ルーニーがナントカ旅団かなにかの団長みたいなことを言い出した
自分の作品が誰かの目に届いているのか、とても不安になりますね……。
みんなこういう気持ちと戦ってるのだろうか。しゅごい。
「あと価値がありそうなのはこれとか。
妖精銀の……これはイヤリングだね。ちょっとした仕事の対価にエルフから貰ったやつ」
ルーニーはどこから出しているのか、ポイポイっと貴金属や宝石を積み上げる。
グリスはあんぐりと口を開け、ミリーは気を失いかけて魂が口から出ている。
「こんな大きな魔宝石が……こんなに……。魔導青銀に妖精銀にこれはまさかオリハルコンにヒッヒヒヒ、ヒヒイロカネ……!?」
「これほどの透明度の魔導水晶、精霊の妙薬といい……魔道具屋が開けそうですな」
エルナとウォードも顔が引きつっていた。ライルに至っては「僕は何も見ていません!」としか言えない人形みたいになってしまった。
かくいう大河も明らかに輝き方がおかしい宝石なんかを見て正気を失いかけていた。
「えへへ……サファイアがひとーつ、ルビーがふたーつ、エメラルドがみーっつ……えへ、えへへ……」
「タイガ様! しっかり!」
「いやはや、覚悟はしていたのですが……」
光り物はつい集めてしまう、コレクターなんだよね、とルーニーは笑っていた。
「カラスかドラゴンかお前は」
「むむ、失礼な。あんな風情を理解しないデカいトカゲなんかと一緒にしないでよ!」
ぷんすか、と怒るルーニー。切れどころがよくわからん。カラスはええんか。
「あ、これとこれとそれは売らないで。腕の良い魔導技師がいたら、『依り代』にしてもらうかもしれないから」
「腕の良い魔導技師でしたら我が国にもおりますが、ガリレアに立ち寄ることがあればそちらでも良いかもしれません。これだけの魔宝石を見たら向こうから飛びついてきそうです」
エルナが苦笑いする。『依り代』とは精霊にとっての家のようなものらしい。この世界に形を留めるだけで、実はかなりのマナを消費することになるんだとか。なので暇な時は依り代の中で漫画でも読んでたほうが省エネだよね、とはルーニーの言葉である。
ルーニーのマナ量に耐え切れるだけの魔宝石は相当限られるらしく、たしかにさっき取り置いた宝石はなんか威圧感というかピリピリ来るものを感じる。
「で、これらはどれくらいの価値がありそうなんだ?」
エルナのほうを見る。
碧玉の眼は目の前のエメラルドと同じ様にキラキラと輝いていた。
「ちょ、エルナ……大丈夫?」
「ハッ! 私としたことが!! だ、大丈夫です!! ヨダレじゃありませんこれは!!」
何も言っていないのに口元を拭い始めた。
そして手元の宝石をひとつ取り、その価値を語る。
「恐らくこのアステリズムのルビー1つで100万Zは下らないかと……。これは宝石の中でも魔宝石と呼ばれる、マナを豊富に含む鉱石です。この純度であれば相当に強力な護符や護石を作成できます」
「こんな小さい石で……そんなにすんのか……」
指の関節1つ分ほどの宝石の価値に驚愕する。
護符や護石は、恩恵を持たない者も魔術的補助を受けれるよう、魔宝石などの鉱石に術を付与し、キーワードや鉱石そのものを破壊することでその魔術を使用可能とする、魔道具の一種である。
高価なものになると付けているだけで魔法や状態異常への耐性を常時得ることができる"加護"と呼ばれる高位付与魔法をも帯びさせることが可能である。
ちなみにそれひとつで効果を発揮するものが護符、複数個使用し、魔法陣などを形作ることで更なる効力を発揮する類のものを護石と呼んでいる。
武器や防具に直接魔術を施すことも多いらしく、それゆえ魔宝石は非常に価値が高い。
「こ、こんなの売ってしまうのもったいないですよ!! お金はしばらく私たちが貸しますので、これらは必要な時まで持っていたほうが……!!」
