戦いを頭に思い浮かべる。
(俺が『星』かはわかんねえけど、自分の身くらいは自分で守れるようにならないとな)
あまり荷物が増えるのも何なので、とりあえず大河は剣と槍を1つずつ買おうと決める。まだよくわからないので標準的なものをグリスに選んでもらった。資金は何でも好きに、とまでは言えないまでもそれなりにある。
次に防具だが、こちらには大河は拘りがあった。鎧を纏った経験などない大河にとってはガシャガシャうるさいフルアーマーなどは逆に動きを妨げて防御にならない。
「これこれ! こういう胸当てみたいなのがいい!」
そういって銀に光る胸当てを手に取る。大河の拘り、つまりそれは格好良さ。要は武器の選択基準と変わらなかったが、見た目により影響を与える分拘りが強く出たのだ。
「おお、兄ちゃんお目が高いねえ!」
そう言って声をかけてくるのはこの武具屋の主人らしかった。
「この辺に置いてあるのは鉄ですか? 魔導青銀とかそういうのはないんですかね?」
「魔導青銀の防具だぁ? そんなもん子供の小遣いじゃ買えねぇぞ?」
大河はその言葉を待ってましたと言わんばかりの表情だ。
「予算はこれくらいで」
ドヤァな顔で布袋を店主に渡す。店主は何だこいつ、みたいな視線で大河を見るが、次の瞬間ブッと吹き出す。
「これ全部金貨じゃねえか! 防具だけで100万Zってことか!?」
「そう、いいのあるかい」
「いやこいつは驚いた。上級鍛治師の品ならともかくうちみてえな辺鄙な武具店なら大抵のもん買える金をこんな小僧が……。まあいい、上客ってなら歓迎するぜ!
そうだな、魔導青銀っても殆ど合金だ。魔導青銀比率が高い防具っていうとこの辺だが……お前さん戦い慣れちゃいねえだろ? 初心者向けではねえぞ?子供用のサイズなんかだとちゃんと合うもんも少ねえ。
高え金出すなら出来合いのもん買うよりオーダーのほうがいいんじゃねえか?」
「それはそうですな。」
後ろからウォードが顔を出す。
「タイガ様は資金も豊富ですし、貴重な金属もお持ちです。 それらを持ち込んで専用の防具を作れば、戦いに不慣れであるのを補って余りある防御力が得られます」
「あーあの魔導青銀とかオリハルコンを持ち込んで武器や防具にしてもらうってのもアリか」
武具屋の主人の血相が変わる。
「オ、オリハルコン!?」
「あ、オリハルコンとかってやっぱ珍しい?」
実際大河が読む書籍におけるオリハルコンは希少金属という扱いはほぼ同じだが、拳大の鉱石でさえ売れば一生遊んで暮らせると言ったレベルから、かなりレアなめっちゃ硬い金属程度の扱いで終わるレベルなど、まちまちなのだ。その為大河はどれくらい価値があるものか測りかねていた。
ちなみにルーニーは洞窟を探検してたら見つけたと言っていた。彼は意外とアウトドアなタイプだった。今は丸っきり引きこもりだが。
「オリハルコンでできた武器や防具など、私は御伽噺でしか聞いたことがありません。精錬法を知る者だって世界を見渡しても、恐らく一握りでしょうな」
ウォードの言葉に武具屋の主人も目をかっ開いてコクコクと頷いている。
「お、俺もオリハルコンなんて合金の素材に使った例でさえ扱ったことねえよ。何百、いや何千万Zとかでも買えるもんじゃねえぞ!? ……ほ、本当に持ってんのか……?」
「たぶん」
「たぶんておめぇ……」
呆れと驚きが店主の顔から伝わる。そしてそれは驚きを振り払うかのように、呆れを強くした。
「もし本当にオリハルコンなんかをまともに使いたかったら、上級鍛治師、なかでも3つほど確実なアテがあるから、そっちに行け。
1つはサーグヴァルト帝国の王都にいる火神の『星』ラグス・ダイグスバーグ。間違いなく世界一の鍛冶師だ。今じゃ皇太子に飼われて「死の使い」なんて呼ばれちゃいるがな……」
「火神の『星』?」
思いもかけず、エルナが探していたものと同じ言葉に突き当たる。
「ああ、火と鍛治を司る神に祝福を受けたそうだな。古くから代々続く『星』の名家だ」
「『星』ってのはそんなにすげえもんなのか?」
「そりゃあな。お前も小さい時にお伽話を聞かされなかったか? 神々の化身みたいな存在だってよ。戦の歴史を変えたといわれるペンドラゴン王や、最近だと黒死病から人々を救った医神の『星』ミュヘル・ダナーンとかな。どいつもこいつもバケモノか偉人ばっかだよ」
(あ、これやっぱ俺じゃないな)
安堵しつつ、自分がエルナの求めている存在でないことに少しだけ落胆している自分がいた。
(いやいやいや、そんなガラじゃねえだろ。
俺は偉人になりたい訳じゃない。 この世界を楽しめればいい)
「話が逸れちまったな。あとはガリシア王国にあるウェールバート大学校、これは学術の『星』のやってる世界一の教育機関だ。世界一の研究機関でもある。金属の扱いならそこの冶金研究者に渡せばどうとでもなるだろう。鍛冶屋も腕利きが揃ってる。多少頭でっかちだがな!」
(また『星』……。)
大河は少し億劫で憂鬱な気持ちを押し殺す。この店主は完全に善意で教えてくれているのだ。
「最後にユグドラシルのドワーフ連中だ。あそこは古代の神の武器を打ったって伝説の一族が今も鍛冶屋をやっている。あいつらならオリハルコンの扱いはお手のもんだろう。ドワーフにしか伝わらない技術は多い。ドワーフはこの国にもかなりの数いるがな、やはりユグドラシルの鍛冶屋が一番有名だな」
「ドワーフ!! やっぱ鍛治って言ったらドワーフだよなぁ!!」
大河は内面から湧き出る感情を押し潰すかのように、明るく振る舞う。
「変わりもんも多いがなドワーフは! まあ、機会がありゃ頼んでみるといい。ユグドラシルのドワーフは人間嫌いだなんて言われてるが、根っから悪い奴らじゃねえさ」
「ありがとうおっちゃん。武器や防具のいいやつはオーダーで考えてみるよ。とりあえずそれまでの繋ぎ……っちゃ悪いか。軽くて動きやすいいい感じのヤツを見繕ってくれるかい?」
店主はあいよっ!と威勢良く了解すると、店内を見回し、いくつか大河の目の前に出しては説明を加えていった。ブランド品という概念もあるそうで、色々と小話も教えてくれたのでいい買い物ができそうだ。
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