美しい翡翠の眼は今や完全にZになってしまっているエルナの言葉に全員が同意する。
しかし、「借金はするんじゃない!」と母親に育てられた大河も譲らず、結果的にいくつかの貴金属と魔力のない普通の宝石だけ売ることにした。
ルーニーは軽くはいよー、と言い、すぐに漫画にまた戻ってしまった。ルーニーにゴメンと大河が謝ると、「一通りキレイだなーって愛でたらあとは物置に放置だったからむしろ丁度いい」のだという。団長かお前は。
確かに貨幣の必要性がないルーニーにとってはその程度の価値そうなのだろうし、記憶という対価を払ってはいるものの、これだけの宝石となると流石に罪悪感が芽生えてしまう大河だった。
(それを売るなんてとんでもない、か。イベントアイテム扱いだな)
◇◇◇◇
「それでもコレか」
金貨が100枚入った布袋が5つドサっと目の前に置かれる。
(この世界、財布とかどーなってんだよ)
「小僧、景気がいいなぁ! お使いかい?」
と言いつつ声をかけてきたのは商業ギルドの小さいオッサンだった。ガハハと笑うが別に侮蔑の意味がある訳ではなさそうだ。
(小人族とか大地の精とか、そういうのか?)
「この辺りはふてぇ輩も増えてっからな! ウチを出た瞬間ブン取られないようにしろよな! なんならウチの用心棒を貸すぜ?」
なんだ営業ね、と思いつつ大河は笑顔を作る。
「ううん、強いおじちゃんと一緒に来てるからヘーキ!」
可愛子ぶりっ子でチラリと目をやると、商業ギルドには似つかわしくない爽やかゴリマッチョマンことグリスが立っていた。
なるほど、と言った風で小っちゃいオッサンは気をつけな、とだけ声をかけてくれる。
「あのね、オッサンって年じゃないんスよ、俺は」
「俺くらいの奴から見たらオジサンだろ?」
大河がグリスに近づくと先程の話が聞こえていたらしく文句があるようだった。
日本にいた頃、甥や姪ができておじさんと呼ばれていた大河にとって、わかっちゃいるけどそれが飲み込めない年代の気持ちはよく理解できる。でも、10代からしたら20代そこそこ以上なんてのは区別することなく一律おっさんなのだ。
「へぇ〜え。 じゃあワタシも『オバさん』って訳ね」
バツが悪そうにしているグリスの影からミリーが出てくる。その額には青筋が浮いており、マジでキレちゃう5秒前と言った様子だ。
「やだなぁ、ミリーなんてまだ10代かと思ってたよ。見た目年齢ってのもあるからね」
「あらヤダ、そんな若く見えちゃう!?」
「うん、初めはエルナと姉妹かと思ったよ」
「えーエルナ様と私とじゃ離れすぎだよー!! もうもう、見る目ないなぁ!!」
とか言いながらミリーはご機嫌だ。バシバシ大河を叩くせいで大河の右肩は左肩にめり込んでしまいそうな程だった。
これでも大河は日本にいた頃大勢の女性社員とうまくやってきたのだ。自分的には言い過ぎかなと思うくらい褒める、さも当然といった風に。すると向こうはお世辞だとわかっててもやはり悪い気はしないのだ。
(フッ、チョロいなミリー)
「さて行きましょうか。旅に耐えられるだけの装備を用意いたしましょう」
「おー!!」
ちなみにエルナとライル、ルーニーはお留守番だ。なんでもエルナは調べたいことがあるらしく、まだ病み上がりのライルと宿でお留守番だ。ルーニーは例の如く漫画を読んでいる。ちょうどいいところらしい。仕方がないので残りの面子で買い物に来た訳だ。
(エルナとキャッキャウフフしたかったけどな……まあ急ぐこともないか。
ルーニーと話したアレはどうすっか……)
ウォードが先導し、商業ギルドから服飾店、武器防具屋へと向かう大河たち。
それを影から眺める怪しい影に、大河は気づいていなかった。
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